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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

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4

 ロスヴィータが引率についた二人が準備に出かけるのを見送ったエルフリートたちは、このまま練習を始める事にした。もちろん、この部屋が燃えないようにエルフリートが結界を張っている。


「呪文はどうしますか?」

「好きな言葉で良いよ。自分がイメージしやすいと思ったものなら、何でも大丈夫。考えてみてごらん」


 ちょっと意地悪かと思ったが、これも勉強の一つである。それに、今回はオリジナルの魔法だ。つまり、定型文を与えられるがままにやっても、うまくいくとは限らない。

 少しでも成功する確率を上げたければ、魔法を行使する本人が「これだ!」と強く思えるものにした方が良いのだった。

 突然振りかかってきた難しい課題に、三人は考え込む。彼らは話し合ったりするでもなく、ただ無言で考え続けた。相談しても、良いんだけど……まぁ、相談しない方がうまくいく子もいるかもしれないし。

 エルフリートは誰かが顔を上げるのを、辛抱強く待つ。


「輝け炎の鳥!」

「はぜろ、劫火の鳥」


 突然、少年と少女がほぼ同時に元気よく手を挙げながら提案してきた。思いついたのは良い事ではあるが……。


「うーん、ちょっと物騒かなぁー……」


 派手に何かをやらかしそうな言葉に苦笑する。

 彼らの言葉やその勢いから想像できるのは、室内で行うには過激な演出だった。


「もっと柔らかな言葉はどうかな。今のだとこんな感じになっちゃう」


 エルフリートは先ほどの言葉を思い返しながら二羽の鳥を作った。

 片方は眩しいほどの光を発する鳥、もう片方はちろちろと周囲を舐めようとするおどろおどろしい火が踊る鳥である。

 これを見せられた観客の反応は、どちらも「わぁ、すてき!」というよりは「遠くからで、良いかな」といった感じになるのが目に浮かぶ。


「うわ、ちょっと近付きたくないかな」

「だよねぇ」


 三人の内、一番の年長である青年が首を横に振ると、二人がそれに同意する。まあ、そうだよね。これはちょっと危険だと思う。

 これが発表会に採用された暁には、ずっとついていなければならなくなる。それくらい危険なものになるだろう。そうこうしていると、すっと右手が挙がった。まだ提案していない青年である。


「闇夜を照らす松明、人智の恵み、炎の鳥。これくらいならどうですか?」

「一般的な魔法の呪文に近い構成だね。良いと思うよ。イメージもしやすいし」


 自分よりいくつか年上だろう彼に、エルフリートはにっこりと微笑みかけた。彼は勉強する意味が分からないと言っていたっけ。

 彼は魔法に関する知識が他の二人よりもあるからこそ、そんな風に思ったのかもしれないな、とエルフリートは想像した。


「えっと、ごめん。今更なんだけど、名前なんだっけ?」

「イアンです。で、こっちがリースとメアリーです。ボールドウィン副団長」

「ありがとう、イアン。イアンはこのままで良いと思う。二人はどうする?」


 できれば別の呪文を考えてほしい。エルフリートはそんな期待を込めて二人に視線を送った。


「私、世界を照らす灯火にします」

「僕は……イアンのが良いなと思ったんだけど。まねはダメですよね?」


 メアリーはイアンの考えた呪文をヒントに、ワンフレーズで完結する呪文を考えた。その一方でリースは人のアイディアを聞く事で、思い浮かばなくなってしまったようだ。

 リースは素直な子なのかもね。エルフリートはうんうん、と頷きながらも、彼に一押しした。


「イアンが良いって言ってくれたら同じでも良いよ」


 一般的な魔法に定型句があるのは、人間の思い込みを利用する為だとエルフリートは考えている。長い間を経て「この呪文を使えばこの魔法が使える」と刷り込まれているのだ。魔法の行使はイメージする事が重要であると気付いた先人の知恵だと言えるだろう。

 魔法が使える人間は、割合としては少なくはない。自由自在に使いこなせる人間となると、一気に減るが。


 生活に使える魔法は、かなり普及している。生まれた時から周囲がそういう空気であれば、特定の呪文を使えば特定の威力の同じ魔法が使えるのだと勝手に頭が認識するようになる。

 その思い込みが、魔法の威力や効果を一定に保っているのだ。


「でも、ちゃんとイメージできなければ、どんな呪文でも意味はないからね。途中で何か思いついたら、そっちの呪文に切り替える事」


 イアンの呪文は、イアンが自分が作りたい炎の鳥を想像する事で思い浮かんだ言葉だ。それをリースが利用するとなると、呪文から姿を想像するという事になる。さっきエルフリートが実演してみせた二羽の鳥と同じ話だ。

 だが、これは意外と難易度が高い。まず、最初の段階「この呪文を使えばこの魔法が使える」が存在しないからだ。

 エルフリートの意図を理解したかは分からないが、少しだけ考え込んだリースは、顔を上げると意志の籠もった目でエルフリートを見上げ、口を開いた。


「もう少し考える時間をください。騎士になるなら、これくらい思いついても当然だと思うんで。二人は先に進めててください」

「うん。待つよ! 何かあったらすぐに声をかけてね」


少しの間に成長した彼らに、エルフリートはこっそりとエールを送るのだった。

2025.4.5 一部加筆修正

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