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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
大騒ぎの後始末

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49/84

3

 カールスは実にやりにくい相手だった。簡単に言えば、非協力的だった。ロスヴィータは青筋を立てないようにし、笑顔を保つだけで精一杯である。

 そんな中、逆に役に立ったのはエルフリートであった。


「カールス、その身のこなし方すごかったねぇ。どこで身につけたの?」

「私の勝手でしょう。あなたには関係ないはずだ」

「ううん。関係あると思うよ。その戦い方、アルフレッドと一緒だもん。同じ師から教えてもらったの?」


 ロスヴィータは、エルフリートのご機嫌具合に気圧されていた。


「アルフレッド様と比較されるとは、私も有名になりました」

「一緒だよね? ちょっと癖のある動きだから、すぐ分かるよぉー」

「お答えできかねます」

「えぇ、けちぃ……」


 エルフリートは諦めてはいないようで、その視線はカールスに向けられたままである。カールスはしれっと飲み物を口に運んでくつろいでいる。

 ――が、エルフリートへ対して意識を向けているのは明らかである。


「アルフレッドの事はさておき、カールスの師匠を教えてよ」

「何の為に?」


 絡まれ続けて疲れたのだろうか。ここで初めてカールスが肯定的な反応を示す。


「私もその動きを取り入れたいの」

「は……?」


 話が完全に脱線している。ロスヴィータは気がついていたが、あえて指摘しないでおいた。カールスは関係しているとは思えない話題への彼の食いつき具合に動揺しているようだ。

 意味の分からない事などが繰り返されると、徐々に思考が鈍くなる。それを狙っているのだろう。


「私、もっと強くなりたいの! だから知りたいんだ! だめ?」

「そんな事を言われてもだめです」

「何で?」

「何でって……ほとんど自己流だからですよ」


 アルフレッドからどうでも良い情報を引き出したエルフリートは満足気だった。


「そっかぁ……じゃあ、アルフレッドの師匠はあなたなんだね。もしかして、アルフレッドを歪めたのもカールス?」


 エルフリートの話の持っていき方に、表情を変えずにいられたか自信がないロスヴィータは、目の前のカップに手をつける。


「……飛躍しすぎです。話にならない」


 動じずに言い放っているように見えるが、声色は硬い。


「そんなにアルフレッドを王様にしたかった……?」

「私は、あの方に従うまでです。何かを願うなど」

「じゃあ、アルフレッドが処刑されるかもしれないという状況になるまで、彼の行動を制する事もしないのは、どうして?」


 エルフリートの追求が続く。彼は好奇心で聞いているのだとしか思えないくらい、口調が軽い。

 そんなエルフリートとは真逆で、カールスの口調はどんどん淀んでいく。


「それは……」

「どうして今更アルフレッドの為に動こうとするの?」

「あの方が、閉じ込められてしまったからです」

「閉じ込められる前に、どうにかできたんじゃないの?」


 エルフリートの問いかけは卑怯だった。


「ねぇ、今、何を考えてる? 私はねぇ……この茶番、アルフレッドの暗殺未遂だと思ってるよぉー」


 なんだって? ロスヴィータは思わず立ち上がりそうになる。カールスを牽制する役として、彼の背後に立っているブライスとアイマルも、小さく目を見開いていた。


「なぜ、私が主をそんな目に合わせると?」


 カールスは驚いて、というよりも動揺しているように見える。エルフリートはその様子を見て笑った。


「ありえなさそうな事を適当に言ってみただけなんだけど、当たっちゃったみたいだね」


 言ってみるものだねー、とくすくす笑うエルフリートは、妖精と言うよりは悪魔のようだった。


「最初は王様になってほしくて、色々教えてあげたんでしょ? でも、暴走し始めてしまって手に負えなくなっちゃった。そのあたり、王の器じゃない感じだし……道連れにされる前に離れたくなったのかな?」

「まさか」


 否定の言葉は掠れ、説得力がなかった。


「それとも……暴走し始めた段階で、別の人にアルフレッドはもう終わりだって言われちゃった? 例えば――アルフレッドのお父さん」


 ロスヴィータは唾を飲み込んだ。確かに、アルフレッドの父親は厳格な男だったと記憶している。滅多に会う事はないが、異性装をするロスヴィータを良くは思っていないようだった。

 そんな彼からすれば、アルフレッドの行動は目に余るものだっただろう。


「カールスは元々アルフレッドの執事として育ったわけじゃないでしょ? 表向きはアルフレッドが主だけど、本当は違った……とか、ありそうだよねー」

「……」


 図星なのだろう。カールスはどんどん口数が減っていっているのがその証であるように、ロスヴィータには思えた。


「えへへ、どうかな。少しでも当たってたら良いな」

「…………」


 能天気に笑う彼と無言になるカールス。ロスヴィータはもちろん、ブライスたちも口を挟まず、話が進むのをじっと待った。


「話変わっちゃうんだけど……耳飾り、危ないからここに入れてくれる?」


 エルフリートがそう言って、無言になってしまったカールスへ小箱を差し出した。エルフリートは相変わらず雑談をするかのような、軽い声色だった。

2025.1.19 一部加筆修正

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