幽閉のエマ
レオンが山に行っている間、王都に護送されたエマは犯罪者が収容される塔に幽閉された。侵入困難とされる鉄壁の塔として知られている。
来た当日は王妃時代の悪評を真実だと思っている兵士たちに肉体関係を迫られそうになったが、フェルム卿やエマが懇意にしているロザ派の神官たちが訪れたことで兵士たちの態度は一変した。
今では貴人と同等の扱いを受けている。
エマは窓から広がる城下を眺めながら、ユージェニーのことを思い出していた。
箱(王)は手に入れても中身(王の心)までは手に入れることができなかった。
それは自分も全く同じなのだが、自分とユージェニーの違いはエマにとって中身は必要なかったという点だろうか。
長く輪廻転生を繰り返してきたので、様々な人の機微を見てきたし、自分も愛憎に狂わされることもあった。
だが、長く生まれ変わりすぎたのだろう。今では誰かを愛することも憎むこともなく、ただ、時の流れるままに身を任せるだけだ。
王は現在、原因不明の昏睡状態にあると面会に来たフェルム卿が教えてくれた。
エマは深刻そうに、「そうですか」と言ったが、原因はわかっている。だが、話で聞いていたよりも明らかに進行が早い。
王妃は参拝から早く戻ってきて、エマの裁判が始まった。
もちろん、エマは否定したが、王妃の神託がある。
当然、裁判はエマの有罪に決まる。通常の司法手続きよりもかなり早く進められている。
おそらく神託が早くエマを処刑しなければ国家が危ないと告げていると聖女が吹聴したのだろう。
エマは裁判所から塔に戻ってきた。一部の区画は運動のため歩いても良いことになり、散歩を始めた。
突き当りの部屋には王の姉リティエが眠る部屋がある。王とは10歳ほど年が離れていて、長い間、目覚めることなく眠っている。
リティエは外国の王家との結婚が決まらず、功績を上げた国の英雄に報奨として嫁いだ女性である。
息子を産み育てていたが、ある日、王宮に里帰りをした日に倒れて以来、目覚めたことはない。当時、まだ17歳だった。
元々は王宮の一室で眠っていたが、現在の王が即位したのと同時に身の安全を守るためという理由でこの塔へと移送された。
この塔は警備は厳重で、侵入も脱出も難しいと言われている。
彼女の息子が、現在の王に子供がいなかった場合の王になる手筈となっている。
エマは目を細めて、王によく似た儚い顔の少女が眠る部屋の重い扉を見つめた。
エマが王の秘密を知ったのはある出来事がキッカケだった。そして、教会のジジイから相談を受けたのだ。
それはエマが嫁入り道具として持参した見た目だけは良い使い道がわからないある魔道具についてだった。
エマは祖母からもらったのだが、使い道も使い方も不明だが見た目は良いのでネックレスに加工して身につけていた。
ジジイと王はそれを欲したが、使い方には難点があった。
話を聞き、真実を知ったエマはいとも簡単に了承した。
その時のジジイの驚きようといったらなかったし、王はエマのことを自分の恩人にして希望だと喜んでくれた。
喜ばれると気持ちが良いものだ。
後日の裁判で、自分の有罪と処刑が決まった。
王との約束は守れなくなったが、聖女やジジイがいるから最悪は防げるだろう。
やはりエマに未練はなかった。
それに、次の転生先でも違う世界に行くことができれば、若に会える可能性がある。
世界をまたいで本当に若は移動したのかどうか確かめることのほうが、エマにしてみれば重要だった。
なぜ、いつまで経っても若が気になるのかわからなかったが、とにかく、喉に刺さった魚の小骨が如く引っかかるのである。
そうこうしているうちに、自分の処刑当日となっていた。




