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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
大騒ぎの後始末

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13

 風を切る音や男たちの息づかい、何かにぶつかる音。視界を塞いでいるエルフリートの耳に、様々な音が届く。何が起きているのか把握できないのがもどかしいが、エルフリートがここで目を開けるわけにはいかない。

 ブライスを信じて待つだけだ。おそらく、カールスはアルフレッドをどうにかする方に集中したいはずだ。そうなれば、気絶した相手にとどめを刺す一瞬でも惜しい。タイムロスは、それだけでリスクだ。

 倒す事に時間がかかる場合は特に。


「くそ……っ、てめ……っ」


 ブライスの悪態に続くように、ひときわ大きな音が室内に響く。ブライスが投げ飛ばされたと思われる。カールスの足音が遠ざかっていく。ここでの作戦はうまくいった――そう思った彼は、ゆっくりと目を開けた。

 部屋がぐちゃぐちゃだ。どうやったらこんな風になるんだろうなぁ。この一端を自分が担った事を棚にあげ、エルフリートはブライスを探す。彼はすぐに見つかった。


「おう」

「ブライス、大丈夫?」

「まあな」


 ブライスの頬が腫れている。景気よく殴られたようだ。ぺっとつばを飛ばしそうにした彼は、直前で動きを止める。ポケットからハンカチを取り出して、そこに出した。


「口ん中切ったわ」

「血の混じった唾液なんて見たくないよ」

「ふはっ」

「もー」


 上品なんだか下品なんだかわかんない! エルフリートはぷくっと頬を膨らませる。


「とりあえず、まあ……行くか」

「うん。戦女神、熊の女王よ、獲物を追い込む速度を授けたまえ!」


 エルフリートはブライスと自分に脚力強化の補助魔法を使った。ぐ、と足に力を込めれば一気に加速する。これならば、すぐにアルフレッドの牢へ辿り着く。エルフリートはカールスがその場でアルフレッド扮するアイマルと対峙していると信じ、必死に足を動かした。




 牢へ向かえば、そこはちょっとした大惨事だった。


「……ねえ、アイマルってさ」

「良い。皆まで言うな」


 エルフリートの目の前には、牢として機能を果たす事ができなくなったであろう建物があった。


「派手にやってるねぇ」

「だから、言うなっての」


 ブライスがちっと舌を鳴らし、しかし口の中が痛んだのか顔をしかめた。


 建物の一部は内側からの爆発で大きく吹き飛んでいる。落下した壁面の下敷きになっている騎士の救出をしている姿が見受けられた。

 この規模の戦闘になるなんて、誰も想定してないよ!


「私たちは、カールスを確保したいんだけど……まずはアルフレッドを安全な場所に移動させる必要がありそうだね」

「巻き込まれて死んでなきゃ良いけどな」

「縁起でもない事言わないでよぉー」


 エルフリートの言葉にブライスがにやりと笑う。だがそれもすぐに引き締まった表情へと変わった。エルフリートとブライスは、戦闘中であろう二人に見つからないよう、ゆっくりと建物の中へ入っていった。


「見つからないねぇ」

「だな」


 戦闘中の振動が響き、視界が煙たい中、小さく息を吐く。アルフレッドが元々の場所にいない。気絶している状態の彼を、他の騎士が運び出したのであれば良いが、目覚めてどこかへ行ってしまっているのだとしたらまずい。

 エルフリートは焦る心を抑え、周囲を見回した。ずいぶんと派手に立ち回っているらしい。アイマルがいる牢とアルフレッドがいる牢を隔てていたはずの壁の一部が崩壊している。まさか、とそのあたりを改めて観察すると、足らしきものが見える。

 嘘でしょ。壁の下敷きになってるじゃん……。


「ブライス……あそこ」

「げっ」


 ブライスの気持ちが手に取るように分かる。エルフリートとブライスは穴の先を気にしつつ、それに近付いた。

 ブライスと二人で、重たい壁を取り除く。そこには案の定、意識を失った状態のアルフレッドがいた。念の為、誰かの偽物だったりしないかも確認する。本人だった。悪運の強い男だ。がれきに足が挟まれてはいたものの、胴体は無事である。

 認識阻害効果のある魔法を使い、慎重にアルフレッドを運び出す。救助活動を終えた騎士に彼を渡せば安心だ。

 何とか無事に引き渡せた二人は建物を見上げた。


「じゃ、今度こそカールスを捕まえますか」

「早く捕まえねぇと、建物がなくなっちまうぜ」


 魔法の使える騎士が、時々落下してくる外壁から下にいる人間を守る為に結界を作っているほどだった。少なくとも、この建物の現在の最上階にあたる場所には天井がない。


 戦闘しながら一階層ずつ降りて行っているようだ。勘弁してほしい。この塔は特殊な犯罪者を封じる為に作られた建物である。十階建てのそれが、今は半分になっている。ひどすぎる。

 元々アルフレッドがいた階が七階であった事を考えると、すごいペースだ。


「フリーデ」

「うん」

「この階で待機するぞ。落下してきたら、脱出不可能な結界を作れるか?」

「建物崩壊とカールス逃亡を防ぐって事だね。まかせて」


 カールスとアイマルの落下まであと少し。エルフリートは天井を睨みつけた。

2025.1.28 一部加筆修正

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