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ぼくの恋愛に教科書は要らない  作者: 瀬野 或
二章 ハリボテギャル
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#13 ひとりだけのかくれんぼに、彼は過去を重ねる


 食堂付近から捜索を開始した。


 校舎裏、体育館裏、グラウンド、地獄の階段と順々にススガクの外周を見て回る。だが、授業をサボる生徒は要所要所で複数人見かけても、(なえ)(しろ)(きっ)()の姿は確認できず。


 つい先ほどまでつかさと話していた職員室前の広場まで戻ってきたぼくは、スマホを取り出してメッセージアプリを開いた。連絡がきていないということは、つかさも桔花を見つけられていなそうだ。


 校舎内で潜伏できそうな場所と言えば、授業で使う理科室と音楽室、授業以外は鍵を掛けている調理実習室と定時にならなければ開かない図書室を省いた、一階多目的ホール、各階にあるトイレ、非常階段、複数人で集まって駄弁るのに丁度良さげな廊下にあるちょっとした踊り場くらい。


 おそらくつかさはそこらを重点的に探しているはずだろうけれど、捜索を開始してから十五分は経過しているのに連絡はこない。時刻は既にホームルームが始まって、出席確認が済んだ頃だろう。となると、教室に様子を見にいって誰かに捕まったとするほうが自然か。


 つかさが教室にいると仮定して、ここでメッセージや通話をするのは得策ではなさそうだ。もしも目の前にチャラーズがいた場合、つかさに被害が及ぶ可能性もある。それだけは駄目だ。そして、つかさからの連絡がこない以上、勝手に自分の捜索範囲から離脱するわけにもいかない。


「……かくれんぼの天才かよ」


 そう言えば、小学生時代に珍しくかくれんぼに誘われたことがあった。一回目の鬼決めでぼくが鬼になり、五十秒数えて「もういいかい」とお決まりのフレーズを叫んだけれど、「もういいよ」は何処からも返ってこなかった。


 あまりにも返答がないものだからとても嫌な予感がして、急いで自転車置き場を見にいってみると、ぼくの自転車だけを残し、他の自転車が全て消え去っていた――などという、トラウマ級の思い出がある。


 何が一番きつかったって、それまで仲がよかった唯一の友だちも一緒になっていなくなっていたことだ。その件があってからといものの、かくれんぼを含む全ての『あそび』に参加できなくなった。


 学活の授業で強制的に行われる際は、自分が鬼役にならないことだけを意識して、それこそ『ケイドロ(=ドロケイ)』なんかが選ばれた日には開始と同時に捕まったり、泥棒を捕まえない怠惰な警官にもなった。


(いや)な記憶を思い出しちゃったじゃん……」


 嫌という漢字を()()()()()()とすると、ぼくが言う『いや』は精神的嫌悪感・不快を示す『(いや)』が正しいように思う。


 まあでも、辞書を引けば、嫌、厭、否、どれも同じ意味に類するのだが、『厭』と表現したほうがニュアンス的にも薄気味悪さの『いやぁな感じ』に見えない? 漢字だけに。


 暫くベンチに座ってつかさからの連絡を待ってみたが、メッセージアプリのトーク画面はうんともすんとも言わない。


 スタート地点に戻ってからこっち、五分待っても音沙汰なしなのは少々気掛かりではあるけれど、このまま何もしないで時間を浪費するよりは、もう一度、足を動かしたほうが賢明だ。


 それに、一箇所だけ探していない場所がある。



 * * *



 校舎裏の破れたフェンスを潜り、裏山の中へと侵入する。ぼくとつかさが何度も行き来しているだけあって、生い茂っていた背の高い雑草たちは踏み慣らされて道を作っている。


 草いきれに咽せそうにもなりながら、時折、腕に留まる藪蚊を叩き、目的地である秘密基地を目指した。


 秘密基地の存在は、別に隠しているつもりはない。藤森謙朗を招待した時点で、ぼくとつかさだけの特別な場所とはしていなかった。が、あまり喧伝する場所でもないだろう。あまりにも知れ渡り、フェンスを塞がれる事態になったら迷惑だ。


 迷惑なのはフェンスを越える生徒だろう、というツッコミはやめてくれる?


 倒れた雑草の向きのまま進むと景色が雑木林になり、雑草の地面が土に変わる。ところどころに剥き出しになった木の根で転ばないよう注意しながら更に奥へと進めば、ぼくとつかさ、そして、つかさの姉(=兄)が作り上げた秘密基地に到着。


 ぼくらの王は一本の丸太をくり抜いて製作された手作りベンチに座り、退屈そうに両足をばたばた動かしていた。


「やっぱり此処だったか」

「……見つかっちった」


 桔花は悪戯っ子っぽく笑ってみせるが、昨日に見た笑顔には到底及ばない。


「さっきは突き飛ばしてマジでごめんね」

「ぼくもドアの前に立ってたし。そりゃあ邪魔だよねって思ったから」

「うん、普通に邪魔だった」

「はいはい、お互い様ってことにしておくよ」


 ばたばたさせていた足を地面に下ろした桔花は、「座れば?」とぼくに訊ねた。頭を振って答えると、「いいからいいから」って言いながら立ち上がり、ぼくの背中を押してベンチの前まで強引に移動させ、無理矢理ベンチに座らせた。


「此処なら絶対に誰もこないだろーなって思ってたんだけど……ともちーってもしや頭脳は大人の名探偵?」

「誰が薬で身体が縮んでるだ」

「あはは、なにそのツッコミ、マジウケるんですけどー……」


 明らかに無理をしている、とぼくは思った。


「桔花を見つけたらつかさに連絡する約束なんだ。ちょっと連絡してもいい?」

「うーん、もうちっとだけともちーと二人きりで話したいかも?」

「つかさがいたほうがいろいろと案も出してくれるよ?」

「いやー、つかっさんが嫌ってわけじゃないんだけど、あの場面を見られちゃったからさぁ、顔を合わせづらいみたいな……?」


 それもそうか。教室で起きた騒動の当事者ではないぼくだからこそ、聞ける話もあるのかもしれない。


「でも、一応は連絡しておく」

「いやいやともちー」

「見つけたからあとは任せてって伝えるだけ。つかさだって桔花を心配して探してるんだよ? 探す相手がいないかくれんぼほど虚しいものはないって桔花も知るべき」

「え、普通に見つけるけど?」

「あ、ああうん、桔花はそうだよねー……」


 いけないいけない。ぼくと気軽に話をするもので、桔花が『友だちに恵まれている民出身』であることをすっかり忘れていた。


 つかさと藤村くんもぼくと同じ境遇の『流浪の民』だったから、ぼくと友好関係を結ぶ人物は総じて、(あん)(たん)たる幼少期を過ごしていると勘違いしてしまったようだ。


 そりゃあわからないよなぁ、半強制的にひとりかくれんぼをやらされる者の心境なんて……。



 

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