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お魚を食べる

 レオンは魚を掴んだのはいいものの、ビチビチと暴れまわって、今すぐにも手から離れてしまいそうだ。とにもかくにもこいつの息の根を止めるところから始めなければならない。


「おい、まな板は?」

「まな板?」

「この魚を乗せる台はないですかね? 野菜切る時に使う板とかないですかね?」

「ない」

「この世界は……料理しないのか?」


 さきほどかのが魚をまるかじりしていたところを見るとそうなのかもしれない。文明が進んだ社会だと思ったが食に関しては遅れているのだろうか。いや、進みすぎたがゆえに食に関してはレオンのわからない進化を遂げたのかも知れない。


「しょうがない」

 片手でなんとか懐からナイフを取り出し、洗い場と思われる場所に魚を放り込み、エラにナイフを突き刺した。

 青い血が魚から吹き出す。


 食えるし、うまいのだろう。だから、血の色を気にしていてはいけないのだろう。

 魚が動かなくなったところで、レオンは頭を切り落とし、ぶつ切りにした。

 レオンは料理が得意なわけじゃない。学生時代の魔物討伐実習の授業で、実習に困らない程度の魔獣や魔物の調理法を習ったくらいだ。


「おい、塩とかあるか?」

「ない」

「塩もねーのか。お前、普段何食ってんだ」

 かのは白い箱へと向かい、開けた。そして、平べったい箱を出した。

「これ」

 レオンが蓋を開けると、凍った惣菜が入っていた。


「すごいな。その箱で物を凍らせてるのか」


 改めてキッチンの中を見回すと、鍋があるくらいだ。

 魚を鍋に入れると、レオンは魔法で水を満たして沸騰させた。

 あとは魚に火が通りまで、魔法で水を沸騰させ続ければいい。


「この世界、魔法は使えるんだよな。ってことは、この世界も当然魔法はあるのか」


 だからこそ、かのは世界と世界を移動できているのだろう。


「おい、この世界の魔法ってお前みたいに世界と世界を移動する以外にもあるのか?」

「魔法? かのの世界に魔法ない」

「は? だって、お前、俺の世界に来てるだろ」

「魔法じゃないよ。歩いてたら着くだけ」

「歩いてたらってお前、自分の力を制御できねーのか」

「せいぎょ?」

「もういいよ」


 魚も煮終わり、早速、食べることに。

 レオンは食器はどこだとか尋ねるのも探すのも面倒くさかったので、手で魚の身を千切って口に放り込んだ。

 かのも同じように食べ始めた。

 かのとレオンは味のない魚をただ食べる。

 レオンはまずいと思いながら食べていたが、かのはいつもの微笑みを崩すことなく食べ続けている。


「おい、うまいか?」

「おいしい」


 ふむ、かのは味覚オンチらしいとレオンは納得し、かのが先ほど見せた凍った弁当を食べてみることにした。

 弁当の中身はハンバーグのようなひき肉の塊と野菜の惣菜数種類だ。


「この弁当はこのまま食うのか?」

「ううん。チンする」

「チン?」


 かのは弁当を持って、また違う箱を開け、その中に入れ、ボタンを操作した。すると、ヴイーンと動き出し、数分後、軽快なメロディを鳴らし動作を終えた。

 かのは弁当を取り出し、レオンに渡した。


「これで食べれる」

「ほぉ。便利だな。この世界だとこれが普通なのか?」

「わかんない。他の子、お母さんの料理食べてるみたい」

 どうやら、この世界でも母親が料理をするらしい。文明が進みすぎて、料理の概念が消えたわけではなさそうだ。


「お前のカーチャンは?」

「わかんない」

「わかんないって? どこにいるんだよ」

「わかんない。小さい時に会ってそれっきり。でも、お金送ってくれるから、生きてる」

「ふーん。親父は?」

「わかんない。小さい時に会ってそれっきり。でも、お金送ってくれるから生きてる」

「ふーん」


 どうやら、かのはこの世界では特殊な生い立ちのようだ。レオンの世界にあっても特殊な生い立ちだ。

 弁当を食べてみると、かなり複雑な味だ。よくわからない雑味のような味がする。おいしいとは感じなかった。

 食事も終え、レオンがかのに、


「なあ、俺、帰りたいんだよ」

「バイバイ」

「バイバイじゃねえよ。お前の力で俺はここに来た。お前の力じゃないと俺は帰れん。俺を帰せ」

「奥のところ?」

「奥のところだよ」


 奥とはエマのことだ。

 レオンがエマのことを奥様と呼んでいた影響か、かのはいつのまにかエマを奥と呼んでいた。


「俺は帰りたい」

「どうすればいいかわかんない」


 いつも微笑んでいる少女は初めて困った顔をした。

 それを見て、レオンも困ってしまった。

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