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第八話 私達の思惑



「つまり、わたくしたちが見落としたかった事実があるってことかしら。そして、あの問題――わたくしが知らない内容を教えてくれる、と言う事で合っている?」



 少し沈黙してからそう言った。お姉さまは私が言いたかった内容を理解したらしく、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべると、悪戯っ子のような光を瞳に宿した。

 私はそんなお姉さまの様子を見て、ウズウズするような感じに胸が高鳴った。そして、ずっと考えていた事を口に出した。



「ええ、そう言うことになりますわね。この話、聞いたら私に協力してもらいますわよ、お姉さま」

 

 今私は多分、口元がニヤリとした形になっていると思う。そして、お姉さまと同じような表情をしているだろうな。


「それは内容によるわよ、と言いたいところだけれど、今回は――場合によっては全面的に協力させてもらいますわ。もちろん、協力するからには貴女もこのわたくしが見込んだだけのことはしてほしい」


「えっと、場合によっては全面的にって、――一体、何を考えていらっしゃるの?」



 そう私が聞くとお姉さまはふふ、と笑って思いがけない事を言った。

 思いがけない――お姉さまならその可能性が無かったとは言えないのだ。そのへん、私の計算間違いと言えるだろうな。



「ええ、そうですわね。だから、貴女に聞いた後、自ら問題を解決したいの。別の方法で。そうしたら――」


「――まさか」


「ええ、そのまさかよ。わたくしは、婚約破棄をしたいのよ。勿論、される側でね。そうしたらお父様も折れてるれると思うのよ。だって、あの問題に対抗するための政略結婚でしょう?」



 私がお姉さまにあの問題について話したかったのは、お姉さまに協力してもらいたかったから。問題を解決――政略結婚以外のやり方で解決したかったから。そうしたら、婚約もどうなるかわからないな、と思っていた。しかし、お姉さまが婚約破棄をされるようなことを望んでいるなんて意外というか、何というか。びっくりした。いや、筋は通っているのだけれど。何というか。



「ええ、お姉さまがそうおっしゃるなら、そうなのでしょうね。でも、そんな事が可能だとでも?」


「可能にするために貴女に全面的に協力するのよ。可能にしなくてどうするって言うのよ!」


「はい、分かりました。それで、協力してくれると言う事で捉えておきます。――本題に入りますわね」


 私がお姉さまの怒りをながすとお姉さまは癪に触ったらしい。本題に入る前に私の言葉を遮って言った。


「本題に入るって――。協力するって言ったわよね!ええ、そう捉えておきなさい。そう捉えてくれていいわよ!――コホン、本題に入ってくださる?」



 恥ずかしくなったのかわざとらしく咳払いをして、お姉さまは言った。時々、お姉さまの態度の違いに動揺することがある。いまだに慣れないのよね。姉妹なのに、今だにっておかしいわよね。



「――コホン、本題に入りますわね。まず、政略結婚のことについて整理することにしましょう」


「それなら、わたくしが話すわね。王家とのつながりを重視し、王家との信頼関係で成り立っているのか、この国――スクレイク王国の貴族なわけ。そんな中、今の貴族にはある問題が生じていた。うち――ローゼンハイン家の権力についてよ」


「ええ、そうですわね。ローゼンハイン家は王家との繋がりも深い3大貴族の一つよ。それは、貴族にとって、バランスが取れていたから良かった。でも――」


「――でも、お母さま――キャサリン王女が降嫁して、ローゼンハイン家から叔母様が王太子妃、今の王妃様に嫁がれていかれた。そうすると、宰相の父を合わせてローゼンハイン家は貴族にとって、脅威としかならなかった」


「それはまだ、お父様にとって良かった。――他の貴族にとって良いかは置いておいてね。でも、お姉さま、それだと、公爵家に嫁ぐことになった理由を説明できて?」


「そうね、それではできないわね。それは一旦置いておくわね。王家とのバランスを考えると、家が嫁ぐのは3代公爵家のほうが良い、それが基本的な考え方ではなくて?」



 お父様は、あくまで3大貴族というのを守ろうとしていると思う。少なくとも、うち――ローゼンハイン家が、スクレイク王国を独裁国家にしてしまうような権力もっていたら国として、まずい。だから、この政略結婚を進めている理由の一つだと思われる。



「基本的な考え方、ね。お姉さま、そのへんの話は予想していた通りだったけれど…よく分かったわ。お父様が今回、政略結婚を進めているのはもう一つ理由がある。もう出て来ていた、あの問題のためよ」


