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ぼくの恋愛に教科書は要らない  作者: 瀬野 或
一章 オトコオンナ
30/82

#30 最弱の能力を引いたと思ったら実は最強チート能力で、オレを散々バカにしてきた奴らにざまぁしてやりました〜ついでにハーレムになったのでハーレム村を建設します〜


 お菓子の代わりにコロッケが出る――そんな家庭で育った藤村(けん)(ろう)の体型が痩せ型なのはミステリだ。「十七時半には戻る」と言ってぼくらを自室で待たせる度胸もまた然り。変な人だな、と僕は思った。


 土壁に打ち付けた釘に引っ掛けて保管してある鎖の数は合計四つ。インテリアと呼ぶには物々しくて少々難あり。その近くにある棚に、鎖を手入れするための研磨剤とクロスが置いてあった。


 錆びが浮かないよう大切に扱っているのはわかった。わかったけれども、そこまでする必要があるのかはどうも怪しいところだ。素材に拘っているとも思えないし、ぱっと見ではホームセンターで売ってそうな代物でしかない。


 にくのふじむらの二階は住居スペースになっていて、藤村家はここで生活を営んでいる。2LDKの間取りの和室を、藤村くんが一人で占領。ご両親は何処で寝ているのかって? おそらくは居間で寝起きしているのだろうと思われる洋室に、ダブルサイズのソファーベッドが置いてあるのが見えた。


 藤村くんの部屋の窓は二つあるが、片方の窓は隣の家と面しているため、頻繁には解放しない様子。それを証明するかのように、窓の半分が箪笥(たんす)で埋められていた。


 鎖と棚の並びに学習机があり、机の上にデスクトップパソコンが置いてある。ゲームに特化したメーカーで、ぼくが使っているやつの一つ前の世代。このスペックでも申し分なくグリモワをプレイできる。


「男の子の夢()()を詰め込んだ部屋って感じね」


 だけ、を強調するつかさ。

 そこに悪意を感じて止まない。


 本棚に、出版社、あいうえお順で規則正しく並べられた本のラインナップを見た感想ではなさそう。(おもむろ)に『手強いニオイもこれ一本!』と大々的に銘打つ消臭スプレーを手に取ったと思ったら、シュッ、シュッ、シュッ、三回ほど部屋に撒いた。


「ともえの部屋はどんな感じ?」

「別に、これと言っては……」

「カーテンがピンクだったりしないの?」

「え、なんで知ってるの? 怖いんだけど」

 

 そうなんじゃないかなぁって、つかさは微笑する。


「つかさの部屋はどうなの?」

「男子っぽくも、女子っぽくもある、かな?」

「想像できないなぁ」


 言わば、ピザのハーフ&ハーフみたいな感じで、部屋の真ん中を境に右半分が女子、左半分が男子的な? だとすれば、どれだけ大きい部屋なんだ。


 自宅は宮殿みたいだったりするのだろうか。あり得ないとは言い切れないのが我がクラス最大の歩くミステリ、(むく)(えのき)司。


 十七時半には戻ってくると言っていたけれど、それまで何をして待てばいいのやら。勝手にパソコンを弄るわけにもいかないし、本棚にある漫画かラノベを読んで待っていろって?


 最初から十七時半集合でよかったんじゃないの? って不満が口を衝いて出そうになった時だった。


「ともえ、凄いの見つけちゃった」


 暇だったからって言い訳が(まか)り通るならば、世の中の犯罪は全て合法の上で成り立つのだろう。であれば、暇だったから家探しをしたって言い訳も通らなければ筋が通らないので、まあいいか、ぼくも大罪に加担しよう。


 つかさが勝手に開いた箪笥の中には絶対に開けてはならなそうな黒い箱があり、絶対に開けてはいけない物は大抵誰かが開ける仕組みである。


 箱の中にしまってあったのは、これまた黒いマジックで色付けされた一冊のノートだった。


 あ、これは本格的に見ちゃいけないやつ!

 それだけは駄目だ!


 伸ばしたぼくの手は虚を掴み、興味津々にノートを開いて絶句するつかさ。


 間に合わなかった、か。


「ねえ、ともえ。男の子ってみんなこうなの?」

「つかさも男子の胸中を理解できるのなら察してあげてほしい、かな」


 ごめん、藤村くん。

 キミの尊厳はこの瞬間に砕かれてしまったようだ――。



 * * *



 予定時刻より十五分遅れて戻ってきた藤村くんは、部屋に漂う何とも言えない微妙な空気に「うん?」と首を傾げた。が、直ぐにぴんときたようで、一目散に箪笥を開く。


「……見たのか」

「見たというか、不可抗力というか、RPGの主人公になった気分だったというか」

「……見たんだな?」

「だ、大丈夫だよケンロー! 字が汚かった以外はまあ、内容は兎も角として、よくあそこまで書けたなーって感心したくらいだし」

「がっつり読むな! ああ、最悪だぁ……」


 黒いノートに書かれていたのは、藤村くん作のオリジナル小説『最弱の能力を引いたと思ったら実は最強チート能力で、オレを散々バカにしてきた奴らにざまぁしてやりました〜ついでにハーレムになったのでハーレム村を建設します〜』だった。


「い、言っておくがそれは下書きで、連載しているのは別にあるからな!?」

「ああ、うん。ネット小説サイトに投稿しているんだよね。心ばかりだけど、ブクマと評価ポイント入れておいたよ」

「有り難いけど有り難くねぇよバカ! 調べんじゃねぇよバカ! ありがとよブワァカァッ!」


 五月雨(さみだれ)刹那(せつな)先生の今後に活躍に乞うご期待――ッ!



 


 ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

 これからも宜しくお願い申し上げます。


 by 瀬野 或

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