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第三話



 筋トレを始めることにした。悔しいからである。

 ひょろひょろのもやし扱いされるのが耐え難いのであれば、デブと呼ばれるのが耐え難いと喚いているお嬢様と同じく、己を鍛えるべきなのだ。


 そういう訳で俺は今、絶賛勤務中に、『もう何が何でも何もしたくない』と駄々を捏ねて泣いて寝転がっていたお嬢様の横でスクワットに励んでいる。

 お嬢様は言い返してくる内はなんだかんだやるが、三歳児みたいに泣いて喚き始めたら意地でも動かないのだ。

 こうなった時は放置に限る。だが、ただ放置しても時間の無駄なので俺の為に時間を使うことにした。元気にスクワットである。


 仕事をしろ、と自分でも言いたくなるが、少し前に旦那様から直々に『お前の仕事はリーザローズのそばにいることだ』とも言われたので、側に居るだけで仕事は出来ている、ということにしておいた。

 真剣な面持ちで告げられたその言葉には『早くダイエットをさせろ』以外の意味があったような気もするが、仕事モードの旦那様──厳格な騎士団長様に下手に突っ込んで聞いてもよいことはない。首を刎ねられるならともかく、給金を減らされると買い食いに割く資金がなくなるので、俺は気に掛かる点は華麗にスルーして頷いておいた。


 今度の休みには城下町の人気店で新発売されたパンを買いに行こう。この世界、ラーメンが無いのが本当に悲しいな。いつか誰か作ってくれないものだろうか。ちなみに俺は作る気がない。美味いラーメンというのは職人の技術と試行錯誤の結果であり、俺のような素人が手を出して成せるものではないからだ。

 頼む、希代のラーメン職人、産まれてきてくれ。というか女神が生まれるように設定してくれ。


 ラーメンへの渇望を誤魔化すようにスクワットに励み続ける俺に、散々啼いて喚いて駄々を捏ねていたお嬢様が、疲れと呆れの滲む視線を向けてくる。


「……お前はさっきから何をしているの」

「トレーニングでございます、お嬢様」

「とれ……わたくしに強いている拷問とはちがうようだけど?」

「これは私がヒョロガリを脱却してお嬢様を意気揚々とデブ呼ばわりする為の修行です」

「はあっ?」


 潰れた大福のように転がっていたお嬢様ががばりと飛び起きた。

 黙々とスクワットを続ける俺の足元に近づいてきたお嬢様は、不満を表すように足を踏み鳴らす。


「今すぐやめなさい! これは命令よ!」

「残念ながら公爵家での権力は私の方が上なのですよ。お嬢様は私の慈悲によって無礼を働いても許されているのです」

「そんなことある筈ないし、たとえあっても関係ないわ! わたくしはこの世で一番えらい存在なのよ!!」


 この呆れ果てるほどの圧倒的自己肯定感はどこから来るのだろうか。カコリスに分けてやりたいくらいだ。


 新しい人生を歩んでも尚、自己肯定感に乏しく自分は劣った存在だという意識から脱却しきれないカコリスは、俺の身体を使って生活する中でも自分に自信が持てず、一歩引いてしまう時があるらしい。

 ハーレムを形成しておいて誰とも恋愛に発展しないのはそういう面が理由だろう。


 俺としてはC子さん(とてもよく食べ、間違っていることは間違ってると言える良き人)とそろそろ良い感じになって欲しいのだが。

 そういや嫉妬に狂ったE子が追放されたっぽいな。向こうは向こうでドラマに満ちた日々を送っているようだ。


「ちょっとウスノロ! 聞いてるの!?」

「申し訳ありません、全く聞いておりませんでした。何用でございましょうか」

「今すぐそのとれーにんぐをやめなさいと言っているのよ!」

「何故? 私がトレーニングをして困ることがおありですか? 私がヒョロガリを脱却すると対抗できる悪口のカードが使えなくなるからやめさせたいのですか? ならばお嬢様もデブを脱却すればよろしいだけでは?」

