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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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20

 エルフリートと共に騎士学校の書類を確認し、気持ちよく翌日を迎えたロスヴィータだったが、届いた劇団員の資料の集計結果を見て、その気分が吹き飛んだ。


「半……分……っ」


 そう、劇団員の半数が入れ替わりの貴族であった。全員ではなかった。だが、ぴったり半分の人数であった。

 ロスヴィータと同じく不満そうな顔をしているのはブライスである。


「微妙なところだな……」

「でも、ちょうど半分って何だろうねぇ?」

「我々をおちょくっているのかと、つかみかかりたくなりますね」

「思っているより、ルッカ嬢は物騒な思考をしているんだな」


 半分、という点がいったい何を示しているのか、それぞれの悩む声――約一名ほど別の事を考えているようだが――が響く。


「本当に、ルッカの言う通りだったらどうするの?」


 この場にいないはずの声がロスヴィータの背後からした。声のした方へ振り返れば、低身長の少女が立っている。真っ直ぐに切りそろえられた前髪から見える眼光は鋭く、猛禽類のようである。


「あ、マリン!」


 エルフリートが嬉しそうに声をかけるも、彼女の表情は誰がどう見ても不機嫌そのものだった。


「さっさとこの案件、片づけてよね。あなたたちの不在を誰が埋めていると思っているのかしら?」


 正論である。ロスヴィータとエルフリートがいない分、通常の任務――承認の必要がない仕事の事である――を全て誰かが代わりにこなしている事になる。

 つまり、警邏活動などシフトが組まれている仕事、後輩の指導などである。


 特に、一人前とは言えない女性騎士は二期以降に入団した全員が当てはまる。つまり、バルティルデとマロリー以外の全員だ。二期に入団したエイミーは、武術の方は騎士として一人前ではあるものの、それ以外は自信を持って一人前だと言える実力ではない。

 となると、ほとんどの指導において、バルティルデとマロリーの二人だけで対処するしかない。


 ロスヴィータはそれを想像し、マロリーがこうして文句を言いにやって来るのも仕方のない事だと納得した。

 だが、納得するのと、すぐに解決してやる、のは全然違う。マロリーには申し訳ないが、すぐにこの件が解決するとは思えなかった。


「マリンが知恵を貸してくれたら、早く終わるかもしれないな」

「でしょう? ルッカが向かったから早々に解決してしまうかと思ったのに、まだぐだぐだしているみたいだから、気になって顔を出してみたのよ」


 近くの椅子に腰掛け、マロリーは小さく首を傾ける。ロスヴィータは今知っている情報を全て語った。


「入室と同時に言った言葉、撤回するわ。こんなの簡単に解決できるわけがないもの」

「ええっ!?」

「全部話を聞いておいて……!?」


 ロスヴィータは腰を浮かせ、そして我に返るなりゆっくりと座り直した。マロリーはそんな彼女の様子をのんびりと見つめている。

 何とも言い難い空気が室内に漂った。それを破ったのは、原因でもあるマロリーであった。


「まあ、少なくとも目撃者である二人が怪しいのは確かね」

「……やはり、そうか」

「一人増えたが、たいして変わらないな」

「ちょっとそこの、さっきからうるさいわよ」


 合いの手のように口を挟んでくるアイマルを、マロリーが睨む。


「うちのルッカの事、物騒だとか言っていたの、忘れてないから」

「女性騎士団は気が短いな」


 普段、ブライスの一歩後ろを歩いているかのような態度をとる事の多いアイマルだが、いったい彼はどうしてしまったのだろうか。

 女性騎士団を小馬鹿にするような発言にマロリーの眼光はより鋭くなるし、その視線を受けたアイマルは鼻で笑うかのように口元を笑みの形に変えた。


「二人とも……」


 ロスヴィータが小さく声をかけるが、二人の睨み合いは終わらない。膠着状態になり、思わずロスヴィータはブライスに視線を送った。ばちり、と彼と視線が交わる。

 その視線は、自分が代わりにやっても良いか、と聞いている。ロスヴィータはゆっくり頷いた。


「おい」

「何だ、ブライス」


 ブライスの声掛けに、アイマルの目元が穏やかになる。


「失礼だぞ」

「だろうな」


 わざと喧嘩を吹っかけてきていたらしい。ロスヴィータは、アイマルの不可思議な行動に眉をひそめる。

 ブライスは小さく溜息を吐いて――おそらくアイマルへ向けたポーズだろう――まっすぐにアイマルを見つめた。


「――何か、言う事は?」


 ブライスの問いにアイマルは数回瞬きをし、先程までルッカやマロリーに突っかかっていた人間とは思えない、穏やかな表情で笑った。


「心からの謝罪だ」


 はっきりと言い切った彼は、二人に向けてそれぞれ頭を下げる。


「ルッカ嬢、俺はその鋭い観察眼が気に入っている。物騒だと言った事、謝罪する。

 マロリー嬢、あなたが自分の後輩であり部下でもあるルッカ嬢の名誉の為、声を上げた事、茶化して済まなかった」


 ロスヴィータはアイマルの行動が全く理解できないが、ブライスがうまく彼を操縦できている事だけは分かる。そのブライスは……アイマルの謝罪を聞いて満足気に頷いていた。

2025.1.7 一部加筆修正

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