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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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19/84

7

 可能性があるとは言えないような仮説を含め、思いついた犯行動機を検証する。それはなかなかに難しい仕事であった。だからといって最初から諦めてかかるのは良くない。

 それくらいはロスヴィータの中で常識だった。


「お二人からの要請に馳せ参じました! なんてね」


 きゃあきゃあとはしゃぎ、ロスヴィータの腕にまとわりついたのはジェレマイア逮捕時にいた二人組の内の少女、カトレアである。


 共に現れたシップリーは少女を制御する事を諦めているらしく、溜め息を吐くだけで、それ以上何か声かけをするようなそぶりはない。

 初めて遭遇した時はカトレアをどうにか制御しようと躍起になっていたように見えたが、あれから一年ほど経つ今、彼女の制御が不可能なのだと悟ったのかもしれなかった。


「ロスヴィータ様、今日は何をお聞きになりたいのかしら。あ、まさか私の好きな食べ物、とか!?」


 懐かれる要素は今までにあっただろうか。年齢が上がれば些細な差となるであろう五年程度の年齢差も、また二十を迎えていない自分たちでは大きな差であるように感じられる。

 つまり、比較的年齢が近いはずのロスヴィータにも、全くカトレアの事が分からなかった。


「いや、我々は先日の件について話が聞きたいだけだ」


 ロスヴィータはやんわりとカトレアを引き剥がしながら答える。

 そしてエルフリートに以前教えてもらったテクニックを以て、少女を無理矢理席までエスコートした。座らせてしまえばこっちのものである。

 シップリーがロスヴィータの事に尊敬のまなざしに送ってきた事から、彼の苦労が伺える。彼は素直にカトレアの隣に置いてある椅子へ腰掛け、おとなしく座っているカトレアの頭をぽんと撫でた。

 むっとした表情を作るも、カトレアはおとなしくしている。そのやりとりが、二人の関係を示しているかのようだ。


「あの男が侵入してきた時、すぐに気がついたのか?」

「いや、演劇の方に集中していたからカトレアが声を上げるまで気づかなかった」

「私はあそこにいただけで暇だったから、すぐに気が付いたわ。だって、普通は劇中に誰も来ないもの」


 カトレアがふふん、と誇らしげに笑う。


「あなた方に気づかれた男がどうしたのか教えてくれ」

「シップリーに襲いかかったわ」

「カトレア嬢の方が近くにいたのに?」


 カトレアは小さく首を傾げた。


「やっかいそうな方から片づけようとしたのではないかしら。見るからにか弱い少女だもの。何もできないと思ったのだわ」


 もっともそうな事を言っているが、ロスヴィータの頭は小さな引っかかりを覚えた。ロスヴィータだったら、カトレアを人質にする。そしてシップリーを脅迫して任務を遂行しようとしたはずだ。

 ジェレマイアがそんな事も考えられないくらいに動揺していた可能性もあるが、やはりカトレアを盾にして乗り切るという簡単な方法が思いつかないとは考えにくい。

 捕まった後の彼の行動から、ちょっとの事で混乱するような男には見えなかったのだ。


「カトレア嬢、怖かった?」

「もちろんよ」


 エルフリートに聞かれ、ふるりと震えながら腕をさする姿は同情を誘うが、どうにもしっくりこない。ロスヴィータは不思議な感覚に内心首を傾げるのだった。




「あの二人が気になるぅ?」


 オリアーナ劇場の管理者による自作自演の線を調査しに行っていたブライスと合流するなり、ロスヴィータは先ほどの違和感について話をした。


「そりゃ、第一発見者が怪しいっていうのはあるけどな……」


 顎をなぞり、口を尖らせる。納得がいかないのは一目瞭然だ。


「だってあいつら、動機がないぜ。劇場の管理者の身内でもねぇし、一応劇場の関係者にはなるけど、別にあの劇場を拠点にしているわけじゃない。オリアーナ劇場がどうなろうと、全く関係ないはずだぞ」

「それは、そうだが」


 ロスヴィータは彼にそう言われてしまうと、反論できなかった。


「噂を確かめたかったとか? カトレア嬢、好奇心旺盛そうだし」


 エルフリートらしい意見が飛んでくる。


「いや、人を雇うほどの金があるとは思えねぇな。そもそも、幼女だぜ」


 しかしそれもすぐにブライスが否定する。


「同じ年齢でも貴族と平民では思考力や行動力の発達に差があるだろう。

 貴族の子供ならまだしも、平民であの年齢では、まともな計画を立案し実行するのはほとんど不可能だと思うが」


 ブライスに追随してアイマルが口を挟む。確かに貴族であれば幼少の頃から思考の訓練がある。確かに二人が指摘する通り、ジェレマイアが受諾した依頼は、教育の始まりが遅い平民の子供が思いつくような内容ではなかった。


「だが、何かが引っかかるんだ」


 ロスヴィータはもやもやとしてはっきりしない違和感に、溜め息を吐く。違和感の原因が分かれば、すっきりするだろうに。


「……しっかし、ロスの勘は侮れねぇんだよな。少し探らせるか」


 ロスヴィータの様子に何かを感じたらしいブライスは、そう呟くのだった。

2025.1.2 一部加筆修正

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