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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
大騒ぎの後始末

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7

 カールスの制止を無視し、シップリーは会計を済ませて外へ出る。すると、すぐにカールスが追いついた。


「これから先、俺なしでどうするつもりだ」

「しつこいな……俺たちは今まで通り、勝手に動くさ」


 振り向かずに言い捨てて立ち去ろうとしたシップリーに、カールスが一気に距離を詰める。だが、カールスよりもシップリーの方が早かった。

 瞬時に振り向き、伸ばされていた腕を掴む。カールスは捕まれた腕をそのままに、逆に衝突してきた。みしりと嫌な音が体を伝う。

 だがしかし、シップリーはここで諦めるわけにはいかない。


「くっ」


 踏ん張る事を諦め、あえて足の力を抜いてバランスを崩す。ぐらりと揺れたカールスが反射的に体勢を整えようと力を込める瞬間を、シップリーは見逃さなかった。

 追いかけられたら投げ飛ばす。そして、逃げる。シップリーは考えていた通り、カールスを背負い投げした。だが、地面に転がされたはずのカールスは、シップリーが視線を向けた先にはいなかった。


「そう簡単にいくわけがないだろう」


 カールスの声はすぐ側で聞こえた。振り返れば、意味深に口角を上げたカールスが立っている。


「少しの間で良い。俺が代わりに動く。素直に応じてくれれば助かるんだが……」

「駄目だと言っている」


 シップリーの考えは変わらなかった。


「ならば、少し痛い目を見てもらおう。殺してしまうのは簡単だが、そうするとお嬢様の協力を得られなくなってしまうからな」


 シップリーはその言葉に身構えてみせるが、カールスは目を細めるだけで襲ってくる気配はない。何を企んでいるのかといぶかしむ彼をあざ笑うかのように、ソレは起きた。


「なっ!?」


 目の前にいたはずのカールスの姿がかき消えた。

 咄嗟に腕を前にして防御の姿勢をとったシップリーに向け、何かが衝突してくる。すさまじい強さの衝撃に、シップリーは受け身をとる余裕もなく吹き飛んだ。

 ちょうどその先には酒樽が……。中身の入っていた酒樽が破裂する事はなかったが、代わりにシップリーの腕をへし折った。


「ぐぅ……っ」


 シップリーは貴族に成り代わって以来、初めての激痛に呻く。やんちゃだった頃、彼はカトレアを守る為に戦い続けていた。怪我が多い生活だったのを憐れんで、今の家が二人セットで引き取ってくれたのである。

 脳裏に妹のような存在が浮かぶ。


「その大けが、女性騎士団には何て言いわけする?」

「う……、くそ……」


 燃えるように痛い。じっとりと汗が頬を伝う。シップリーは歯を食いしばり、カールスを睨んだ。


「さあ、家に帰ってゆっくりしようか」

「ぐ、さわんな……」


 くぐもった声で、痛みに耐えつつ文句を言う。だが、シップリーは折れた腕を掴まれて逃げる事もできず、カールスに引きずられないように渋々と歩幅を合わせて屋敷に戻る羽目になるのだった。




 シップリーは固定している腕を示し、不快そうに言い放つ。


「屈辱だった。帰宅した俺をみてカトレアは悲鳴を上げるし、引き取ってくれた義理の身内は涙目で医者を呼んだんだからな」

「当たり前じゃない。あの方々は、本物の善人だもの」


 カトレアたちにとって、引き取った貴族たちは家族同然なのだろう。そしてその逆もしかり。良い関係を築けているようだ。


「その時にも耳飾りは紛失していない、と?」


 ロスヴィータは一番重要な部分を確認した。大けがをした彼には悪いが、彼の身につけている耳飾りの方が重要だった。


「私が知る限りは落ちしていないわよね。シップリー、落とし物の記憶はある?」

「いや? 落としてないから、少なくとも俺の耳飾りじゃない。どんなに似ていたとしても、あなたが拾ったものは偽物だ」


 寂しくなった耳たぶを指先でいじりながら言う彼の姿を見る限り、本当の事のようだ。

 耳飾りをひっかけていた穴は耳飾りの重さで歪んでいる。ある程度の重さのものをずっとつけていなければ、そうはならないはずである。

 となると、ロスヴィータたちが耳飾りの魔法具を回収したのは、カールスの策略の内であったと考えられる。


「カールスがあなたの身代わりをしている時につけていた耳飾りは、あなたが支給したのか?」

「いや、複製するって言うから貸した」

「すり替えられた可能性はないか?」


 自分の正体がばれれば、本物のシップリーが呼び寄せられる。その時に魔法具が発動する、という可能性はどうだろうか。ありそうだとロスヴィータは思う。


「それは……考えてもみなかったな」


 顔をしかめるシップリーをブライスが慰め、ロスヴィータの質問を引き継いだ。


「普通は考えつかねぇよな。戻ってきた耳飾りの検品はしてないって事で良いか?」

「簡単には確認したが、細かくは見ていない。記憶とすりあわせただけだしな。似た品を用意されたら気がつかないかもしれん」


 エルフリートが回収していったシップリーの耳飾りは大丈夫だろうか。そんな事を考えながら、ロスヴィータはブライスとシップリーのやりとりに耳を傾けるのだった。

2025.1.22 一部加筆修正

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