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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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17/84

5

 エルフリートが精神魔法をロイへとかけてからは、早かった。まず、はじめにロイはやはり偽名だった。本名はジェレマイアだそうだ。やけに神々しい名前で、なるほど本名を名乗りたくないのが分かる。

 孤児の為、名字はない。名を持たぬままに教会が預かった孤児には、世界から愛されるように豪華な名前をつける事が多い。彼もその一人だったのだろう。


 普段はあちこちの便利屋として生計を立てている。時々危険を伴った犯罪すれすれ――ずいぶん手慣れているようだったから、おそらく今回の件以外にも犯罪に手を染める事はままあったのだろう――の仕事も請け負っていたようだ。

 ジェレマイアは今回、間接的に劇場の襲撃を依頼されたのだと言う。つまり、大本を辿るのは難しそうだ。かといって最初から諦めはしないが。


 ジェレマイアが指示されたのは三点。一つ目は進入経路。二つ目は警備員への対応。三つ目は管理室の制圧。


 三つ目を攻略するところで、返り討ちにあったのだという話だった。

 尋問に対して沈黙を貫いていた理由は、仕事としての責任感と、保身だという。魔法を使われて無理矢理白状させられるのと、自ら白状するのでは、失敗した時の依頼主からの対応が違うそうだ。

 両方体験したかのような言い方に、ロスヴィータは犯罪の匂いを感じた。


 しかし、彼がまだ無事にこうして仕事を続けている事を考えれば、彼の仕事はそう重い犯罪ではなかったのだろう。最悪、口封じや情報漏洩の報復で殺されていただろうから。


 ジェレマイアに出された指示は、かなり詳細だった。特に警備員への対応がすばらしい。いや、褒めるべきではないのだが、いくつかの状況を予測し、それぞれの対処法が指示されていた。

 これならば多少腕に自信のある素人ならば、プロのような鮮やかさで警備員を対処する事も可能だろう。

 管理室の制圧に失敗した時の状況も詳しく聞いた。こちらは非戦闘員がいる事を前提としての指示だったようだ。想定とは全く異なる状況に遭遇したジェレマイアは、混乱している内に打ちのめされたのだと言う。


 警備員を倒した時点で、ジェレマイアの中で指示の絶対的信頼感を勝ち得ているのだから、彼の混乱は相当だったと考えられる。ロスヴィータは、この完璧な“失敗プラン”が妙に引っかかった。

 詐欺の手口に似ている。一度強い信頼を覚えさせる要素を作り、最後に搾取する。今回は搾取する代わりに騎士団による捕縛が待っていた訳だが。


「ロスはどう思った?」


 エルフリートの声に、ロスヴィータは考え事を中断した。ジェレマイアを牢へ戻してマロリーに監視を任せ、会議室で打ち合わせをしていたのだった。


「まだ考えがまとまっていないのだが、私は詐欺の手口に似ていると思った」

「でも、彼は何も奪われていないと思うけど」


 エルフリートの言う事はもっともだ。

 彼は何も奪われていない。しかし、彼が何らかの思惑に巻き込まれているというロスヴィータの予想は間違ってはいないだろう。


「劇場が襲われたという事実が必要だった……とか?」


 アイマルがぽつりと呟いた。


「俺はまだこの国を勉強中だが、劇場が襲われる事で何らかの利益を得る事ができるのならば、襲撃者が捕まるまでの流れを故意に作り出す人間もいるのではないかと思ったのだ」

「そっちの方がありそう」


 彼の補足にエルフリートが大きく頷いた。ブライスが、そういや……と何かに気づいたかのように立ち上がる。


「ちょっと待ってろ。確認してくる」

「え」

「ブライス?」


 エルフリートとロスヴィータの声かけに手を挙げるだけで応え、部屋を出ていってしまった。残された二人は顔を見合わせ、それからアイマルをみる。

 二人に見つめられたアイマルの方は、俺も分からないと言うように小さく首を横に振るのだった。




 ブライスはすぐに戻ってきた。あまりに早く、いったい何を確認しにいったのかといぶかしんでしまったくらいである。


「やっぱりそうだった。あの劇場、いわくつきだったぜ」

「いわくつき……?」

「何か揉め事でもあったのか?」


 アイマルがブライスに着席を促しながら聞けば、彼は「ちょっと違うな」と答えた。


「変な噂話があったんだ」

「噂話」


 エルフリートが身を乗り出す。どことなく瞳がきらりと光ってみえる。


「オリアーナ劇場を建てる時に、人が何人かいなくなっていてな。壁に埋めたんじゃねぇかって変な噂が立ったんだ」

「人柱か。古風な文化だな」

「過去も今も劇場にはしねぇだろ」


 アイマルのとぼけた反応にブライスが細かくつっこむ。

 なかなか良い関係が築けているようだ。会話の内容は微妙だが。ロスヴィータは口を挟まず無言で彼らの会話を聞き続けた。


「実際に壁を壊そうとする迷惑な人間もいたって聞いたぜ。だから、候補に上がっていた壁を壊す事で、人柱を証明したかったか、人柱がいないという証明をしたかった人間による犯行かもしれないぞ」

「……まあ、動機にはなるな」

「え、でもそれってちょっと過激っていうか、証明方法としては雑じゃない?」


 ブライスへの二人の反応は真逆だった。

2025.1.1 一部加筆修正

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