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ベレーナ・ターン 3




 

 時というものはあっという間に過ぎるらしい。この間まで小さい妹だったカトリーナがもう結婚なんて、わたくしも年をとったわねぇ。あんなに小さくて可愛かったカリンが……、わたくしも年を取るわけだ。

 って、優雅?に人生語っているわけにはいかないでしょう。あ〜あ、そろそろお父様と喧嘩しすぎて、義母様のレクチャーを聞いて頭がおかしくなってきてしまったらしいですわ。

 

 カリンには正直、申し訳ないと思っていますわ。カリンが断るようなことを出来る子では……、あるんだなぁ、これが。

 まあ、あの子は公の場ではおとなしくしているからそんな事出来っこ無いと思うのよねぇ。いえ、そうであってほしいという姉としての願望ですわ。


 それにわたくしを含めた家族はひどいと思うわ。あの子が断れないように事前に根回しまでして、それなのにカリンには一言も話していないとなると、流石にカリンは可哀想だと思いますわ。



 あのこ、反抗期という反抗期は無かったけれど、それでも思春期の気の難しい、情緒不安定な女の子なの!しかも小さい頃にのびのびと育ったから、自分の意見を言えるような野草みたいなの!そんな子を放置しておくなんて、カリンが知ったらどうなるか考えていないわけ?


 まず、めちゃくちゃ怒るでしょうね。

 次に、ユリアのことを問い詰めるでしょう。

 お兄様とお父様と喧嘩するでしょう。

 義母様が止めに入って……。


 あ〜〜〜〜!!!!!!!!もう嫌だ!!!!!!!!!なんで毎回まいかい家はこういう事になってしまうわけ!!!!????




 わたくしが思案していると私の様子を心配した侍女が声をかけてくれた。


「お嬢様?いかがなさいました?」


 その声でわたくしは現実世界に戻ってきた。


 あたりを見渡すと……、ここは家の図書室らしい。

 って、そのへんのことはきちんと覚えていますわよ。バカではないんでね。


 何をしに図書室へ来たかって?それはもちろん、落ち着いて考えるためにですわ。


 わたくしの家の図書室は天井がアーチになっていて、二階ぶんくらいあるの。はしごがあるのだけれど、わたくしは梯子を登った上のところがお気に入り。

 お兄様とかは机で本とにらめっこしていることの方が多い。そんな事しなくても、本はまったり読めばいいじゃないのよ。って、わたくしはその様子を見ながら思うのよねぇ。


「いえ、大したことではないのよ。そう、お父様の書斎に行くって先に言っておいてくださるかしら?お願いできる?」


 要件を伝えると、「わかりました」といって、小走りに侍女?見習いかしら?が走っていたのを私は見届けた。

 本当は侍女にお願い口調で言うのは行けないと言われているけど、関係ないと思うわ。



 これから、父の書斎で兄様二人と話し合いをする。


 これもカリン抜きだけれどね。


 そして完璧な秘密主義者の三人は、カリンには絶対に言わないらしい。

 ユリアは事前に話を聞いている人の中に入っているけれど。

「……あの子は大丈夫よ。プロだからね」わたくしは流石に見かねたお父様にそう言ってユリアが聞いておくことを許してもらった。渋々って感じだったけれど。そんなのは気にしないわ。




 その後、歩いて父の書斎に行くと、中から話し声が聞こえた。


「ベレーナはちゃんと話せるんだろうな?」


「おい、聞かれたらどうするんだ」


 わたくしの扉をノックする手がピタリと止まった。

 ええ、バッチリ聞こえていますわよ!!!あのねぇ、あなた達!!!!!!


 わたくしは沸きだつ怒りの感情をしまうと、落ち着いた声と、落ち着いて扉をノックした。


「ベレーナです。入っていいでしょうか?」


 声こそ落ち着いていたものの、とても怒っていた。


「お兄様もお父様も、最近ひどすぎませんか!!!!」


 何故か三人揃ってヒュッと息を呑まれた。……結構失礼だと思いませんか。


「落ち着け、ベレーナ。その、今回のことは、俺たちも悪いと思っていたんで、そ、そんなに怒らないでくれ!」


 何故かしどろもどろになりながら言い訳を始めるカテール兄様。あのねぇ、悪いと思っているならカリンに謝りなさいよ。


「ベレーナ、分かったから本題に入るぞ」


「はい、わかりました」


 お父様が話し始めた。



「ロイエンタール家のラファエル殿は一年も満たずに公爵となる身だ。そんな人が結婚相手がいないと世間から揉まれる。そう考えた現代公爵がうちに縁談を持ちかけてきたのは知っているな?家との付き合いもあり、その縁談はなんとしてでも受けなければならなかった。これはわかるな?」


