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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

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66/84

3

 しばらくして、おずおずと手を挙げる者がいた。一番の年長さんかな。エルフリートはこっそりとそんな事を思いながら「どうぞ」と促した。


「炎で鳥を生み出し、操るというのはどうですか?」

「鳥かぁ」


 鳥自体はできなくはない。だが、その操作となると難易度が高すぎる。


「全知の神よ、美しき幻を奏でよ」


 エルフリートは幻影の魔法を使い、彼のイメージの具現化を試みる。エルフリートが作り出したのは、炎をまとったかのような鳥である。それが翼をぱたぱたと動かして縦横無尽に飛び回る。

 火の粉を散らす様が幻想的な美しい鳥は、優雅に飛び続けている。五人がぽけーっとその姿を楽しんでいる間に、エルフリートはロスヴィータに声をかけた。


「ロス、どう思う?」

「そうだな……」


 ロスヴィータは少し考えるそぶりを見せ、それから真剣な眼差しを彼らに向けたまま口を開いた。


「少し、カリキュラムの見直しをする必要があると感じたな。騎士として、どんな心構えが必要なのか。理想の騎士に近付く為に必要な要素が何なのか。各カリキュラムの目的が何なのか、そしてそれを学ぶ事でどうなるのか。

 具体的にビジョンを見せるべきだ」


 エルフリートが聞きたかったのは、そこまで大きな話ではなかった。このメンバーについて、またこの課題の方向性について聞きたかっただけだった。

 だが、それは伝えず、ロスヴィータの言葉に頷いた。

 大きな視野で物事を捉える能力は、トップに立つ人間として大切なものだ。エルフリートはそれをじゅうぶん承知しているからだった。


「なぜ必要なのか、そこが分かれば意欲に繋がるのだと、フリーデと彼らのやりとりで気付かされたよ」

「そっかぁ。確かに堅苦しくならない程度に、そういう話を聞かせる場があると良いかもね。

 ところで、彼らの課題は大丈夫だと思う?」


 ロスヴィータの言葉をさらっと流し、質問し直せば、彼女は小さく首を傾げた。視線の先には未だに天井の辺りをひらひらと器用に飛び続ける幻影の鳥がいる。


「どうだろうか。少なくとも私は、この室内を炎でできた鳥が旋回していたら火事が怖い」

「あはは、確かにぃ。でも、そこは結界でカバーでしょ。もしくは屋外の企画に変更するか」


 火事は怖いね。実際、さっき黒こげになりかけたし。ロスヴィータの危惧は当然の事だった。


「だが、屋外の企画は増やせないな……爆発シミュレーションの企画がある。彼らの使用範囲を減らすと、危険度が増してしまう」

「あれは失敗する事も考慮すべきだもんね」


 エルフリートは頷いた。


「室内で炎を扱う方がインパクトはあるよ。大変だけど不可能じゃないし、室内で手の凝った炎を見る事ができたら、きっと全員が驚くと思うな」

「既に私は驚いているよ」

「ふふ……私もあれはびっくりしたぁ」


 この部屋に入ろうとした瞬間の事を思い出し、エルフリートは炎の鳥を飛ばす案はやめようと思い直した。優雅な姿を見せていた幻影を消す。


「鳥を飛ばすのは難しくても、鳥を枝を模したものにとまらせる事はできるようになると思うよ」


 五人はそれぞれ顔を見合わせると、しっかりと頷き合った。


「炎の鳥に、手を近付けても大丈夫ですか?」

「触れなければ大丈夫。やけどしちゃうから、それだけは気を付けて。ちょっと離れてねー」


 エルフリートはそう告げ、剣を抜く。

 そして今度は本物の炎で鳥を生み出した。


「こういうのなら比較的安全だよ」


 すうっと近付いてきた一人がエルフリートの剣にとまる鳥に手を伸ばした。


「わぁ、すごい……あつっ」

「ちょっと、危ないんだってば!」


 ばっと剣ごと鳥を遠ざける。エルフリートの勢いに負け、鳥が儚く揺らいだ。エルフリートは伸ばされた腕を、空いている手で掴む。


「……気を付けてって言ったそばからー」

「すみません、つい」

「やけどは……してないみたいだね。良かった」


 少し赤みを帯びているもののやけどではなく、血行が良くなってのものだろう。エルフリートは念入りに確認してから、その手を離した。強く掴んでしまったせいで、エルフリートの手の跡がついてしまったかもしれない。

 そこまで確認するのは気が引けたエルフリートは、心の中で跡がついてたらごめんね、と謝った。


「はい。今度こそ、気を付けてね」


 エルフリートは五人を見回して、それぞれが頷くのを認めてから剣を差し出した。今度は接近しすぎるという事もなく、慎重な様子で炎の鳥を観察し始める。

 本物の炎に照らされて、彼らの顔が暖色に色づいた。柔らかな光のグラデーションに彩られながら、きらきらと輝く目、感激に引っ張られて上がる口角、年相応の顔が彼らに浮かぶ。

 自分も同年代なのだという事をすっかり忘れ、エルフリートは微笑ましい気持ちになっていた。


「じゃあ、まずは炎を維持する練習からだね。発表会間近だから、厳しくいくよ。魔法が使えない二人には、炎の鳥がとまれる場所の準備をお願いして良い?」

「フリーデの剣と同じか、それ以上に炎に強い素材であれば良いか?」


 エルフリートの言葉に二人が頷き、ロスヴィータが素材について確認してくる。魔法が使えない彼女はここで待機していても時間がもったいない。引率役を買って出てくれるのだろう。察しの良い彼女に感謝しつつ、エルフリートは頷き返したのだった。

2025.3.29 一部加筆修正

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