表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/84

5

 本当は、炎の維持からやりたい。エルフリートは危険を承知で本来の順番ではない方法を提案した。


「それぞれ、完成した姿を思い浮かべてみて。しっかりと思い浮かんだら、呪文を唱える。まずは生み出すところから始めよう」


 炎を維持する。それは意外と難しい。理由は簡単だ。普段は炎の魔法を使う時に、維持したりしないからである。攻撃魔法ならばまだしも、一般家庭で炎を魔法で生み出す時は何かに火をつけたい時くらいだろう。

 燃えるものに引火させてしまえば魔法で維持しなくとも良くなるのだから、それをあえてわざわざ炎の魔法を使い続ける意味はない。

 だが、彼らにはそれをやらせなければならない。炎の勢いを一定に保つ練習は時間がかかる。時間がないし、結界で大惨事は防げる。

 ――という事で、思い通りの姿の鳥を生み出すところから始めることにしたのだ。


「頭の中で思い描けなければ、実際に紙に絵を描くのも良いね。とにかく、ちゃんと想像できるようにするのが大切」


 二人は目を閉じてじっと考え込んでいる。二人の集中力の邪魔にならないよう、エルフリートは黙った。イアンが微動だにせずいる隣で、メアリーが目を開いた。


「イメージが固まらないので、少し絵を描きたいです」

「はい、どうぞ」


 手を挙げ、小声で声をかけてきた彼女を結界の外にあるテーブルへ案内する。


「魔法を使う時は結界の中でやってほしいから、また声をかけてね」

「はい」


 頷くなりすぐに己の世界へ没頭したメアリーに笑みを送ったエルフリートは、結界の中へ戻った。

 結界の中では、悩む少年と青年がそれぞれ自分と戦っている少年にそっと声をかけると、彼はまだ考えがまとまっていないようだった。


「どんな炎の鳥にしたいの?」

「えっと……」


 ヒントを渡すつもりで質問を投げる。リースは言葉に詰まってしまった。


「さっきは輝けって言っていたよね。どんな感じに輝けば良いと思った?」


 輝くという言葉が炎に込められた時、様々な姿が想像できる。はじけるような炎が輝いて見えるのか、本当に眩しいのか。

 エルフリートはさっき、激しく燃えさかるようでいて、かつ単純に光量の多いものを想像し、デモンストレーションに使用した。


「きらきら、チカチカ、って感じで」

「蝶の鱗粉みたいな?」


 エルフリートの問いに、リースが細かく頷く。この会話を皮切りに、話が広がっていく。


「そう、羽ばたくと火の粉が散ってキレイなんだ」

「へぇー」

「鳥の翼は、夕焼けっていうよりも朝焼けって感じで……」


 リースはそう言いながらどこか遠くを見つめている。彼の脳内には、しっかりと炎の鳥の姿が描けているようだ。


「どんな風に呼んだら、来てくれそうかな。考えてみてごらん。そうしたら呪文が思い浮かぶと思う」


 あと少しすれば、リースはエルフリートの事を呼ぶだろう。その間に再びイアンの様子を確認しよう。エルフリートはリースに一声かけて、イアンの方へ移動した。

 イアンは、炎の鳥を出現させようと苦心している最中だった。


「――らす松明、人智の恵み、炎の鳥!」


 ぽすっ。

 エルフリートの目の前に、何かが浮かび出そうになった。結果を言えば、何も浮かばなかった。


「くそっ」

「どんな鳥を思い浮かべてるの?」


 悪態を吐くイアンに話しかけると、彼はあっと小さな悲鳴を上げた。うん、ごめん。驚かせちゃって。


「穏やかで、あたたかな存在を思い浮かべてるんです」

「そっかぁ……」


 イアンの言葉は抽象的だった。抽象的な言葉を形にするのは難しい。それを理解しているエルフリートが彼に送る事のできる言葉は一つだけだった。


「それなら、優しい気持ちで呪文を唱えると良いよ。叫ぶような呼び方じゃなくて、語りかけるような感じで。

 穏やかな鳥を呼ぶなら、怯えさせないようにしないとね」


 今回の鳥は、ただの魔法の炎でしかない。だが、イメージする事が一番重要である。だからこそ、よりしっかりとしたイメージを抱く為の工夫が必要なのだ。

 エルフリートは、それを導く手伝いをする。


「……闇夜を照らす松明、人智の恵み、炎の鳥。来たりて我らを照らせ」


 ぽう……っ。炎の鳥が産まれる気配を感じたエルフリートは、剣を抜いて炎の鳥のとまり木を用意した。

 エルフリートの剣に、炎がまとわりつく。イアンが生み出した魔法の炎だ。エルフリートは、イアンが集中しているのを邪魔しないよう、沈黙を守りじっと待った。

 剣の周囲を戯れるように舞う炎。エルフリートは、上手くいくように祈る。

 だが、その炎は鳥の形をとる前に霧散した。イアンの集中力が切れたのだ。


「あぁー…………無理」

「惜しかったねぇー」


 イアンは悔しそうにしているが、エルフリートはその姿に確かな手応えを感じていた。


「この調子でチャレンジし続けたらうまくいくよ。頑張って!」

「……分かりました。方向性は掴めた気がします。やってみます」


 イアンが頷くのを見て、エルフリートは彼の肩をぽんと撫でたのだった。

2025.4.17 一部加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