「だから、あの問題って何なの?」


 私はそれを言うため、一つ息を吐き出すと、おもむろに口を開いた。


「――メルー王国とルワン王国の小競り合い、なんだけれどそれだけで事態は終わらないのよ。大体その二つの国だけでうちの国はてんやわんやなのに、もう少し複雑だったね」


 お姉さまが息を飲んだのがきこえた。お姉さまはしばらく固まっていた。そして、震える唇を開いた。


「ホントに?……国と国の対抗のための政略結婚だった、って言うことなの?ねえ、カリン」


 私はそれに答えなかった。私もお姉さまもしばらく沈黙していた。

 


 私達はその後について話し合い、長い夜は更けていった。




   *   *   *




「お嬢様、ジョセリン様がいらっしゃると言うのに、寝不足なんですか。エイミーが恥ずかしゅうございますわよ。そんなお顔をお見せするなんて」


 そう、ジョセリンに会う今日という日に限って、寝不足なのである。理由は勿論、お姉さまとの話で夜が更けていたからだ。そして、エイミーが怒るのも仕方が無いのだ。久しぶりに会えるというのに、心配させるなんて、親不孝な子ねということになる。でも、仕方がなかったといえば仕方がなかったんだよぅ!


 無論、私の心の中の絶叫がエイミーに聞こえているわけもなく。表情をコロコロ変える私を不審そうに見てきた。



「何してんですか?お嬢様」


「エイミーには関係ないわ。それより、もう少し寝かせてくれる?」


 演出として大きなあくびもしたのだが。


「いけませんわ!さ、ベットから出てくださいませ。ほら、今日はユリアはいませんのよ。ジョセリン様といらっしゃるのですから。怒られますわよ」


 しれっと、私の意見を無視して私をベットから引っ張り出した。

 そして、私を着せ替え人形のように扱って、一瞬で着せかえをさせられ、髪を一瞬で結われるとこれも無理やりメインダイニングに連れてかれた。

 今日は水色のレースのドレスらしい。もう何でもいいやって感じ。


 案の定、メインダイニングに人の姿はなく一人食事を取ることになってしまった。トホホホ……。


 私がそのことで溜息を漏らしているとエイミーに一喝されたしまった。


「ほら、言ったことでしょう。遅く起きられるからこういうことになるんです!自業自得とでも申しましょうか!ほら、早く食べてくださいませ!」


 憂鬱な気持ちで口に運んだパンは、なぜだかあまり味がしなく、美味しくなかった。理由としては、エイミーに始終睨まれていたことが原因と言えるだろうか。


「エイミー悪かったと思っているわ。だから、やめてくださる?そんな事をしていたらジョセリンに心配されるわよ」


「誰のせいだと思っているのですか!?」


 これも怒鳴られて終わりだった。


 だってその時、私は気づいていなかった。今が九時過ぎだということに……。



「お嬢様?カトリーナお嬢様!お客様です!早く来てくださいませ!」



 間抜けな私の口から漏れたのは「えっ?」という言葉だった。


「ほら、早く行ってくださいませ、お嬢様!」


 私は、気崩れることもお構いなしにサロンに走っていった。



 バーンとドアを開けると怪訝そうな顔をした方が二名。


 一人は落ち着いた黒色の髪で紺色のドレスを着た、いかにも高貴な気品をまとっている女性。そして、私にとっては母でもある人。

 もうひとりは、黒色の髪に紫色のレースが重なってフワリとしているドレスを着た、雰囲気の柔らかそうな女の子。

 今は怪訝そうな顔から怒りをのぞかせているけれど。


「おはようございます、カリン様?廊下は走っていいけないと、何度申したら分かるんですか?それに、寝坊でもされたんですか?」


「いや……」


「カリン、少し見ない間に大きくなられましたわね。ええ、本当にキャサリン様とそっくりでびっくりしますわ。さ、ユリアも、喧嘩はやめなさい!」


 立ち上がって私の髪を撫でながら、ジョセリンはそういった。


「大きくって、そんなに大きくなっていないわよ。それと、喧嘩じゃないわよ!あっちが一方的に注意しただけじゃないの!」


「ええ、お母さま、喧嘩なんかじゃありませんわ!カリン様が聞いてくれないから、こういうことになるんですわ!」


「はいはい、二人とも落ち着きなさい!」


 しばらく私達はわーわー挨拶やら何やらをしていた。そして、ジョセリンが口を開いた。



「ええ、ここは平和なんだって、実感しますわね。王城では火花が散って、疲労で倒れるものが続出なんですもの。陛下もあの件で、忙しくされてますし。ほんとになんだか」


 

「「えっ?」」






読んでくださってありがとうございました^^

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