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ぼくの恋愛に教科書は要らない  作者: 瀬野 或
一章 オトコオンナ
1/82

#1 準大人の価値観は社会に要らない


 高校生という字面だけを見れば、それはもう随分と大人に近づいたように思う。


 見た目はあまりにも変わらないのに、頭の中と年齢が心と身体を追い越していってしまったみたいだ。ぼくはその姿を数十メートル後方で、他人行儀にじっと眺めているだけ。


 追いつきたいとか、追い越したいとか、そんな感情は一切なくて、離れてしまった距離を漫然と傍観するに過ぎない。


 それでも、世間は、高校生を()()()とみなし、電車賃も、映画代も、レジャー施設でさえ有無を言わせず大人料金を支払わさせる。


 それなら、ぼくは、ぼくらは、準大人としての権利を主張してもいいんじゃないかなって、時々だけど、そういうことを漠然と考えたりした。


 いいや、ちょっと違うかな。


 権利を主張したいわけじゃなくて、どうするのか選ばせてほしいんだと思う。大人社会にも子どもみたいな言動をする人間がいて、そんな大人でも成人を名乗っている。


 だから、ぼくらも、どうあるべきか、選択できてもいいんじゃないかって。


 子ども料金のままか、大人料金を支払うか、将棋の駒のように一線を越えれば『と』に成るのが定石ではなく、『と』に成るかどうかの選択ができたっていいのに、ぼくたちが生きる世界は、選択肢が、極端に少ない。


 どう考えたって、『はい\いいえ』の一方(いっぽう)しか選べないのはおかしいんだ。『どちらでもない』があってもいい。『はい』に近い『いいえ』だって大切だ。


 中立という立場に不都合でもあるの? 選択肢にバリエーションを増やすことは、大人にとってそんなに具合が悪いこと?


 何方(どちら)かしか選ばせてもらえないがために極論を出すしかなく、どうしようもなくなって高層ビルの屋上から、はたまた電車に飛び込む人が後を絶えない社会を作り上げたのは、専門家気取りで「これだから最近の若者は」と自分の世代を棚上げする大人たちだ。


 だとしても、無責任な大人たちに、二択しか選ばせない世界を作った責任を取ってほしいわけじゃない。


 大人も数十年前はじゃりじゃりした子どもだったというのに、その事実をすっかり忘れしまった大人たちがどう責任を取れると言うのだろう。無理だ、と断言できる。


 ジャンケンをジャンケンとして素直に楽しめなくなった時点で、大人は頭を下げて謝罪することすら忘れてしまうのだから。


 そして、彼らの(しょく)(ざい)も、ぼくらが背負わされる宿(しゅく)(ざい)も、結局は、完成したはずのパズルで何故か枠外に余ってしまった透明のピースについての辻褄合わせでしかなくなってしまう。


 有耶無耶な問題について議論したところで、それは議論の真似事だ。


 見えない。

 聞こえない。

 臭いものには蓋をする。


 そうして誤魔化し、様子見した結果がこの惨状だとすれば、枠外に余った透明なピースを「最初からなかったことにしよう」としても、「それもそうだ」と納得できるのだろう。


 何が正しいのかなんてぼくにはわからない。


 皆、密室に閉じ込められたような息苦しさを覚えながらもどうにか生きている。不透明な未来が怖くって、不明瞭な明日に怯えて、目標すらあやふやなまま生きている。

 

 選択肢が一つでも多くあれば、自分らしく生きられる保証があるとすれば、密室が密閉されていなければ、窓があって、天井が開いて、誰でも自由に行き来できる風通しがよいドアがあれば、世界はちょっとだけ、ほんの一握り分でも優しくなる気がするんだ。


 否定せずに受け入れることができれば、きっと、おそらくは――。



 * * *



 未成熟児として産まれたぼくの現在は、身長百五十八センチ、体重四十キロ、痩せ型で、やや茶色がかった黒髪。光が当たる角度によっては茶色に染めているようにも見える。


 小学校までは、話題にすらならなかったこの髪色が、中学校に入ると問題視された。


 登校したぼくを見るなり血相を変えてやってきた生徒指導の岡崎が、「髪を黒に戻せ」と言ってきた。続けて、「学校は協調性が大切なんだ」とも。


「この髪色は地毛です」


 なんて反論しようものなのなら生徒指導室行きは免れないだろう。


 内申点にヒビが入るのだけは勘弁してほしい。


 口答えせずに「すみません」と頭を下げると岡崎は満足そうに、「明日までに染め直してこい」と言って他の生徒に挨拶をしていた。


 帰宅途中にドラッグストアで購入した髪染めは、連載終了した超有名なオシャレバトル漫画と同名の物。岡崎の信用を失う前にバンカイしなければならない。


 ぼくのバンカイは髪色を変化させるだけ。それだけならまた別のバトル漫画だ。ま、髪色を変えたところで超常的な力を得るわけではないが。身勝手な行動をしたわけでもないし。


 帰宅して早々にお風呂場で髪を染める。


 半年に一回、この臭いと向き合わなければいけないのかと思うとうんざりするが仕方ない。どんなに理不尽なルールであっても、それを校則(ルール)と定めた場所に身を置くのであれば従順であるべき。


 長い物には巻かれておく。――ただ、『学校教育が個性を殺す』の理由の一端を垣間見た気分だった。



 


 どうも、瀬野 或です。

 この物語は、主人公の葛藤を描いた『全恋愛を対象のラブコメ』です。どうか、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

 初回以降の投稿時間は決めておりませんので、当物語の進捗状況などは、瀬野 或のTwitterをご確認くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い問題定義ですね。 考えさせられます。そう言う葛藤は大好物です。 参考になりました。
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