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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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14/84

2

 ブライスたちが雑談している内にアイマルが目を覚ました。彼はエルフリートとブライスの仲睦まじいさまを見て顔をしかめる。その姿を偶然にも捕らえてしまったロスヴィータはおや、と思う。


「アイマル、昨晩は助かった」

「ロスヴィータか。おはよう」

「おはよう」


 声をかければ、普段通りの爽やかなアイマルにすぐ戻った。あっさりとした考えをしている男の意外な表情変化に、ロスヴィータの好奇心が疼く。


「フリーデの精神魔法が途中で切れてしまったそうだな」

「ああ。調子が悪かったのならば、仕方ないだろう。そもそも精神魔法はかなり調整が難しい魔法だ。それを手軽に扱ってみせること自体が規格外なんだ」


 アイマルはそう言いながらエルフリートを見つめる。その視線には何も不穏な空気は見られない。むしろエルフリートを労る気持ちにあふれている。それこそ、さっきの表情こそ幻だったのではないかと思うほどに。

 ロスヴィータは彼の心の在処が気になり、意地悪な質問をしてみたくなった。


「そう言って簡単にフォローするあなたこそ、規格外だと思うが。規格外といえば、ブライスもそうだがな」


 ブライスの名前を出した一瞬だけ、彼の瞳に炎が宿る。どうやら感情の向かう先はブライスの方だったようだ。


「そんな事より、私は魔法に詳しくないのだが、一晩眠らせる事は難しいのか?」

「ああ。一晩と永遠のさじ加減が難しい。元々精神魔法は繊細な魔法だ。だから、ちょっとした事をしようとして精神を破壊――という事故が起きてしまう。

 あまりに習得が面倒で、今では精神魔法自体が廃れてきている――といったところか」


 ロスヴィータは合点がいった。騎士でも本格的な精神魔法が使えるのは一握りしかいない。


「できたら便利だが、使いこなすのに何十年もかかる、という感じか」

「感覚でできなければ、いつまでも使いこなせないだろうな。教える側も難しいんだ」

「だが、簡単な精神魔法は魔法が使える人間ならば、使えるだろう?」


 一般的、というのは一時間ほど眠らせたり、精神の波を穏やかにさせたり、というレベルの魔法だ。短い間だけ動きを封じるといったものもある。

 ロスヴィータの素人同然の質問に、アイマルは嫌な顔をせずにわかりやすく説明してくれる。


「今一般的に使われている精神魔法は誰でも失敗《《できない》》ように加工された魔法だ。あれは、本当に精神魔法を使える俺やエルフリートからすれば、子供だましみたいな効果でしかない」

「なるほど、ありがとう」


 もっと詳しい説明が必要なら、と言いそうな彼にロスヴィータは礼を言う。

 うむ、いつも通りの彼だ。ロスヴィータはブライスに見せたアイマルの揺らぎについて、騎士の活動に影響が出ないようだから問題ない、と結論づけた。

 問題なのはエルフリートだ。無理をするし、他人が見たらぎょっとするような事を平気でするし、それらに自覚がないという一番の問題がある。


 改善させようにも、彼がちゃんと認識してくれないからには、どうにもできない。ブライスと小競り合いをして笑いあう姿は、知らぬ人間が見たら一悶着起きそうな距離感だ。

 エルフリートが誰と親密な態度を取ろうが、ロスヴィータの感情に波は立たない。それが彼にとってどうという事もないただのコミュニケーションなのだと分かっているからだ。


 だが、そのせいで彼の評判が落ち、女性騎士団の名に傷がつくとしたら話は別だ。ただでさえ、男性の騎士団と比較され、一般女性と比較され、評判の維持が難しいのである。落ちた評判を挽回するのはもっと難しい。厳しい戦いになると想像できる。

 実のところ、この件については女性騎士団員全員、エルフリートにすら話をしていない。それは、原因になるであろう人間がエルフリートだけである事に起因している。

 彼以外に話したところで解決しない上、彼が女性として活動していても、本来の考え方がまるっきり男だからであった。


「フリーデ嬢は、ブライスと仲が良いな」


 アイマルがぽつりと呟いた。ロスヴィータには聞こえなくとも良い、というほどに小さかった。答えるべきか悩むが、ロスヴィータは口を開いた。


「……親友だそうだ」

「男女間の垣根を越えた友情か。俺もフリーデ嬢と、そうなれるだろうか」


 アイマルがロスヴィータに顔を向ける。すらりとした目がロスヴィータを捕らえた。彼のまっすぐな視線に、ロスヴィータは笑む。


「なれるのではないか? 私が先にアイマルと友情を深めても良いぞ」

「そうだな。ロスヴィータ嬢」

「はは、友人になるのならば、まずは私の事を“ロス”と呼ぶところからだな」


 ロスヴィータが笑い声を漏らすと、アイマルはそれにつられるようにして笑う。ロスヴィータがエルフリートの行動を気にしている間、アイマルは男女間の友情を悩んでいたと思うと、自分の考えていた事が馬鹿らしくなってくる。

 エルフリートの行動を変えさせるのでは駄目だ。エルフリートらしさが消えていってしまう。彼が“エルフリーデ”として過ごしやすい状態を維持する方が、よほど簡単で建設的だ。


 何でそんな事を思いつかなかったのか。ロスヴィータはエルフリートに視線を戻す。彼はその視線に気付き、ロスヴィータに向けて可憐な笑みを返した。


「ロス、そろそろ始める?」

「ああ。頼む」


 すっきりした気分で、ロスヴィータは牢の中へ入っていった。

2024.12.29 一部加筆修正

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