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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
大騒ぎの後始末

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15

 アイマルの性格は置いておこう。いったん思考をクリアにする為、エルフリートは深呼吸をした。そして通る声で目の前の雑務に集中する。


「賢き神よ、我らに平坦な地を!」


 アイマルによって粉砕された瓦礫は、エルフリートの魔法で一気に地均しに使われた。魔力は消費するが、人の手で地道に行うよりはよほど良い。元通りとまではいかなくとも、これなら安全に歩く事ができる。


「さすがだな、フリーデ」

「へへ」


 ロスヴィータがエルフリートの肩をぽんっと撫でる。自然と彼の口角があがった。エルフリートはそれをごまかしたりなどはせず、満面の笑みで振り返る。


「アイマルが瓦礫を壊してくれたら、こんな感じでやれるよ。お願いしても良い?」

「フリーデが手伝ってくれるならな」

「魔力の方は大丈夫?」


 簡単に承諾してみせる彼に、エルフリートは首を傾げる。さっきまで魔法を駆使してカールスと戦闘していたのに、まだ平気なんだ。彼の魔力の多さに舌を巻く。

 アイマルの魔力量は、エルフリートのそれを凌ぐかもしれない。


「ちょっと全員下がってくれ! 魔法を使う!」


 ロスヴィータが事故を防ぐ為、作業中の騎士たちを下がらせた。全員が作業を中断し、エルフリートたちの方へ集まってくる。目の前の空間に人間がいなくなったのを確認したアイマルは口を開いた。


「プルバリザシオン」


 そう彼が一言呟くと、周囲の空気がふわりと動いた。先ほどの反応を裏付けるかのように、あっという間に瓦礫が粉砕されていく。早業であった。


「フリーデ、頼む」

「はぁい!」


 建物を半分近く破壊する片棒を担いだ人間と同一人物だとは思えない、正確で広範囲の魔法だった。何をどうするのか。魔法を扱う人間は結果を正しく、具体的に想像する事が求められる。

 効果の範囲、威力、すべてをしっかりと思い浮かべる事ができなければ、魔法を使いこなす事などできないのだ。

 エルフリートは息を大きく吸い、再び整地の魔法を使った。アイマルは普通に呼吸をするかのような自然さでやってのけたが、簡単ではない事をエルフリートは知っている。

 舗装された元の姿を思い浮かべながら、己の魔法の成功を祈る。


「やはり早いな」

「あたしの出番はなかったねぇ……」


 ロスヴィータの感心する声や、バルティルデが揶揄する声はもちろん、己がしてきた作業は何だったのかと嘆く声から雑務が減って喜ぶ声まで、様々な感想が飛び交っている。


「これ! これ、どうやるんですか!?」

「後で解説を交えて教えてあげるから勝手に試そうとしないでね。()()()()を粉砕しそうで怖いから」


 興奮の声を上げる騎士へは、マロリーが面倒そうに、しかし真剣なまなざしで声をかけていた。

 ……うん。まあ、これを人間に向けてうっかり使おうものなら大変だもんね。

 エルフリートはうっすらと疲労感を覚えながらも、周囲のそんなお祭り騒ぎじみたにぎやかなやりとりに笑顔を見せるのだった。




「さて、本件だが……」


 執務室に呼び出されたエルフリートとロスヴィータは姿勢を正し、騎士団総長と向かい合っていた。もちろん、その斜め後ろには副総長が控えている。

 彼らの表情はなく、内容を想像することができない。いや、内容は分かっている。エルフリートは内心ではひやひやしていた。


 カールスの一件で、エルフリートたちが起こした騒ぎは決して小さなものではなかった。爆発騒ぎは総長であるヘンドリクスも把握していたが、建物をひとつ駄目にしてしまった。

 これはエルフリートにとって想定外の出来事であったが、エルフリートたちの責任である。

 罪状がほぼ確定した事、騒ぎが大きくなってしまった事、カールスが私怨からエルフリートたちに正直に話をする気がない事を加味した結果、別の騎士団預かりになってしまった。

 最後まで責任を持ってやりきる事ができなかったのは悔しいが、当然の結果だと理解している。それで、この呼び出しである。緊張しないわけがなかった。


「ひとまず、労いの言葉を。お疲れさま、ご苦労だった」

「はい」

「ありがとうございます」


 ヘンドリクスは大きく頷いた。だが、労いの言葉から、と言うからには続きがあるのだろう。まだ安心はできない。普段楽観的に考えてしまいがちなエルフリートにだって、それくらいは分かる。

 ヘンドリクスがケリーに視線を送る。すると、それを受けたケリーは、ヘンドリクスにそっと箱を差し出した。小さな箱は、見覚えのあるものだった。

 彼が小箱を二人に見せつけるように振ると、かたかたと小さな音がする。


「この中に入っているものの想像はつくな」

「はい」


 エルフリートとロスヴィータは同時に肯定した。カールスが用意した魔法具の内の一つ、それもスイッチ代わりに使われたものだ。


「実は、これは王族の為に造られたものの一つだ。公表されてはいないが、盗難にあっていた」

「……」


 エルフリートはロスヴィータに顔を向ける。彼女は戸惑ったようにエルフリートを見つめ返したのだった。

2025.1.29 一部加筆修正

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