サイファ編 ~公民目線~
ブラックってなに?
僕、闇主として認められて、初任給をもらった時にはびっくりしたんだ。
その前に、デゼルの家庭教師の報酬にも驚いたんだけど。
八歳の頃、午前中いっぱい、朝八時からお昼までの四時間、闇神殿の近くの自然公園のゴミ拾いと草取り、花壇や植木に水をあげる仕事をして、銀貨二枚もらえていたのが一番、僕にとっては割のいい仕事だったんだ。
闇神殿が近くにあったのが幸運だって、たくさんの人に言われたよ。
午後にも仕事を探してみたけど、言われた通り、他の仕事でお金をもらうのは難しかったんだ。
できてないって言われて、銅貨の一枚ももらえずに追い出されるようなことが何度もあった。
おとなの人に殴られたのも、一度や二度じゃなかった。
真面目にやればお金をもらえる公園の掃除は、本当に、いい話だったんだけど。
デゼルの家庭教師は、午後二時から五時までの三時間で銀貨三枚だった。
公園の掃除は週五日だったから、八歳の頃の月給は、闇神殿から金貨四枚、他から金貨二枚くらいだった。
それが、デゼルの家庭教師は毎日させてもらえたから、それだけで金貨九枚。
休学もせずに、こんなにもらえたんだよ。母さんもびっくりしてた。
おいしいおやつや飲み物までついて、教えたのはほとんど生活の実技だったから、遊んでるようなものだったんだけど。
闇主の話だったっけ。
闇主の月給は初任給から金貨三十枚で、母さんの倍だった。
初めてもらった時には、マリベル様が金貨を数え間違えたんじゃないかと思ったんだ。
だって、闇主の仕事って別にきつくないし。
ほんとは、僕、闇巫女様のデゼルに絶対服従しないといけないらしいんだけど。
なんだか、デゼルの方が僕に絶対服従してる気がするんだよね。
朝、起きたらデゼルにおはようのキスをしてあげるでしょ。
一緒に学校に行って、帰ったら礼儀作法や敬語や公国の歴史や、闇魔法や戦闘訓練や、学校とは別の授業や訓練があるけど、僕、神殿で受ける授業や訓練は好きなんだ。
だって、デゼルをきちんと守ってあげられるようになりたいし。
学校と違って、デゼルと話しながら、二人でやることが多いから、楽しいよ。
ジャイロとの戦闘訓練も面白くて、ここだけの話、年少のジャイロに負けたらカッコ悪いから、僕なりに本気で頑張ってる。
だから、先に死鬼に覚醒したジャイロに置いていかれた時には、結構、ショックだった。
朝も昼もおいしい食事を用意してもらえて、三時のおやつまでついて、夜は、デゼルと二人で料理して食べるんだけど、食材はやっぱり、タダで用意してもらえるんだ。
支給される制服もカッコいいし、神殿の浴室ってすごく立派だし、闇主って公子様が兼任することの多い仕事だからか、至れり尽くせりなんだ。
夜はまた、デゼルが可愛いぬいぐるみを抱いて僕の部屋にくるから、だっこしてあげて眠って、満ち足りた気持ちで一日が終わる。
あっという間に、毎日が終わってしまうんだ。
これってきっと、楽しくて幸せだから、時間を短く感じるんだよね。
闇主は闇巫女様の傍にいるのが苦痛になったら地獄だって言われたけど。
そんなの、僕には想像もつかないな。
デゼルの傍にいるのが苦痛になるって、どういうこと?
何があったら、デゼルの傍にいるのが苦痛になったりするの?
デゼルも何かがあったら、僕の傍にいるのが苦痛になったりするのかな。
よく、わからないけど。
少なくとも今は、全然、地獄なんかじゃないよ。
それどころか――
デゼルの魔法でおとなにしてもらって、すごく、驚いたんだけど。
僕はきっと、今よりもっと、デゼルのことを好きになると思った。
今よりもっと、デゼルのことを大切に思うようになると思った。
きっと、闇主であることが地獄になる日は来ないんじゃないかな。