「いやよ!! がんばりたくないもの!! それに最近やせないわ!! いいこと、下僕! わたくしは、がんばったのに何にも実らないのが一番きらいなのよ!」

「それは全人類そうですとも」


 だから人間は、目に見える成果が出るものやすぐに多幸感を得られるものに飛びつく。

 本当に勤勉な人間というのは案外少ないものだ。それ故に、俺は勤勉な人間を尊敬している。俺にはなれないものだからだ。


「頑張るのが嫌だというのならば、お嬢様はそのまま真ん丸の子豚でいればいいではありませんか。そうしてすくすく肉を蓄えて、魔法学園に入学した後も陰で子豚聖女と呼ばれていればよろしいのです。大丈夫ですよ、お嬢様。お嬢様は公爵家の一人娘にして聖女であらせられますから、誰ひとりとして表立っては豚などとは呼ばないでしょう」

「お前以外に私を豚だと思っている人間なんていないわ!」

「お嬢様がそう思うのならそうなのでしょうね、お嬢様の中ではね」


 突き放すように言い、インターバルを挟んでスクワットを再開する。本当のところは薄々分かっているお嬢様は、無言でスクワットをする俺を睨みつけるように見上げると、意を決したように髪を結い直し、中庭へと駆けていった。


「見てなさいウスノロ!! もう二度と誰にも、お前にも、デブだの豚だの呼ばせないわ!!」

「応援しております、おデブ様」

「さっそく呼ばないでちょうだい!」


 スクワットを中断して後を追う。ついでなのでお嬢様の後ろについて走る俺の耳に、高らかな宣言が届く。


「いつかお前をひざまずかせて、『この卑しい私めにはうるわしの聖女様を直視することなど恐れ多くてできません、自ら両眼を潰し神に等しい聖女様にけんじょういたします』と言わせてやるわ!! 首を洗って待っていらっしゃい!!」


 そんな聖女様は嫌だな、と素直に思った。そんなんでも聖女になれるんだからこの世界はすごいな、とも思った。

 魔法学園の入学試験まであと半年。それまでになんとか子豚からは脱却出来るといいのだが。


 ネタバレしておくと、無理であった。が、お嬢様にしては頑張った、とも記しておこう。




    *  *  *




 この世で一等美味しいお菓子はなんだ?と聞かれたなら、俺は『べっこう飴』だと答えるだろう。

 あくまでも俺にとっての世界一の話だが。人間誰しも、自分にとっての『世界一美味しいお菓子』を持っているものだと思う。


 前世の俺は、祖母が作ってくれた手作りのべっこう飴がとても好きだった。

 仕事で忙しく殆ど家に居ない両親の代わりに世話をしてくれた祖母は、おやつの時にはよく、俺と一緒にべっこう飴を作った。

 色んな形のシリコン型に入れ、冷まして固めたべっこう飴。

 シンプルで素朴な甘みのそれを祖母と共に食べる時、俺は食べる喜びと同時に確かな愛情を感じていた。


 俺の──『永松秀久』の両親は、はっきり言って俺に興味がない。

 幼少期からそうだった。そのことに対し悲観的になった記憶がないのは、祖母がいたからだろう。

 向こうのカコリスも、祖母が四年前に亡くなるまでは孫として仲良くやってくれていた。そして、やはりというか、両親は自分の息子には興味がないようだった。


 これを聞いた時、俺はなんというか、少しほっとした。

 両親は俺という個人に興味が持てないのではなく、『息子』という存在そのものに興味がないのだと知って、安心してしまったのだ。

 平気だと思っていたが、やはり何処かでは寂しかったのかもしれない。


 はて、何の話だったか。

 飴だ。

 飴の話である。


 正確に言うならば、飴と鞭の話である。


 ロレリッタ公爵家のボンレスハムことお嬢様は、十歳になる頃には特大お得用ボンレスハムから贈り物用ボンレスハムになるくらいの変化を見せた。

 『諸悪の根源を屋敷から追い出そう作戦』に燃えるお嬢様の情熱が、身体の脂肪も燃焼させ、やや健康的な太ましさに変化したのである。


 最近は食べ残しも食い散らかしもないのだし、このまま名誉デブを目指すのも良いのでは?とも思わなくもない。俺は食物を粗末にするくせに太っている人間に怒りを覚えるだけであり、太っていることそのものには特に好意も悪意もないのだ。何せ、前世の俺も立派なデブである。

