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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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10

 ロスヴィータはエルフリートと共に他の手がかりがないか確認し、それから管理室へと向かう。誰もいない管理室は、この前と違ってがらんとして感じられた。

 人数が少ないから、というのもあるだろうが、公演時のざわついた気配がないのも大きい。熱気のないひっそりとした空気が、ロスヴィータによりそう感じさせるのだろう。


「争ったような気配がほとんどないな」

「そうだよねぇ。よっぽどシップリーが強かったのかなぁ」


 エルフリートがのほほんと言う。ロスヴィータは、シップリーの存在が特殊であるように思えてくる。


「もし、フリーデがシップリーと同じような状況だったら、ジェレマイアをどう制圧する?」


 ジェレマイアがどう動くつもりだったのか、また実際にどう動いたのか、すべて聞き出している。だが、当時のシップリーはそれを知らないはずである。

 現状を見たエルフリートは、どんな動きを考えるのだろうか。エルフリートが室内をうろつく姿を見守りながら、楽しみに待つ。おおよそ二周くらいしたところでぴょんっと跳ねるようにして戻ってきた。


「何も知らなかった時のパターンと、向こうの指示を全部知っていた時のパターンを考えたよ!」

「ほう」


 どうやらエルフリートはロスヴィータが思っていたよりも、考えているらしい。そんな失礼な事を思いながら、彼の説明を聞くのだった。




 エルフリートは一人だと再現が難しいから、と幻影の魔法を使って表現してくれた。シップリーとカトレア、そしてジェレマイアの幻影が現れ、それぞれが初期位置につく。

 もちろん、ジェレマイアが出入り口、シップリーが舞台装置の操作盤座席、その手前にカトレアである。カトレアは暇そうに足を揺らしているあたり、芸が細かい。


「最初は、何も知らないパターンね」


 シップリーがジェレマイアの姿に気づき、立ち上がる。ジェレマイアはカトレアに向けて一気に距離を詰めた。シップリーはカトレアの前に回り込み、ジェレマイアの一手を防ぐ。

 ジェレマイアがカトレアを掴もうと伸ばしていた腕にシップリーが絡みつき、くるりと回転した。ジェレマイアの勢いをうまく利用したその動きは、床へと強く叩きつけ、彼の息を詰まらせる。


 呼吸が一瞬止まった隙に、シップリーはジェレマイアをうつ伏せにして封じ、その上にカトレアがちょこんと乗った。

 理に適っている。ロスヴィータも、きっと同じように動いただろうなと思う。

 次に見せられたのも、あり得そうだった。カトレアに伸ばされた腕を掴み、引っ張る。そのまま前のめりになったジェレマイアの背中を蹴り沈めた。


 ジェレマイアを倒すパターン、立ったままで動きを封じるパターンなど、ほぼ初手で封じ、乱闘にならないような形でジェレマイアが制圧される姿が繰り返される。

 そのどれもがロスヴィータにも納得のいく動きであった。


「じゃあ、これからはジェレマイアが何をしようとしていたか、どうしてここに現れたのか知っていた時のパターンね」


 エルフリートが再び幻影を動かしていく。今度は、カトレアが騒ぐ様子を見せる時には既にシップリーが動き出していた。彼はジェレマイアの足下をすくい、転倒させる。

 ジェレマイアは何のアクションもろくに起こせないまま制圧された。


 似たような形で、ジェレマイアが真っ直ぐにつっこんでくる事を想定して腕を突き出しながら進み、そのまま首に叩きつけたり、斜めに衝突するようにしてジェレマイアに絡みつき、そのままひっくり返したり、とジェレマイアがカトレアに向けて移動している間に制圧していく。

 襲撃が分かっていれば、確かにどんな動きをするか読みやすい。だからこそ、一歩早い対応ができるのだ。


 ジェレマイアがひたすら制圧されるだけのシチュエーションを繰り返し続け、よくもこれだけ思いつくな、とロスヴィータが感心していると、エルフリートの幻影による現場検証が終わった。


「確率が高そうな順からやってみたんだけど、どうだった?」

「……ふむ」


 現場の散らかり方にふさわしくなかったものはさっさと除外し、ロスヴィータは思いあたったものをいくつか上げた。

 エルフリートはそれをただ頷いて聞いている。


「……やっぱり、移動中に制圧したように見えるんだよねぇ」

「――そうだな」


 ジェレマイアの動きを知らずに対処するはずの位置――つまり、カトレアのすぐ側――で、争った形跡がほとんどみられない。

 結果としてジェレマイアがカトレアの方へ移動する間に制圧されたと考える方が自然だった。


「あの二人、本当に怪しくなってきちゃった」

「……しかしまだ状況的にそう見えるだけかもしれない。断言するには早すぎる」

「それもそうだね!」


 ロスヴィータに同意する彼の表情はどこかぎこちない。

 ロスヴィータもそうだが、エルフリートもカトレアとシップリーが怪しいという気持ちを無理矢理に押さえつける為に、公平な視点で物事を見なければ、と自分に言い聞かせているようだった。

2025.1.3 一部加筆修正

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