番外編3
番外編の短編です。新作を始めたので下記のリンクから読んで頂けると嬉しいです。
大国セレスでは7月7日に七夕という祝い事を行う。
アルタイルとヴェガという神様にお祈りを捧げる日なのだが、なんとそのふたりは年に一回しか会えないのだとか。
互いに愛し合いいているのに一年に一度しか会えない悲しみは想像するだけで胸が詰まってしまうが、その情報を教えてくれたメイドいわく、一年に一度しか会えないからこそ燃え上がる恋もあるのです、と力強く力説した。
一年に一度しか会えないふたりは出会った瞬間、猛烈なキスをし、そのまま閨に消えていくはず、と彼女は妄想を膨らませているが、無視をすると七夕の風習を教えてくれた。
「王兄妃、七夕には東方の鑑賞樹の〝笹〟に願いを書いた札を付けるとその願いが叶うそうです」
「笹ですか。聞いたことがない植物ですね」
「東方のチューカという国の植物だそうです。なんでも白黒の熊が好んで食べるそうな」
「先ほどから情報量が多すぎます。織姫に彦星なる神に年に一度しか会えない設定、さらに白黒の熊ですか」
「はい、なんでもパンダというファンシーな生き物がいるそうです」
「信じられません。そんな熊がいるなど」
「しかし、七夕の願いが叶うというのは事実なんですよ。その証拠が私です」
「と言いますと?」
「私はこの城にお仕えする前、笹を手に入れ、願い事を書いたのです。どうか王宮に出仕できますように、と。するとあら不思議、最高難度の倍率の王宮メイドになれたというからくりです」
「それはすごいかもしれません」
「王兄妃殿下もなにか願い事を書かれてはいかがでしょうか」
「そうね。試してみようかしら。ちなみにリカルドは毎年書いているの」
「リカルド様はこういった子供っぽい行事は嫌いです。しかし、今年は王兄妃が参加されると聞いて札を受け取ってくれました」
「参加するということね」
「はい。願い事、気になりますか? 事前に私が調べてもいいですよ」
「不要です。事前に調べるなんて無粋ですもの」
そのように断言すると七夕の札にさらさらと文字を書き込む。メイドは黙ってそれを持って行き、それを笹にくくりつける。
そして後日、リカルドも笹に願い事をくくりつけるのだが、ふたりの願い事は奇しくも一致した。
「妻が」
「夫が」
「ずっと健康で幸せでありますように――」
それがふたりの願いだった。
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