表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
理解できない結末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/84

4

 カトレアが主体であるとすれば、彼女の狙いが絞れるかと思ったエルフリートだったが……。


「ぜんっぜん、狙いが分かんない!」

「まあ、そうだな」


 ロスヴィータのさらっとした同意に、エルフリートは頬を膨らませた。

 どうしてそんな余裕ぶってるんだろう。少しくらい焦っても良いのに。そんな気持ちと、相変わらず冷静で格好良い姿に興奮しそうになっている現金な自分に呆れる気持ちが、彼の中でない交ぜになっていた。

 だめだめ、仕事に集中しなきゃ。人命に関わる事案でないせいか、どうも気がゆるんだり、思考がずれたりしてしまう。頬袋の空気をゆっくり吐き出すと、エルフリートは小さく首を振った。


「お子さまのくせにぃ」

「侮っては駄目だよ、フリーデ」

「う、それはそうだけど……」


 相手が子供だからといって、手加減は無用だ。それはエルフリートだって分かっている。だが、やはりあの少女が、と思うと納得のいかない気持ちになる。

 ロスヴィータはカトレアとシップリーに何かを感じているようだが、エルフリートはその場所に到達していない。置いていかれた気分であった。


「ロスは、何か気づいた事とか……」


 エルフリートの問いに、そうだな、と小さく呟いて、ぽつぽつと話し始めた。


「私は、我々が考えている以上にカトレア嬢は頭の回転が良いのではないかと思っている。つまり、この一件を組み立てるだけの力があるのではないか、という事だ」


 そうなのだろうか。でも、そうなると彼女はとてつもない頭脳を持っている事になる。下手したら良い事と悪い事の区別がついていないのかもしれない。


「だとしたら……大人になる前に、ちゃんとお勉強させないと駄目だよねぇ」


 このまま突き進んでしまったら、きっとろくな大人にならないだろう。そんな気持ちを込めて言えば、ロスヴィータも頷いた。


「まずは、どういう考えでこんな事をし始めたのか、だな」

「そうだよね。全然動機が分からないもんねぇ」


 再発防止の為にも、そして少女のこれからを考えるという観点からも、動機を知る事は大切だ。第一関門であった捜査協力の話はクリアした。これからが本番である。


「どうやったら引き出せるかなぁ……」

「相手は我々よりも上手だ。あらゆる想定をしてかかってくるだろう。誘導したりしようとすれば、向こうの策略にからめ取られてしまうに違いない。

 時々突拍子もない事をして、彼女たちを動揺させるしかないだろうな」


 突拍子もない事かぁ。そう何度もハプニングは起こせないよねぇ。あまり頻繁だと逆に不審がられ、警戒されてしまうだろう。

 それだけカトレアが賢い相手であるという想定に、エルフリートは違和感を覚えた。

 うっすらと見え始めたジェレマイアの背後にいるのが少女だとして、その背後に更に別の誰かがいたとたら。

 もし、カトレアが操られているだけなのだとしたら……。


「カトレア嬢が、ジェレマイアみたいな状態だったらどうする?」

「ジェレマイアのよう、とは?」

「カトレア嬢が操り人形だったら、って事だよ」


 突然話題を変えた事にロスヴィータが眉をひそめるも、その後に続いてエルフリートが提示した一つの可能性に、彼女は小さく唸った。


「それは、ありそうだが……だとしたら闇が深すぎる……」

「あんまり、起きてほしくない状況だよね」

「それにしても、よくそんな可能性を思いついたな」


 ロスヴィータがふと、首を傾げた。エルフリートはどうしてそう思ったのか、自分の思考を遡る。


「えっと、小さい子が大人を振り回すような計画を立てるという事に対する疑問から……かな。目的はどうであれ、ジェレマイアに対する指示は、とても子供が思いつくような感じじゃなかったでしょ。

 だから、そういう思考を補助する、もしくはきっかけやヒントを与える存在がいてもおかしくないなって」


「……」


「一人で考えるって、たかがしれているじゃない? ましてや、私たちよりも十歳近く若いんだよ。そんな子供が一人で企画するなんて、考えにくいと思うんだ」


 エルフリートの思考を辿っているのだろう。ロスヴィータはしばらく沈黙していた。しばらくすると、彼女のペンが動き出す。

 カトレアの名前の近くに“助言者の存在?”という文字が加わった。


「カトレアの近くにいる大人、もちろんシップリーも含め、全員の背景に怪しいものがないか、書類以外の面で調べた方が良いな」

「ブライスのところのみんながやってくれたら頼もしいね」


彼の部下は本当に優秀である。素行調査などまでできるのだから、たいしたものだ。


「疑問符ばっかりのメモになっちゃったね」


 ロスヴィータの書き出した相関図になり損ねた何かを見ながら言えば、彼女は苦笑する。


「分からない事がそれだけ多いという事だ。相関図を作るには、まだ早すぎたな」


 それはそうかも。エルフリートはカトレア、シップリー、ジェレマイアの名前だけが正しい“それ”から視線を離す。そしてロスヴィータの顔をしっかりと見つめ直した。


「話を戻すとして、今の疑問含めて、どうやって聞き出そうか?」


 二人の打ち合わせは、心配したブライスが声をかけるまで続くのだった。

2025.1.10 一部加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