 が、それを持ちかけると奥方様が能面みたいな顔で俺を見つめてくるので、素直にこのままダイエットコースを突っ走ることになるだろう。


 お嬢様は駄々を捏ねて避けていた淑女教育にも熱意を見せ、現国王の名前も曖昧だったアホ加減からもなんとか脱却しつつある。

 このまま真面目に取り組んでいけば、少なくとも普通の公爵家らしい御令嬢くらいにはなれるだろう。真面目に取り組めばの話だ。未だに嫌なことからは週に一度は逃げ出している。


 しかも俺のトレーニングから逃げる為に逃走スキルを磨き過ぎたせいか、その辺の使用人には探し出すことも捕まえることも出来なくなってしまった。

 これに関しては普通に怒られたので、逃げ出した際には俺が責任を持って捜索係としてお嬢様を捕獲にし行っている。


 逃げ出しては捕まえ、逃げ出しては捕まえ。痕跡と気配を消すことを覚えたお嬢様が草木と同化し、死角をぬって素早く移動し、一時間近く逃げ出すようになった頃、俺は捕獲に魔法の使用を解禁した。

 俺の属性は土。木を従え、罠を貼り、あくまでも怪我をさせることなくお嬢様を捕まえる。

 最近では、俺はもしかしてお嬢様の捜索ではなく野生動物の狩猟をしているのかもしれない、などと思い始めていた。


 その逃走記録にひと月の間が空いたのは、今年の冬になってからの話だ。

 お嬢様はここ一月、一切逃げることなく勉学と基礎魔法訓練に励んでいる。別に、寒いから外に出たくなくなった訳ではない。お嬢様は雪の中でも颯爽と失踪する。迷惑な話だ。


 努力と継続が何よりお嫌いなお嬢様がひと月真面目に机にかじりつき頑張っていたのは、王立魔法学園の入学試験が目前に迫っていたからである。

 カコリスから聞いたところによると、前回の世界のお嬢様は聖女の魔力特権で何もしなくとも最上位クラスに入れていたらしい。今回もきっとそうなのだろうが、聖女特権があるにも関わらず、お嬢様は日々勉強に励んでいらっしゃる。真面目なのはよいことだ。

 まあ、今回のお嬢様は特権を使って楽をしようという思惑よりも「なんとしてもこの悪魔(俺のことである)を倒さなければ! そのためにはまず勉強! 嫌だけど勉強! いやだけど! やだ!」という気持ちで必死になっているようだった。


 入学試験には面接と魔力検査があり、魔法適正と貴族としての教養、資質を見て合否が決まり、入学後は相応のランクにクラス分けされる。

 最上位クラスに所属することは貴族の間ではステータスになっており、当然お嬢様も最上位クラスでの学園生活を望まれていた。


 そして迎えた試験。俺は公爵家で雑用をこなしつつ結果を待つだけの日々だったが、一週間後の結果通知は見事、最上位クラスでの合格だった。お嬢様の勇姿に、奥方様と旦那様は涙ぐんで喜んだ。

 奥方様はどちらかと言うと、発注した制服のサイズを一つ下げられたことへの嬉し涙に思える。何故か妙に感謝されてしまったが、正直俺はお嬢様の横で嫌味と罵声を浴びせていただけなので、褒美の品として与えられそうになったボーナスは丁重に断っておいた。


