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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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 誰も死んでいないし、逃げてもいない。手がかりになるのは破壊された壁や、ジェレマイアの制圧時に散乱した物々だけ。それも、シップリーが制圧したあとで、ロスヴィータとエルフリーデが再び行動を起こした彼を制圧したから、判別がつきにくい。

 そんな中でのエルフリートのシップリーによるジェレマイア制圧のシミュレーションは、だいぶ有意義だった。


「ジェレマイアは、なぜここで魔法を使おうとしなかったのだろうか」

「そういえば、管理室に侵入した後の指示って変だったよね」


 うぅーん、と唸るエルフリートを後目に、ロスヴィータは指示を思い出していた。確か、彼は魔法を禁止されていたはずだ。

 あの天井や壁から、彼が一定以上の能力を持っていると分かっている。その彼に仕事を依頼した存在は、ジェレマイアについてよく知っているはずで――となると魔法を使うなと指示するにはそれなりの理由があったと考えるのが自然だった。


「魔法を器用に使いこなせるから、魔法を使ってもこの部屋が壊滅的な被害を受ける可能性は低かったと思うなぁ」

「なおさら不自然だな」

「ジェレマイアの能力を把握しているはずなのに、その能力を活かすどころか殺しにかかったって事だもんね」


 エルフリートの言う通りだ。

 依頼人がこの場所でジェレマイアを捕まえたかったという説に、いよいよ信憑みが増してくる。しかし、どうしてジェレマイアを捕まえたかったのかが分からない。


「ジェレマイアを捕まえさせたい、というのとカトレアとシップリーを襲って何かをさせたい、は両立するように思えないが……」

「うぅん、意味不明だよねぇ」


 ロスヴィータの溜め息に、エルフリートの溜め息が重なった。

 動機が全く想像できないせいで、ジェレマイアをどうしたかったのか、までしか推察できないのだ。これではジェレマイアを陥れた人間にたどり着く事ができない。

 ロスヴィータは改めて、関係があるかもしれないカトレアとシップリーの調査の重要性を感じるのだった。




 ロスヴィータが出生登録を確認しに役所で手続きをしていると、ブライスとアイマルがこちらへ向かってくる姿が見えた。その表情はあまり芳しくなく、二人の捜査が順調ではないのだと窺える。

 筋肉質なブライスは普通の市民には威圧感があるのだろう。二人が進むであろう方向にいた人間が、さっと道を譲る。

 長身の二人組はかなり目立つな。ロスヴィータは自分の事を棚に上げてそんな感想を抱いた。


「フリーデは?」


 挨拶もそこそこにブライスが問う。相変わらずエルフリートへ複雑な思いを抱いているのだろうか。不憫に、と思いつつロスヴィータはその問いに答えた。


「ジェレマイアの技術がどれくらいすごいのかを検証する為に人員を集めに行ったよ」

「どんな検証だ?」


 話題に食いついたのはアイマルの方だ。ジェレマイアの魔法を検証するという点に興味が湧いたのだろう。


「天井と壁を破壊する時の魔法を再現してもらう。難易度が高い魔法らしくてな」

「ほう……」

「もしよければ、アイマルも検証に参加してくれるとありがたい」


 ロスヴィータの誘いが意外だったのか、彼はちらりとブライスを見る。彼の様子を伺う姿の方こそ意外である。

 ロスヴィータは彼らの変貌ぶりに好奇心がもたげるのを感じた。


「あ? 良いんじゃねぇか? 俺も気になるしな」


 アイマルの視線に対するブライスの反応も何だかおかしい。ブライスの目元が一瞬厳しくなったのをロスヴィータは見逃さなかった。


「ブライスの許可が下りた。俺も参加しよう」

「ありがとう。助かるよ。ところで、フリーデに何か用か?」

「いや、二人に用があったんだ。同じ話を二回するのも面倒だから、合流してからにする」

「そうか」


 ブライスとアイマルがこちらに向かってきた時の表情と関係がありそうだ。


「マディソン団長」


 声をかけられ振り向くと、書類を持った事務員が立っていた。彼が怪訝そうな表情をしているから、書類が見つからなかったのかと一瞬身構えてしまったが、どうやらそういうものではないらしい。


「ああ、あったか?」

「はい。一応……ですが、ちょっと。直接お読みいただければ分かると思います。こちらは写しですので、お持ちいただいて結構です」


 ずいぶんと意味深である。ロスヴィータは中身を検分しようとして、やめた。


「ありがとう。また何かあればお邪魔するよ」

「はいっ、お疲れさまです」

「お疲れさま」


 ロスヴィータが話を終えるなり、事務員はそそくさと足早に去っていった。彼の後ろ姿を見ながら、ブライスが小さく聞く。


「良いのか?」

「ああ。どうせ彼にこの書類の事を聞いても分からないだろうからな。無駄に心労を与えてはかわいそうだ」

「そういうことか。なら、フリーデとの待ち合わせ場所に向かおうぜ。どうせ訓練場だろ?」

「よく分かったな」


 ロスヴィータの答えを聞く前から役所を出ようとするブライスに、ロスヴィータは感心する。


「あんたが書類を取ってくる間にフリーデが騎士を集めてるなら、集合したら検証開始だろ。誰だって集合場所が訓練場だって見当付くさ」

「確かに」


 言われてみればその通りである。


「ほら、行くぞ」


 そう言ってブライスはロスヴィータの持つ書類を不思議そうに眺めているアイマルを引っ張った。ロスヴィータは小さく笑い、その後に続くのだった。

2025.1.4 一部加筆修正

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