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転生者エマ

 レオンは戻った屋敷のテラスから夕焼け空を見つめていた。

 そこに、エマがやって来て、


「レオン。かのちゃんについていくことはできなかった?」

「いえ。ついて行けましたよ」

「そう。なら、すごく早く戻ってきたのね」

「え?」

「? どうしたの? だって、そうでしょう? かのちゃんが帰ったのはついさっきじゃないの」

「……そうですか。でも、俺はかのと一緒に何時間も歩き回ったんすけどね」

「そ、そうだったの? ど、どういうこと?」


 エマの困惑に対し、レオンも多少、困惑したのは一瞬だけで、

「かのは時間を超越できるのかもしれませんね」

「すごいわね……。じゃ、じゃあ、かのちゃんの世界に行くことができたのね」

「はい。すごい世界でしたよ」


 エマは目つきを変えた。


「あのね」

「話を聞きたいのは山々なんですけど、腹が空きました。飯ください」

「そ、そうね。この世界だともう食事の時間だしね。今、用意するわね」


 いつも穏やかなエマのハッとしたような表情を見たのは本当に久しぶりだ。きっと何か大事な話があるに違いない。


 レオンとエマの食事は貴族ではあるがとても質素なもので、庶民と変わらない。二人で用意し、二人には広すぎる食堂の隅で一緒に食べる。

 ライ麦の黒パンに、チーズ、野菜たっぷりのスープ。

 肉がメイン料理になることはほとんどなく、スープの中にベーコンが少し入っていればいいほうだ。

 レオンもエマも酒は飲まないが、食後にフルーツはある。


 レオンはライ麦パンにチーズをたっぷりと乗せ、一口食べる。いつもの味だ。野菜スープには豆やキャベツがゴロゴロと入っている。ベーコンは細かく少ない。味付けは塩だけ。

 塩だけだから、ローリエのようなハーブの香りがひときわ際立っている。


「で、奥様。話ってなんですか?」


 エマは懐から紙を取り出し、レオンに見せた。

 絵には剥げた頭に変なものを乗せている男や変な風に頭を結い上げた女が描かれ、どちらも見たことのない縦長の服を着ていた。腰には布を巻いている。袖の広がりが無意味にも思える。


「こいつら、なんすか?頭が変すね」


 レオンの困惑に対し、エマは淡々と、


「そう。その絵の人たちの頭は髷って言うの。その様子を見ると、そういう人たちはいないのね。……時代が変わりすぎたのかも知れないわね……」

「は? 時代?」

「昔、私はその絵の人たちが生きていた世界で生活していたことがあるの。かのちゃんはその絵の人たちと同じ世界の子じゃないかと思ったの」

「どういうことですか? なんで、そんなことがわかったんですか?」

「これ。前に、かのちゃんが落としたものなんだけど」


 エマはもう一枚懐から小さな紙を取り出した。カードのようだが、よくわからない材質で覆われている。

 そこには、かののとてもリアルな顔が描かれ、レオンが見たことのない文字がびっしりと書かれていた。


「これなんすかね? なんて書いてるんですかね」

「学生証って書いてるわ。萩野かの。ヒロヤ女学園高等部1年。多分、荻野かのが名前ね」

「この文字が読めたから、そんな珍妙な頭をしてる連中と同じ世界に自分やかのがいたとわかったと」

「そう」

「つまり、こいつらもこの文字を使ってたと。で、奥様はどうしてこんな頭の連中の世界にいたんですか?」


 エマは真剣な表情で、

「私はその世界で何度も記憶を持ったまま生まれ変わってきたの。生まれる時期によって国も時代もバラバラ」

「マジですか?」

「私が最後にその世界で生きた時代と国では髷が普通だったの」

「で、次に生まれてきたのがこっちの世界だと」

「そう。でも、世界をまたいでの転生は今回が初めてよ」

「へー」


 レオンはエマを見た。

 彼女もまた手段や方法は違えど、世界をまたいだ。

 自分が元の世界に戻るための手がかりになりえるかもしれない。


「それで、かのちゃんがとても似ていたの」

「誰にですか?」

「私が仕えていた方に」


 エマは悲しげな表情とともに真剣に語りだした。

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