「ええ、お父様」


 それは周りもご周知な話し。


「ですが、何故そこまでラファエルがいそいでいるんだ?」


 そしてそれは、最もな疑問だった。


「カテール、セロシア、お前たちは知っているだろう、あの事を」


 そうお父様が言うとあからさまに動揺し始めたお兄様たち。

 わたくしは知らないけれど?あの事を。

 でも、そんな聞ける雰囲気では無かった。とにかく、お兄様たちがあんな動揺を見せるのは珍しかった。


「あのこととは、何かしら?」


 わたくしがそう言うと、お父様たちはハッとしたようだった。


「そうか、ベレーナは知らないか。いや、知らなくて良いんだ。知られていたらまずいからな」


「どういうことですか?お父様?」


「良いか、ベレーナ、今回はいつもとは事情が違うんだ。それは、カリンも分かっているだろう。はぁ、何事もなく終わればいいがそうもいかないだろう。いいか、変なことには首をっつこまないでくれ。お願いだからそうしてくれ」


「はい」


 やけに疲れた様子のお父様はわたくしの返事を聞くと、もう下がって良い、と言ってから、お兄様たちは残るように言った。


 仕方がないからわたくしは退出した。


 でも、ただで大人しく下がりはしませんからね、と心に誓いながら。





「ユリア、お願い、今回のことは何かが絡んでいるらしいの、お願い!!!カリンは関わらせないほうが良いと思うのよね」


 仕方がないから、ユリアだけには大まかな事情を話した。わたくしもわからないことのほうが今回は多いの、と付け足して。

 案の定、ユリアはキョトンとしていたが、なにか思い当たる節でもあったのだろうか、納得したようにこう言った。


「わかりましたわ。ベレーナ様。……だから、最近父が忙しそうにしていたんですね。兄様も。ええ、カリン様には口外しないようにしますわ」


 そうしてくれるととてもわたくしとしてはありがたい。


「ありがとう、ユリア」


 そう言ったら何故か表情を緩めて笑顔になり弾んだ声でこう言った。


「ええ、こちらこそありがとうございます!!!」


 わたくしとしてはそんな良いことを言ったつもりは無いのだけれどな。







 時というものはあっという間にすぎるらしい。人が気が付かない間に。



 あっという間にお父様が婚約者探しとカリンの婚約ぎめのために開かれたパーティーになってしまった!

 そう思うと色々と憂鬱だなぁ、人生は。


「ベレーナ、色々と頼むぞ!」


「ええ、言われなくても分かっていますよ!?」


 今日という今日までうるさいわねぇ!!!!

 そろそろ言われなくても分かっていますよ!



「ベレーナさん、がんばってくださませ!」



「は、はぁ」


 義母様?あのね、何を頑張れば良いのですか?



 色々なお客様に挨拶をして、ダンスを踊って、社交辞令でお喋りして、って疲れるのよね。


 ダンスと言えばラファエル様が私と踊ってくださった時に、ヤケに寂しそうな表情をしていらしてびっくりしましたわ。


「ラファエル様と踊るのも、これが最後かもしれないんですね。わたくし、それは寂しいですわね……」


 そう言うとやけに思いつめた表情で言った。


「ベレーナ、俺のことを待ってて……?……いや、変なこと言った。忘れてくれ。もう、俺のことは…‥」


 それも、ダンスでやけに密着した時に言ってくるのよ。上から降ってくる甘い声。それだけはやめてほしいのに。心臓が持たないのよ。本当に。


 でも、セロシア兄様やカテール兄様と一緒に遊んだその暖かい日々を思い出して少し寂しく、そして胸が暖かくなった。


「ベレーナ!遊ぼう!おい、勉強なんか良いだろう!!!」


「そう言われましても……」


 そんな会話が毎日だった。私は勉強が好きだったけれど、それと同じに遊ぶのも大好きだった。





 その思い出に浸っていた、暖かい思いが打ち壊されたのはユリアがある知らせを持ってきてから。

 やけに慌てて、心細そうにするユリアに、悪い予感がした。


 案の定、悪い予感は当たることになる。


「カリン様が……、カリン様が倒れてしましました……」


 そうユリアが震える声で告げた。


「ホントなの?ユリア……?」


 浮かれていたわたくしは、頭が真っ白になってしまったわ。口から出たのは震える声。


 浮かんだことは一つ。



 ……世の中はなんて皮肉なんだろう、と。





ありがとうございました!




しばらくベレーナ目線になります。よろしくおねがいします!







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