 色々な思惑は交錯しつつも、お嬢様は無事に優秀な成績を収めて入学できた訳だ。

 公爵家では祝いの席が設けられ、お嬢様は旦那様からお褒めの言葉も頂いた。幼少期から甘やかされてこそいたが、正当な努力で出した結果を褒められたのは、今回が初めてのようだ。

 つやつやの頬を真っ赤に染めて喜ぶお嬢様は、達成感に満ちた笑顔を浮かべていた。


 お嬢様は努力し、そしてそれが正当に評価された。お嬢様を言葉の鞭でぶっ叩くのが俺の仕事だが、きちんと頑張ったものにはそれなりに飴が与えられるべきであるとも思う。



 と、いうわけで。



 おめでたいパーティの後、俺はお嬢様を使用人用の別邸へと呼び出していた。呼び出した後に気づいたが、仮にも主人を呼びつけるなんて、執事としては赤点も良いところである。

 お気に入りのメイド(ヒョロガリを教えたメイドである/あれから気に入って連れ回しているらしい)を連れて、のしのしとやってきたお嬢様は、顔を合わせるや否や、盛大に鼻を鳴らした。


「わたくしを呼びつけるなんて、本当に、お前はなんて不敬な執事なのかしら」

「失礼しました、お嬢様を敬うという行為を取り繕うのを忘れておりました」

「本当に失礼なやつね!? くだらない用事だったらただじゃ済まさなくてよ!」

「そうですか。では、くだらない用事ですのでそのままお帰りください」

「……いいわよ! 付き合うわよ! 何よ! さっさとしなさいよ!」


 飴を与えよう、と思ったのに言葉を交わせばこんな有様になるのは、恐らく、もはや染み付いた習慣というやつだった。

 二年もこんなやりとりを続けていれば、もはや頭より先に口が動いてしまう。俺が言い返さなければそれはそれで何だか不満な顔をされるので、とりあえずいついかなる時にも慇懃無礼に振る舞うようになってしまった。流石に俺も、常に失礼な訳でもない筈なんだがな?


 ふんぞりかえって席に着くお嬢様の前に、皿に乗せた飴を置く。型が無いため、ただ垂らして固めただけの面白みの無い代物だが、俺の中で最も純粋な敬意を示す品物は何か、と考えた結果出てきたのがこれだった。


「何よ、これ」

「べっこう飴です」

「べっこあめ?」

「ええ。私が昔よく食べていたお菓子です」

「ふーん……それで? 賄賂を渡して懐柔しようということかしら?」

「お祝いです」

「お祝いぃ?」

「最上位クラスでの合格と、学園へのご入学、おめでとうございます。お嬢様の頑張りに見合うものでは御座いませんが、私からの細やかな祝いの気持ちでございます」


 珍しく、本当に心の底から素直な気持ちで祝った俺に、お嬢様は毛虫でも見たかのような顔で後ずさった。

 ヒイ、と小さく悲鳴が聞こえた気がする。お嬢様は後ろのメイドの腕を掴むと、大袈裟に震えながら椅子を引いてみせた。


「ど、毒だわ、毒が仕込まれているのよ、自分を脅かす存在に育つわたくしの実力を危惧して、毒を仕込んだのだわ!」

「お嬢様は想像力が豊かで日々が楽しくてたまらないでしょうね、羨ましい限りです」

「ひとつ食べてみなさい! いいえ、待って! わたくしが選びますわ、口を開けなさい!!」


 祝いの気持ちを伝えただけで毒見をさせられている。これまでの態度が原因なので特に不平不満はなかった。あんな態度を取って好かれている方が恐ろしいので、このくらいの扱いくらいが丁度良いとも思う。ついでに、べっこう飴は好きなので素直に口を開けておいた。

