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女主人の庭に迷い込んだ少女

 山間の小さな村の外れにある館で、ゆったりとした臙脂色のドレス姿の女性が椅子に座りながら、庭を眺めながら紅茶を飲んでいた。優しそうな顔をしていて、年齢は20代前半で、亜麻色の髪を後ろに結い上げている。


 傍らの執事に向かって、


「レオン。今日、あの子は来るかしら?」

「さぁ。どうですかね」


 レオンと呼ばれた執事も20代前半で、褐色の肌に黒髪。髪は随分と酷いくせ毛だ。優しい顔の女性とは違い、こちらはヤンチャそうな、ヤクザのような鋭い目元をしている。


「それよりもエマ奥様。いつもくる行商人のやつが俺が頼んだ物を一向に持ってこないので、次持ってこなかったら、とっ捕まえて処刑してくださいよ」


「ダメです。あなたが変なものを頼んだからでしょう」


「変じゃないっすよ。単なる爆弾ですよ。村のガキが俺を馬鹿にするので、大人の凄さを見せつけるだけです。ガキの家、ふっとばすだけです」


「違うことで凄さを見せつけなさい。それに、あなたなら爆弾を使わずとも魔法でこの村ごと吹き飛ばせてしまうでしょう」


「どうですかね」


 レオンはニヤニヤするばかりだ。

 エマは困ったようにため息をつき、

「しょうがないわね。執事よりも冒険者のほうが向いているのかもしれないわね」


「あなたの執事も悪くはないですがね。しかし、村は平和すぎて、仕事も少なく、あなたが税を増やさないせいで、税収も少なく。遊ぶ金を横領する余裕もなく、日がな一日余暇同然の生活。平和ボケしそうですよ」


「お金を横領したところで、この素晴らしい穏やかな村では遊ぶ場所はありませんよ。強力な魔物もいなくて、平和そのもの。素晴らしいじゃありませんか」


 エマは微笑み、再び、庭へと目を向けた。

 すると、灰色のワンピース姿の少女がトコトコと横切っていくのが見えた。

 エマは立ち上がり、


「かのちゃん!」


 呼ばれた少女は立ち止まり、エマとレオンに振り向いた。

 年の頃は9歳頃。灰色の長袖の襟つきのワンピースを着ている。身長は150cmあるかないか。たんぽぽの綿毛よりも軽いほんわかとした空気をまとう少女だ。


「いらっしゃい!」


 このかのちゃんと呼ばれる少女は時々、屋敷の中に迷い込むのだが、どこから来ているのか全くわからない。村人というわけでもないし、旅人でもない。

 わかっているのは名前だけだ。


 圧倒的不審者なのだが、館の女主人であるエマがかのをかわいがっているので、執事のレオンはとっ捕まえないようにしている。

 レオンはかのに駆け寄ろうとしたエマの結い上げた髪を掴み、引き寄せた。そして、かのが右手に持っていたものに目を向けた。


「お前、何持ってんだ」


「わかんない。もらた」


 かのはそう言って、右手を掲げた。

 掲げられたものは巨大なワニのような生き物の手だった。黒い禍々しい凶悪なまでの強い邪気を放っていて、黒いオーラで覆われている。


「お前、よくそんなもの素手で持てたな。普通の人間だったら、邪気に当てられて発狂してるぞ。奥方が発狂して、そこらへんで立ちションし出したらどーすんだよ」


「わかんない。でも、これおいしいって。もらた。あげる」


 かのはレオンに邪気まみれの手を向けた。


「いらねーよ」


「そっか」


 エマがレオンに、


「邪気が何を引き起こすかわからないから、いつまでも邪悪なものを持たせるわけにもいかないわ。教会に持っていって、浄化してもらいましょうか」


「邪気が強すぎて、この村のじじい司祭が昇天しちまうでしょうよ。しょうがねーな。おら、そのまま持ってろ」


 レオンはかのにそう言うと何事かを唱えた。そうすると、邪気は消えさり、黒いオーラも消えた。


「魔獣や魔物の類なんでしょうね。まぁ、このあたりにはいない魔物の肉っすかね」


「そう。それじゃ、食べてみましょ」


「はぁ!? こんな得体の知れねー肉を食うって! 何考えてんですか!」


「食べ物を粗末にしてはダメよ。それに、おいしいって言ったんでしょ?」


 かのもうなずき、


「くれた人、おいしいって言ってた」

「得体のしれない肉をどう食うんですか」


 エマは肉をよく触り、


「血抜きはきちんとしてあるし柔らかそうだから、素直に皮を向いて……焼いてみましょうか。かのちゃんも一緒に食べましょうね」


「うん」


 かのは小さくうなずいた。

 レオンははぁとため息を付きながら、


「お前の親はどんなやつなんだろうな。こんなガキをほったらかしてよ」


「ガキじゃないよ。かの15歳だよ」


「うそこけ」

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