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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
理解できない結末

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39/84

7

 シップリーのピアスは、意外な情報――ある意味ブライスの経験が当たったとも言える――が隠されていた。


「小さいが質の高い魔法具だ」

「やっぱり魔法具か」


 アイマルが魔法で光を生み出し、耳飾りを照らせば、宝石内部に魔法具特有の式が浮き上がる。宝石の留め具も模様かと思いきや、魔法具の式だった。ブライスには式を見ても全く見当付かないが、アイマルには分かるのだろうか。

 目を細めて魔法具の式を読んでいるらしい彼を、黙って見つめた。しばらくして顔を上げた男に声をかける。


「何の魔法具か、分かったか?」

「いや……そこは俺の専門外だ。分からない」


 あれだけ熱心に観察しておいてそれか。ブライスはその言葉を飲み込んだ。


「だが、魔法以外で分かった事ならある」

「何だ?」


 アイマルが、シップリーの耳飾りにぶら下がる小粒の魔石をピンとはじく。きらりと光りながら回転するそれを見ながら、彼は説明し始めた。


「これは特殊な作りになっている」

「専門外だったんじゃねぇのかよ」


 ブライスは思わずつっこんでしまった。


「式は分からないが、意匠なら分かる。この魔法具は、留め具に特徴がある。一般的に、魔法具の式は見えないように加工するが、この魔法具は模様の一つとして見えるように作られている」

「へぇ」


 ブライスは、アイマルが魔法具について専門外だと言っておきながら、そこそこの知識を持っているのだと気が付いた。

 もしかしなくとも、魔法具を多数身につける機会の多い魔法剣士は全員ある程度の知識を自然に会得してしまうものなのかもしれない。

 ブライスの中に期待感が広がった。


「俺にも分かるように説明してくれ」

「魔法具は出したい効果を示した式を組み合わせ、魔力がその式をなぞる事で魔法師の詠唱を再現する。魔法具によっては、装着する人間の魔力にしか反応しなかったり、魔力を持たない人間では扱えなかったりするのはその為だ。

 魔法具を装飾物として身につける人間に魔力持ちが多いのはそのせいだ……というのは、常識だと思うが」


「そうだな。だから、魔法具を発動させる条件に満たない魔力の持ち主や、魔力を持たない人間は、魔法具を発動させる為の魔法具が必要になる――だろ?」

「その通りだ」


 アイマルの講義は、生徒の認識度を確認してから始まるらしい。ブライスはそのまま彼の生徒役に徹する。


「これは、魔力のない人間でも扱えるように工夫された、一体型の魔法具だ」

「魔法具を発動させるプッシャーと魔法具本体が一つになってるって事か」


 ブライスは、アイマルに渡した耳飾りをみつめながら彼の授業を聞いた。


「この魔法具は留め具がプッシャーの役割を果たすから、魔法が使えなくとも発動させる事ができる」

「でも、魔法の内容は分かんねぇんだよな」

「ああ。その通りだ」


 結局、分からない、で終わってしまうのか。そうブライスが内心がっかりしていると、アイマルが小さく笑んだ。ちゃんと続きがあるらしい。


「魔法の内容は分からないが、この事実からいくつか為になる情報が読みとれる。まず、この()()()()()()()()()()()()()は魔力すら持っていない人間だという事だ。次に、この耳飾りが作れる工房は限られており、その上特注品だと考えられる」


 なるほど。確かにいろいろと明らかになる部分はありそうだ。


「そして、この式を模様として表現できる工房は、俺の知っている限りは一つしかない」

「それをさっさと言えよ」


 焦れた声を上げるブライスに、アイマルが肩をすくめて悪びれずに反論した。


「俺は新参者だからな。もしかしたら他にもこういう魔法具を作っている工房があるかもしれないから、これは話半分に聞いてほしかったんだ」

「……そうかい」


 不満そうに口を尖らせる良い年をした男を見て、アイマルは小さく声を漏らして笑った。


「俺が知っているくらいだ。きっと界隈では有名だろうな。この耳飾りを取り扱っていなくとも、何か追加で情報は得られるかもしれない」

「そうだな。あとは、ルッカにも見せてみるか。魔法具なら、彼女が強い」


 ブライスの提案に、アイマルの片眉がぴくりと反応した。どういう反応か分からない。


「まずはルッカに勘定してもらって、もう少し情報を確実にしよう。それから、工房へ行く」

「――そうだな」


 つい今しがた笑っていたくせに、幾分不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。ブライスは仲間に対して普段は使わない、やりとりの振り返りをした。……提案した男を後回し。これだ。

 頭に浮かんだ言葉を脳内で再生する。


「工房へは、把握している情報を可能な限り増やしてから向かった方が良い。もし、シップリーと繋がっていて、事情を知っていたりなんかしたら、ややこしい事になる。

 事前準備は必要だ。それはお前も知っているだろう。アイマル?」


 小さな対抗心らしきものを抱いたであろうアイマルに、ブライスがそう説けば、彼は小さな声で「分かってはいるが、悔しかったんだ」と告白した。

 案外青臭い部分があるようだ。ブライスはアイマルのそんな面を知って嬉しく思うのだった。

2025.1.12 一部加筆修正

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