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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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19

 ロスヴィータが向かったのはエルフリートの自室。なるべく力まないように、注意を払ってノックをすれば、扉は軽い音を立ててロスヴィータの訪問を告げる。


「はぁい」


 可愛らしい声に遅れるようにして、扉が開く。隙間から顔を覗かせた彼は、ずいぶんとゆったりとした服装をしていた。柔らかな毛糸で編まれたワンピースは、シルクでできた夜着のようだ。

 これはもう完全に、人に会う事を想定していない服装だった。


「ロス、どうしたの?」

「少し話をしたいが、良いか?」

「……うん。どうぞー」


 ロスヴィータの問いに、少しだけ逡巡するような沈黙をしたのは、後ろめたい事があるからだろうか。穿った見方をしがちになる己に嫌気を感じながら、ロスヴィータは案内されるがままソファへ座った。

 何かしらの作業をしていたらしく、紙が散らばっている。気にはなるものの、勝手にそれらを読むような失礼な事はできず、ただ彼が飲み物を用意するのを待った。


「聞きたい事ってなぁに?」


 乱れた紙を揃えながらという態度に、ロスヴィータはやはり違和感を覚えた。いつもならば、そんな事など気にせずにロスヴィータの話を聞きたがる。

 普段とは違う事が積み重なれば、それは異常なのだ。


「私に黙っている事があるだろうと思ってな」

「黙っている事?」

「……たとえば、そこに散らばっている資料とか」


 ロスヴィータの硬い声に、エルフリートの表情がこわばった。

 やはり、そうか。レオンハルトから入手した情報は正しかったようである。そして、何らかの理由を以てロスヴィータに対して意図的にこの話を通さなかったのだという事も。

 怒ってはいない。そう言うと嘘になる。


「私は少し怒っている。だが、あなたの言い分を聞かずに、どうしてなのかと糾弾する事はしたくない。全て、私に説明してくれるか?」


 本当は、こんな事で揉めている場合ではない。壁の破壊に隠された何かを探り出し、今後発生するかもしれない問題に備えるべきなのだ。


「えっと、今やっているのは、学校の出し物の確認。学校の成果発表会をする事になっていて、それの一つなんだ。ロスに言わなかったのは、ロスがあまりにも忙しすぎたから」

「なるほど」


 彼の言い分は一理ある。だが、ロスヴィータを飛ばして良い事にはならない。


「私に話を通した後、自分がその仕事を私の代理として行う事を打診する、という選択肢は思い浮かばなかったのか?」

「……あっ」


 エルフリートの目が泳ぐ。思い浮かんだが、無視する事にした。そう白状しているも同然である。

 ロスヴィータはなるべくエルフリートを刺激しないよう、小さな笑みを作った。だが、どうやらその笑みが失敗に終わったのだろうとロスヴィータは気づいた。エルフリートが体を硬直させたからである。

 ロスヴィータは申し訳なく感じる一方で、仕方ないとも思った。


「フリーデ?」

「えっと、ごめん。思いついたんだけど、これ以上負担にしたくなくて……」

「フリーデ、それはあなたが判断するものではないよ。私がするものだ。あなたが何でもできるのは知っている。私だって頼りにしている」


 ロスヴィータは可能な限り冷静さを保つ為、エルフリートが淹れた飲み物を飲んだ。相変わらず淹れるのが上手だ。彼の器用さに笑ってしまいそうだ。

 気が和らいだところで、ロスヴィータは再び口を開いた。


「何かあった時にはトップである私が責任をとるのだ。何度も私にそれを言わせないでくれ。

 察するに……この件は、検証をする直前に似たような事を注意した時点で、既に取り組んでいたようだが」

「う……」


 じとっとロスヴィータが半眼で見つめると、彼の視線が泳いだ。同じような事を何度もされるのは、正直言って良い気分ではない。だが、ロスヴィータに非がないわけではない。

 彼が先に知った情報をロスヴィータに渡そうという気持ちが浮かばないくらいには、余裕がないように見えたのだろう。エルフリートは器用で何でもできるからなのか、ワンマンプレイが得意である。

 動けてしまうからこそ、ロスヴィータを通さずにやってしまうのだろう。組織として致命的になりかねないから、切実にやめてほしいところだが。


「頼りなくてすまないが、何でも良い。どんな事でも良いから私に話をしてくれ。一緒に仕事をしたいんだ」


 ロスヴィータは彼に責めるような視線を送るのをやめた。既に、彼女の中での怒りは消え去っていた。

 そんな事に気づかぬまま、落ち着きなくもぞもぞとみじろぎするエルフリートは、しばらくそうしていた末に口を開いた。


「えっと、じゃあ……その、この書類の確認、一緒にしてくれる?」


 ちらちらと上目遣いにロスヴィータを見てくるエルフリートに、さすがのロスヴィータも耐えられなかった。可愛すぎる。


「もちろんだとも。それにしても、フリーデはちょっと抜けているなぁ」

「えっ?」

「一緒にやろう、と声をかけてくれれば、一緒にいられる時間が取れたのに」


 ロスヴィータの答えに、彼は目を見開いた。


「あっ、ああっ!?」


 なんという事だ。きっと彼はそう叫びたいのだろう。肩を落として嘆きの悲鳴を上げたエルフリートを見て、ロスヴィータはとうとう笑い出してしまうのだった。

2025.1.7 一部加筆修正

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