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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
大騒ぎの後始末

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54/84

8

 エルフリートが回収した耳飾りをルッカのもとへ持ち込むと、彼女はひたすら書類を書き込んでいた。扉をノックして言い声をかければ、ルッカの肩がびくりと揺れる。


「ルッカ」

「フリーデ副団長」


 エルフリートはにこりと笑いかけながら、小箱を二つ見せる。見覚えのさるそれに、彼女は目を瞬かせた。


「それ……まさか」

「うん。お待ちかねの耳飾りだよ。でも、ちょっと注意事項があって」


 エルフリートの言い方にルッカは眉根を寄せた。


「聞きます」


 顔だけ向けていたルッカは、立ち上がってエルフリートと向き合った。


「あのね、こっちの箱には本物のシップリーの耳飾り、それでこっちが偽物のシップリーの耳飾りが入ってるの。そこまでは良いんだけど、どっちも一対になってる」

「一対、ですか。片方ではなく」

「うん」


 賢いルッカは、それだけで何となく察したようだ。


「我々にわざと拾わせた可能性がありますね。回収したものは、いずれも魔法具ですか?」

「ちゃんと確認したわけじゃないんだけど、魔石に式が刻まれていない特殊なものかもしれないんだよね」

「そうですか。それは怪しいですね」


 ルッカはそう言うなり、偽物のシップリーから回収した耳飾りの入った小箱をエルフリートから受け取った。作業机に座り直し、作業途中だったはずの書類を適当に重ねて片づける。

 後で分からなくなったりしないかなぁ。エルフリートはそんな事をのんびりと考えていた。


「偽物のシップリーには、例の魔法を使ってみたんですよね?」


 ルッカの質問に現実へと戻されたエルフリートはこくこくと頷いた。


「あ、うん。光らなかったよ。けど、宝石の留め具に式が刻んである」

「なるほど。こちらは遠隔操作できる爆弾本体というところですか」


 平然とした顔で、とても恐ろしい事を言う。

 エルフリートは苦笑して「まあ、そんなとこかもねぇ」と答えた。この箱から取り出さない限りは安心だ。万が一にも暴発する――事はないと、信じている。

 ルッカは拾った耳飾りをしまっている箱がしっかりと封じられている事を確認してから、カールスから回収した耳飾りを取り出した。


「見た目は……拾い物の耳飾りと同じですね。簡単には見分けがつかなそうです」

「だよねぇ。私もそう思う」

「同時に確認するのはリスクが高いので、このまま調べます」

「うん」


 隻腕の彼女は器用にも片手で耳飾りを固定し、ルーペを調整し、宝石の留め具に刻まれたものを読んでメモをとる。エルフリートは集中しているルッカに近付きすぎないように注意しつつ、それを見守った。それでも、ルッカは気になったらしい。

 耳飾りを確認する手を止め、顔を上げる。


「すみません、適当に座って待っていていただけますか」

「ごめん。近くで立っていたら気になるよね」


 エルフリートは近くに置いてある椅子に座った。ちょうど、ルッカの真剣な表情が見やすい位置だ。ここはもしかすると、ジュードの席だったりするのかもしれない。

 そう考えて初めて、珍しくジュードがルッカのそばにいない事に気がついた。彼はどうしたのだろうか。気にはなるが、今彼女の集中力を切らすわけにはいかない。

 ジュードはどうしたんだろうって聞きたいけど、今優先するのはそれじゃないんだよね。何となくもやもやとした気分のまま、エルフリートはじっと待った。


「お待たせしました。この耳飾りの解説をしても良いですか?」

「うん。お願い」


 ルッカが耳飾りの角度を変える音と紙に書き込む音だけの時間がようやく終わった。いつも以上に時間の経過を遅く感じていたエルフリートは、小さく息を吐いた。


「この耳飾りは、スイッチが押された爆発物の効果を増大させるためのもののようですね。スイッチというのはあくまでも比喩ですが……」

「拾った耳飾りに近付くと、ドカン?」

「おおむねその感覚で間違いありません」


 ルッカはそう言うと簡単に説明してくれた。


「耳飾りに刻んである式は、このメモを見ていただければ何となくお分かりになるかと思いますが、拾った耳飾りに記載されていた読み込みの式に似ています。

 これから調べる本物のシップリーの耳飾りと反応するようになっているはずです」

「じゃあ、次は本物が持ってた方だね。これ、外してしまっちゃうね」

「ええ。お願いします」


 片手では時間がかかるだろう。エルフリートは固定されていた耳飾りを外して小箱にしまう。蓋を閉じてルッカに封印を確認してもらってから、シップリーの小箱と交換する。


「こっちは、魔法具かどうかの確認自体できてないの」

「そうですか。では、慎重にいきましょう」


 エルフリートは小箱から耳飾りを取り出し、光を当てる。すると、魔石から式が浮き上がった。ふわりと浮かび上がる式は、いつ見ても美しい。


「この魔法具が爆発の魔法が埋め込まれた本体で、拾った魔法具がスイッチ、偽物が持っていた耳飾りが爆発を補助する燃料、という構図のようです。もう片方を見てみる必要はありますが、恐ろしい威力ですよ」


 それが今、ここに全て揃っている。式を見てうっとりとしていたエルフリートも、さすがに顔をこわばらせるのだった。

2025.1.23 一部加筆修正

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