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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
理解できない結末

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38/84

6

 いくら何でも割に合わない。ブライスは珍しくそんな気持ちを胸に、溜め息を吐いた。


「ブライス、休むか?」

「いんや、このまま続ける」


 アイマルの質問に素っ気なく答えた俺は、シップリーという男の痕跡を探し続けた。手が回らないと珍しく弱音を吐いたロスヴィータとエルフリートの二人組に、簡単に「俺に任せておけ」と言うのではなかった。

 シップリーに重点をおいて調べを進めると、何とも興味深い話が浮かんできたのだ。そこまでは良い。そこまでは、良かった。


「シップリーが二人いるって言われて、お前は信じるか?」


 がさごそと路地裏の壁やゴミを細かく確認する間、アイマルは検分を終えた樽の上に座ってブライスの様子を眺めている。痕跡を探すのはあまり得意ではないと白状した彼は、その宣言通り、痕跡探しを放棄したのである。


 シップリーが一時入り浸っていたと言われる酒場に目星をつけたブライスは、その周辺に彼に繋がるようなものが落ちていたりしないか、探しているのだった。

 まさか一人でやる事になるとは思わず、さすがのブライスも少しばかり後悔していた――というわけである。


「俺は、まあ信じなくもない」

「理由は?」

「姿を変える魔法があるからな。別に双子でなくとも成り変われる」


 魔法に詳しい人間が考えそうな事だ。ブライスは「確かにそりゃそうだ」と言って鼻で笑う。


「魔法の痕跡が見られれば良いんだが、そういう技術は俺の知る限りは存在しないしな。悪いが魔法を使って姿を似せていたとしても、簡単には証明できない」

「幻惑の魔法を解除するのは難しいのか?」


 ブライスは、魔力はあっても少なすぎて行使できないという悔しい事情があった。いざという時に使えるようにする為に、魔力が貯められるタイプの魔法具のネックレスを胸元にひっそりとお守りとしてぶら下げている。

 そんな事情の他に、仕事で必要だという事も相まって、ある程度の魔法知識はある。だが、アイマルに比べたら微々たる知識である。自覚のあるブライスは、気になる事があれば、アイマルに聞くようにしていた。


「基本的には不可能だ。ブライスも知っているだろうが、幻惑は触れようとすれば偽物だと一発で分かるから、見破る事自体はそんなに難しくないし、そういう意味で幻惑を解除させる魔法の開発が進んでいないというのもある」

「案外、魔法を使うやつらって脳筋だよな」

「……まあ、否定はしない」


 物陰に落ちているゴミを見つめ、変わった特徴がないか見つめる。


「魔法は、使えるものが多くなれば面白い。それに、己の工夫次第でできる事が格段に増える。だがその一方で、えいやっと気合いを入れるだけでできてしまう事も多い」

 背を向けていて助かった。ブライスはアイマルの口から「えいや」という単語が出てきたのがおかしく、笑いかけた口元を慌てて引き締めた。その時、視線の端にきらりと光るものが入ってきた。


「途中まで論理漬けでがっちがちに固めてきたものを、気合いと根性だけで出力できる場合もあるから、辛抱強くなくてもなんとかなってしまう部分がある。

 それが、まあ……脳筋的な思考に繋がっているのだと思う」


 光っていたものは、耳飾りだった。それを拾いながらアイマルの解説に相槌を打つ。


「フリーデとか、魔法の呪文は祈りだとか言ってたしな。きっと彼女なら“えいっ”の一言だけで魔法が使えるだろうよ」

「興奮して幻影の花びらを舞わせるって聞いたから、魔法の威力や精度は分からないが……できるだろうな」


 前にマロリーが解説していた事を思い出す。


「魔法って、イメージさえしっかりとできれば、呪文はどうでも良いんだろう?」

「そうだ。別に神や精霊から力を引き出して事象を起こしているわけではないからな。この世界がそういう理であったら、呪文の省略や自由化など起きなかっただろうし、魔法師の脳筋化も防げただろう」


 完全に話がずれたな。ブライスはそんな事を思いながら拾った耳飾りをかざして見る。小さな宝石のついたその耳飾りに見覚えがあった。これはシップリーがつけていたものだ。

 ブライスはあまり人の服装チェックをする人間ではないが、装飾品は確認する。というのも、装飾品は魔法具であると思い、警戒すべきだという認識のせいである。

 職業柄、と言えば良いだろうか。常時全ての情報を記憶し、確認していては気が狂ってしまう。だから、確認すべき時は服装までしっかりと確認するが、普段は装飾物だけに絞っているというわけであった。


「魔法師の脳筋化は別に俺にはどうでも良いさ。そんな事より、良いモン見つけたぜ」


 ブライスがアイマルの目の前に耳飾りをぶら下げて見せる。彼は己の話題を切られた事に顔をしかめて無言の抗議をしてみせるも、耳飾りを見るなり表情をぱっと切り替えた。

 彼も、この耳飾りに心当たりがあったのだ。


「シップリーの耳飾りにそっくりだな」

「だろ?」

「しかし、昨日見た彼の耳にはついていた」

「……きっと、今も耳についてるぜ」


 シップリーが二人いる。その証拠に繋がるかもしれないと、アイマルと視線を合わせながら状況の進展に希望を抱くブライスであった。

2025.1.11 一部加筆修正

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