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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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18

 エルフリートを連れ、移動を始めたロスヴィータは、ちょうど良い機会だと口を開いた。


「フリーデ、さっきは上の空だったな。何か気になる事でもあるのか?」

「え?」

「反応が鈍いし、何より、あんな事を言うなんて、らしくないと思ってな」


 あんな事、とは「もう関わりたくない」発言の事である。冗談半分に言うのはまだ良い。だが、あれは本音だった。少なくとも、ロスヴィータにはそう聞こえた。


「えっと、あの……ちょっと疲れちゃったのかな。安心して! その、さぼったりとかする気はないから!」


 明らかに空元気といった笑顔に、ロスヴィータは深刻な事態だと思った。理由は分からないが、彼は疲弊している。


「フリーデ」

「うん? ごめんね、心配かけちゃって」

「いや、それは構わないが。それよりも、ちゃんと休めているか?」

「ロスに比べたら私なんて、暇なくらいじゃないかなー」


 エルフリートの歩く速度が少しあがった。ゆらりと小さく揺れる三つ編みを眺めながら、いよいよ彼の様子がおかしいと頭の中で警報が鳴っていた。




「知っているか?」

「うん? 壁を壊した一連の騒動の犯人の話かい?」

「全然違う。フリーデの事だ」


 ロスヴィータはこっそりとレオンハルトを呼び出していた。彼は温かいハーブティーを口に含み、考える素振りを見せる。


「どうだろう。何だか最近忙しそうにしているとは思ったけど、それだけかな」

「どんな事で忙しそうにしていた?」


 情報収集に彼の親友を使うのは気が引けるが、ある意味エルフリートに一番近いのはレオンハルトなのだ。きっとこのあたりはエルフリートも、そしてレオンハルトも半ば諦めているような気がしていた。


「そういえば、学校の方で催し物があるらしいな。それの準備じゃないか?」

「なんだって?」


 その話、ロスヴィータは全く知らない。運営に多少なりとも関わっているはずのロスヴィータが知らなくて、エルフリートが関わっているとは、いったいどういう事なのか。


「……知らないのか?」

「何も、聞いていない」


 ロスヴィータの言葉に、レオンハルトは口にしてはいけないものを言ってしまったのかというかのように、両手で己の口を塞いだ。


「もう聞いてしまったから意味はないぞ」

「だよね」


 苦笑する彼に、知っている事を全て言え、と視線で促す。視線の意味が伝わったのか、レオンハルトは視線を彷徨わせ、ゆっくりと口を開いた。


「学校での進度を発表するらしい。これは学生の為、というよりは国内へのアピールみたいだね」

「そんな大きな話が私の耳には入らなかったという事か?」

「えっと、その辺りは俺に聞かれても分からないよ」

「……それはそうだが」


 ロスヴィータが落ち着くのを待って、レオンハルトは続ける。


「どれだけ、騎士になりたい人間がいるのか、そして騎士になりたい人間の勤勉さを知ってもらう為のもののようだよ。

 女性騎士団も、自分たちの存在をアピールしただろう? あと、魔法師団がときどき研究発表をしているだろう。意味合いとしては、ああいう感じなんじゃないかな」


 ロスヴィータはひとまず落ち着く為、目の前にある飲み物を口に含んだ。温かな飲み物が喉を通る。ロスヴィータはこわばった体がすっとほぐれていくのを感じて小さく息を吐いた。


「私が知らされていなかった理由は、良くないが、まあ……良いとして。その発表とやらは、何をする事になっているのか知っているか?」


 困った顔をしたレオンハルトに、知っているのだと察する。最初から全部話してくれれば、ロスヴィータだって睨むようなまねをせずに済むのだが。

 ロスヴィータは不服ながらも、彼をじっと見つめたまま辛抱強く待った。最終的に、彼は白状した。


「剣技大会と魔法大会、あとなぜか出し物をするらしいよ」

「は?」


 最初の二つは良いが、出し物って何だ。ロスヴィータの心の中が読めたのか、レオンハルトの顔が小さくひきつった。


「出し物は、一応理由があるんだって。学力の面で騎士になれない人間も多いじゃないか。それを補う為に勉強をさせているんだけど、その成果を発表させようっていうのが趣旨だって聞いたよ」


 どうやら、レオンハルトは関わっていないという体でありながら、しっかりとエルフリートか別の関係者から話を聞いているようである。

 ロスヴィータは、自分だけが除け者にされているという事実に顔を歪ませる。気遣いからくる行動だとは分かるが、これはいけない。


「ほう……それで、どうしてエルフリートが忙しくなっているんだ?」

「全部の出し物のチェックをしてい……あっ」

「ありがとう。私はこれで失礼するよ。支払いは私がしておくから、このままゆっくりしていくと良い」

「ロスっ!」


 焦るレオンハルトを置いて、ロスヴィータはさっさと喫茶店を後にした。さて、エルフリートにしっかりと話を聞かなくては。

 そう考えるロスヴィータの表情は王子様、と言うには無理のある悪人顔であった。

2025.1.7 一部加筆修正

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