中編
誰もいない校舎の中で、足音だけがコツコツと響き渡ります。
スマホの明かりを頼りに、私と佐原先輩は、南棟を目指して歩いていました。普通ならば、月明かりや星明かりが窓から差し込むはずですが、あいにく今夜は、分厚い雲が空を覆っているのです。
「天気が悪いと、気分が滅入りますね……」
「何を言っているのだ、瑞希くん。夜なのだから一緒だよ。どうせ晴れていても青空は見えないからね」
スマホの光は足元に向けているので、佐原先輩の表情はわかりません。どうせ自信満々の顔をしているのだろう、と思っていると、
「ところで、瑞希くん。昼間は言い忘れたのだが……」
問題の幽霊は、廊下を通る人間を無差別に呪い殺すわけではない。特定の条件に合致する者だけが殺されるのだ、と佐原先輩は言い出しました。
「聞いた話によると、呪われるのはカップルのみ。まずは男の方を追い払って、女の方が男に捨てられるという状況を作り出し、それから残された女を殺すらしい」
「まわりくどい話ですね……」
「失恋で自殺した幽霊だからね。幸せなカップルに対する嫉妬があるのだよ。男に愛されている女が憎いわけだ。自分と同じように『男にフラれる』というのを、そういう女にも味わわせたいらしい」
「変に理屈っぽい話ですね。かえって嘘くさいですよ。誰かの創作なんじゃないですか、その噂」
「いや、信頼できる筋から入手した噂だよ。情報ソースは明かせないが……」
「ソース云々はどうでもいいですけど、今の話だと、私たちじゃダメなんじゃないですか?」
「どういう意味だい、瑞希くん?」
「ほら、私たちって、恋人でも何でもないですから。問題の幽霊、出てきてくれないのでは?」
「そこは大丈夫だろう。幽霊から見たら、男女が二人一緒というだけで、カップルに見えるのではないかな」
「根拠のない自信ですね……」
理屈っぽい部分もありますが、基本的には思い込みの激しい佐原先輩です。
「もしも出てきてくれない場合は……。それっぽく見えるよう、恋人がするようなことを一つ二つ、やってみせればよいだけだ」
「私に何する気ですか? セクハラで訴えますよ!」
本気で気持ち悪くて、佐原先輩との間に少し距離をあけました。
「いやいや、誤解しないでくれたまえ。いくら取材のためとはいえ、さすがにキスまでは要求しないつもりだ。せいぜい手を繋ぐ程度で……」
「それも十分セクハラです!」




