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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
大騒ぎの後始末

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 ぴしりと亀裂の入る音がした。二人の戦闘に耐えきれず、崩壊しようとしているのが分かる。アイマルとカールスが意図的に床を破壊しようとしたのではなかったのだ、と理解すると同時に、崩壊するほどの衝撃を起こしながら戦い続けている二人の能力の高さを改めて実感する。

 来る――!


「賢き神よ、荒れ狂う者らを治める為、その繊細なる力を以てこの空間を封ぜよ!」


 エルフリートは絶妙な力加減で結界を張った。今回は、衝撃吸収と透過不可の魔法である。床――エルフリートにとっては天井である――が割れる原因となったであろう爆発が起きている真っ最中であった。

 結界の範囲は床や壁の表面一枚まで。落下してきた二人が睨みあいながら着地する。天井がエルフリートが結界に含めていた床を削り、粉塵をまき散らす。

 視界の悪い中、エルフリートはブライスの動きを予想しつつ、カールスに狙いをつけて駆け出した。


「熊の女神よ、最強の狩人よ、束縛せよ」


 アルフレッドの姿から本来の姿に戻っていたアイマルは、カールスと接近戦をしている最中であった。

 このままでは二人同時に捕縛するしかない。エルフリートはブライスが直前にアイマルを回避させてくれる事を信じ、拘束用の魔法の縄を繰り出した。

 カールスと短剣で応酬を繰り返すアイマルにブライスが体当たりをした。不意をつかれたアイマルは、ブライスに連れさらわれるようにしてエルフリートの視界から消える。

 いける!

 エルフリートはその瞬間に縄をしならせた。


「なっ!?」


 獲物をかっさらわれて動揺していたカールスの斜め後ろからエルフリートの縄が襲いかかる。エルフリートに気づいたカールスが振り返って短剣を投擲しようとするが、その手も巻き込むようにして縄がぐるりとカールスを何周も回る。

 魔法の縄でぐるぐる巻きになったカールスは、文字通り手も足も出せない状態である。彼は恨めしそうにエルフリートの方を見た。


「縄抜けは無理だよぉー」

「こんな結果になって残念だったな」

「大口を叩くだけあって、実力はあったようだが……過信しすぎたな」


 似たような姿を見た事があったような。エルフリートは既視感を覚えながらカールスを見下ろした。三方向から見下ろされる事になったカールスは非常に虫の居所が悪そうだ。

 しかし、彼の場合は自業自得である。


「……解説が必要?」

「いや、いらない。今度こそ現行犯逮捕だろう? つまり、ゲームオーバーだ」


 不機嫌そうな態度とは裏腹に、彼の言葉は淡々としている。元々頭の回転が速い男である。己の状況を巻き返す事が難しいと冷静に判断したのだろう。

 今までは自分の描いたシナリオ通りに進んでいたから余裕もあったし、多少イレギュラーな部分があっても軌道修正する事はできた。だが、それも終わりである。


「ほら、連れて行けよ」


 顎をくい、と動かして尊大に言う姿は、やはりアルフレッドとは全然違う。カールスは、アルフレッドの事をどうするつもりだったのだろうか。エルフリートは未だに空かされていない行動の動機について考えるのだった。




 カールスを正式に牢へ入れる事に成功したエルフリートたちは、カールスとアイマルによって破壊された塔の後片づけに強制参加させられていた。


「アイマルゥゥ」

「……久々で、ちょっと力加減がな」

「嘘だろう」

「……普段の訓練の時、ずいぶんと俺には加減してくれているようだな」

「……さすが、隣国の強者は違うわね」

「ははっ、傭兵やってる時に敵として現れてくれなくて助かったわ」


 話しかけてくる人間のほぼ全員からじっとりとした視線を受け、アイマルは視線を逸らした。にやにやと笑んでいるのは、バルティルデくらいである。ほとんど今回の件に関わっていなかったにも関わらず駆り出された事を、全く気にしていないようだ。

 新人の女性騎士団員たちは、どんな顔をして良いのか分からないといった様子で、むしろアイマルの事を見ないようにして作業に集中している。


「手間をかけさせて悪かった」

「最初からそう言えば良いのに」

「素直じゃねぇなー」


 エルフリートとブライスにいじられ、小さく鼻息を飛ばした彼は、小声で詠唱して周囲の瓦礫を粉砕した。しっかりと制御された魔法に、周囲が感嘆の声を上げる。


「アイマルが一人でやるのはかわいそうだから、ちゃんと手伝ってあげるよ」

「お前がこんなに反撃すると思ってなかった俺たちのせいでもあるしな」


 アイマルがとことんやる性格だという事を失念していたのは、確かに作戦を立てたエルフリートたちの失敗だった。彼が生き残った時の姿を見ていたのだから、自ずと想像がついても良かったのだ。

 だが、それは彼に言う言葉ではないとエルフリートは理解していた。アイマルがそう動かざるを得ない状況にしたのはエルフリートである。その元凶である自分が、その話をすべきではない。

 口に出しかけたエルフリートは、うっかりやらかさないように、アイマルに背を向けた。

2025.1.29 一部加筆修正

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