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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
同時進行は困難ばかり

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5

 二列で進むには狭い点検通路を一列になって進む。先頭はこの建物に詳しい警備員のディミトリアスだ。


「ここを上れば目的地だ」


 ぽっかりと空いた大穴が階段の先に見える。明かりは最低限に落としたままらしく、ぼんやりとした光が漏れている。

 しかしそれは襲撃に遭ったからではなく、客席や舞台から様子が分からないようにしているからに違いなかった。


「私たちが先に行く」


 彼はロスヴィータの言葉に頷き、二人に先頭を譲る。エルフリートが扉を開け、ロスヴィータが突入する――今回は扉がない為、壁の大穴から飛び込むわけだが。本当はエルフリートが突入したいのだが、こういう場面では譲ってくれない。


 先頭をきって動く事が自分の役目だとロスヴィータが考えているからだ。エルフリートは理解はすれど、納得はしていない。魔法の使えないロスヴィータにとって、突入する役は自殺行為だ。

 だからエルフリートはこっそりとロスヴィータに結界を張る。これがエルフリートなりの最大の譲歩だった。


「動くな!」


 ロスヴィータに続き、エルフリートも室内に飛び込む。と、信じられない光景が目に入ってきた。


「ここ、警備体制ダメなんじゃないかしら」


 侵入者と思わしき覆面姿の人間の上に少女が座っている。どこか、見た事のある顔だ。エルフリートが思い出せずに悩んでいると、少女の背後から不満そうな声が飛んでくる。


「舞台装置を動かして良いか? 場面転換なんだ」

「あ、ああ……どうぞ」


 こちらも見た事のある顔だった。思い出せないけど、絶対どこかで見た。キツい顔立ちの青年と、生意気そうな少女。絶対にどこかで会話したという自信があるのに、どこでだったか思い出せない。

 あのツンケンした表情とは裏腹に、礼儀正しい青年……誰だったかな……。


「警備員さん。侵入者が現れてから結構時間が経っているわよ。ロスヴィータ様がいらっしゃらなかったら、劇が終わって私たちが突き出すまで気づかなかったのではなくて?」


 じろりと警備員をにらみつける少女の姿は、意外にも様になっている。ミルクティーのような色の髪の毛をツインテールにしている。ワンピースと同じ布を使ったリボンが可愛らしい。

 言葉さえ出さず、大人しくしていたら人形のように見えるだろう整った顔立ちのせいか、やけに迫力があった。


「さすがロスヴィータ様だわ。どうしてお気づきになったのかしら?」

「天井の一部が剥がれ落ちてきたのだ。ところでカトレア嬢、どうしてここに?」


 カトレア……思い出した! 御前試合の時にロスヴィータとぶつかった女の子だ! あと、確か記念祭の時にも会ったっけ。仕事中のロスヴィータとダンスがしたいのだと駄々をこねていたところを見かけ、エルフリートが代わりに彼女と踊ったのだ。

 エルフリートはどうりで見た事のある顔だと思った。

 あー、思い出せてスッキリしたぁ。


「私ね、この劇団に所属しているのよ」


 カトレアが胸を張って言う。彼女が動いたからか、下敷きになっている人間から呻き声が漏れる。襲いかかった方が悪いもんね。

 ちょっとかわいそうだとは思うけど……。


「それでね、襲われたのだけど、やっつけちゃったのよ」

「俺がな」

「私がこれ以上悪さをしないようにしているの!」


 エルフリートはディミトリアスに、避難指示の撤回を指示した。彼は頷いてすぐに通信で指示を出し、その手伝いにと、この場にいる警備員の半分を応援に送り出した。


「そういえば、劇団員達は平然としているが」

「侵入者が現れたけど問題ないよって連絡したからだわ」


 あっけらかんと言う少女に、他意があるようには見えなかった。


「そうか……」

「警備室にも同じように連絡くれたら嬉しかったなぁー」


 ロスヴィータが溜息混じりに理解を示す隣で、エルフリートは少女に笑顔を送る。


「ごめんなさいね、気をつけるわ。でも、駆けつけるのが遅い警備員さんたちって、本当に頼りになるのかしら」


 絶妙に嫌なところを突いてくる。

 ディミトリアスの口元がひくつくのを見てしまったエルフリートは半笑いでごまかした。


「私、悲鳴を上げたのよ? でも、シップリーがね、簡単に片づけてくれたの」

「カトレア、ここは防音だ。お前の悲鳴なんか、ほとんど漏れない」

「あら。じゃあ、なおさら警備員さんって役に立たないじゃない」


 カトレアの言葉がグサグサとディミトリアスを抉る。わあ、かわいそう……。

 エルフリートがフォローすべきか悩んでいる内に、カトレアは更なる口撃を放つ。


「そう言えば、警備員がどうの……って言ってたわね。もしかして穴の向こうで誰か倒れていたりして」

「……一名、警備員が」

「不意打ちでもされたのかしら? 劇団員が対処できる相手に不覚を取るなんて」


 うぅん、強い。カトレアの口撃が止まらない。


「シップリーがいなかったら、今頃大変な事になっていたかもしれなくってよ!」


 親戚のお兄ちゃん強いの、すごいでしょう。そんな声が副音声で聞こえた気がする。まぁ、そうかもしれないけど、言い過ぎだよねぇ。


「カトレア嬢」

「ロスヴィータ様」

「シップリー殿のおかげで事なきを得た点は感謝する。そして、警備の力不足を詫びよう」


 彼女の口撃を黙って聞いていたロスヴィータが、突然頭を下げた。必殺、この場で一番地位の高い人間による突然の謝罪。

 案の定、憧れの騎士に頭を下げられたカトレアは目を白黒とさせていた。

2024.12.21 一部加筆修正

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