 恐る恐る、と言った様子でひとつ摘んだお嬢様が、やむを得ず爬虫類にコオロギを与えなくてはならなくなった女子みたいな顔で、俺の口に飴を放り込む。


 味見をしてあるからそもそも味は分かっている。溶かした砂糖を火にかけ、固めただけの菓子だ。王都ならば他に幾らでも華やかで美味しい菓子が溢れていることだろう。

 だが、やはり俺にとってはこれが世界一美味しいお菓子だった。甘いものを食べると幸せになる。甘いものに限らず幸せになる。

 笑顔で飴を舐める俺を不気味そうに見つめていたお嬢様は、三分ほど黙り込んでから、心の底から訝しんだ様子で呟いた。


「おかしいわ……悶え苦しんで死なないわね……」

「………………」

「遅効性なのかしら……」

「ただの飴ですからね。それこそ、本来はお嬢様にお出しするような代物ではありません」

「ふうん? 手抜きの祝いで取り繕おうということね、お前らしいわ」


 特に嫌味の応酬に走るでもなく、笑顔のまま肩を竦めてみせた俺に、お嬢様はやや居心地が悪そうに目を逸らした。

 お嬢様は罵声を浴びせ合っていない時、たまにこういう顔をする。恐らくは嫌味と罵倒以外で俺とどうコミュニケーションを取ったらいいのか分からないのだろう。

 歪な関係が出来上がりつつあるが、もはや軌道修正は不可能だとも言えた。


 しばしの間の後、細い指が琥珀色の塊をひとつ摘まむ。

 小さな口に飴を運んだお嬢様は、しばらく舐めた後に「ただの飴だわ」と鼻を鳴らした。次いで、紅茶を口に含む。

 出会ったばかりの頃に見た所作が嘘のように丁寧な手つきでカップを置いたお嬢様は、ふと吐息に混ぜるようにして呟いた。


「……お前はわたくしのことが嫌いなのだと思っていたわ」

「はあ、好きでもありませんが嫌いでもありませんよ」

「…………ふんっ!! わたくしはお前なんて嫌いよ!!」


 事実だったので嘘偽りなく答えておいた。

 今更どう取り繕っても嫌味にしかならないのである。


「本当は学園に連れて行く執事だってお前以外がよかったのに……早く御父様を魔の手から救い出さなければいけないわね……」

「まだ信じて、いえ、そうですね。精々頑張って下さいませ」

「今何か言いかけなかったかしら?」

「いいえ?」


 にっこりと、カコリスの美貌をフルに使った完璧な笑みでもって答えたのだが、お嬢様からは胡乱げな視線が返ってくるばかりだった。脇に立つメイドは、たとえ俺の性格が腐った肥だめみたいなものだと分かっていても頬を染めているくらいにはごり押しで誤魔化し効果のある笑顔なのだが、お嬢様には一切効果無しのようだった。


「まあ、卒業までの付き合いですから。それまで寛大なお心で我慢して下さいませ」

「そうね。そのあとは見事お前を這い蹲らせてこれまでの非礼を詫びさせてから、公爵家から追い出してやるわ」


 不適な笑みを浮かべて満足げに言い捨て、去って行くお嬢様を見送る。

 魔王と戦うことになるのはお嬢様が十六になる年だ。カコリスの話に寄れば、魔王はその存在が顕現するまで此方から本体に干渉することが出来ないらしい。現れたとしても対抗出来るのは光魔法のみ。現状、最も優れた使い手として期待されているのはお嬢様だから、やはり彼女が聖女パーティとして戦いに駆り出されることになるだろう。


 そして俺はそこで彼女を庇って死ぬのだ。なんというか、なんといえばいいのか分からないが、これだけはなんとなく、予感として俺の胸にある。

 これは前回の世界を知るカコリスや女神と関わったことで察した予感、というのもあるが、今回の世界で旦那様から伝えられた話で案じる必要のある予感でもある。まあ、この話はいったん置いておくとして。


 お嬢様との付き合いもあと六年弱だと思うと寂しくな…………六年か……結構長いな。


「結構長いな……」


 あんまり寂しくはならなかった。そんなもんである。



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