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その心は /ファルシア


ユーアリティと婚姻を結んで数日が経過した頃。

ファルシア・ルデンはその質問をぶつけられた。


「新しい王太子妃様とはどうなんだ?」


尋ねてきたのは王太子側近のケイバード・アルトリンである。


「………どう、って特に。普通だよ」


「仲良くしてんのか?……って、なわけねーか」


「彼女とは表向き夫婦なだけだ。それ以下でもそれ以上でもない」


ファルシアがペラペラと執務書をめくりながら答える。その目には特に興味といった感情は見当たらない。いかにも事務的な様子で答える彼にケイバードが顔を顰めた。マジョリカブルーの濃い髪を後ろで一つにまとめた彼の容姿は普通であれば真面目に見えるはずなのに彼に至っては軽薄に見える。それは彼の性格ゆえだろうか。


「きっついなー、お前。王太子妃様可哀想すぎだろ。少しは歩み寄ってやれよ」


「無理だ。少なくとも今の僕にはまだできない」


「まあ………うーん、でもそれっていつかは乗り越えなきゃなんない壁だろ?だってお前、王太子じゃん。いつかは子供だって」


「…………」


その時唐突にファルシアが苦い顔をしたのを見て、ケイバードがまさか、という顔をした。


「お前何か言ったのか…………?(余計なことを)」


心の中で言葉を足しながらケイバードがファルシアをみる。さすがにファルシアは気まずそうな顔をしていた。


「……………ないよな」


ファルシアがぽつりと零した。


「はあ?」


「………なあ、ケイバード。僕は女性が本当に苦手なんだ。どうしたらいいと思う?」


「…………いや、頑張って?」


どう答えるものか迷った挙句、ケイバードは応援することを選んだ。頑張ってくれないと王家の血筋がとだえる。純血の王族の血はファルシアしかいない。

ファルシアには兄弟がおらず、そして従兄弟は女性しかいない。その女性もほとんどが他国に嫁に行っている。

女性が王になるというのはこの国では認められていない。ファルシアの叔父にあたり、国王の実弟でもある王弟は病弱で長く外にいるのは難しい。現状王族で跡を継げるのはファルシアのみだった。

そのためファルシアは幼い頃からよく狙われた。ファルシアさえいなくなれば王家の血も途絶え、そして国家転覆も夢ではない。跡継ぎのいない大国は操りやすいだろう。

そのため幼い頃からファルシアは体術、魔術、剣術、しまいにははるか遠方の国に伝わるというという格闘技、体拳(テイジュー)まで身につけることになった。

いつになっても線は細いまままではあるが、彼はその見た目に反する実力を見につけていた。

ちなみに遠縁であれば今の国王の祖母の従兄弟も王族のひとりだが、遠縁すぎて血が薄い。純血の王族はファルシアのみだ。


「………努力してどうにかなるものなら苦労してない」


「だろうな」


「………だけど、」


だからといって王太子妃であるユーアリティを無下にしていい理由にはならない。自分に関わらないでほしいのも、自分との関係を望まないで欲しいのも事実だ。

だけどだからといって彼女を傷つけたいわけじゃない。

しかし彼女とは近づきたくない。彼女が嫌なんじゃない。女性が苦手なのだ。

悩んだ彼は、ふと思い出した。

昨日のパーティの折、ユーアリティは嬉しそうにガトーショコラを食していた。それは隣にいたファルシアだからこそ気付けた些細な変化だ。遠目にいたら間違いなく気づけなかっただろう。

貼り付けたような笑みしか浮かべないユーアリティの珍しくも柔らかい笑みに思わず目を瞠ったのだ。


彼女はこんな表情もするのか。ユーアリティが聞いたら激怒するだろうが、正直ファルシアはユーアリティのことを人形みたいな少女だと思っていた。常にニコニコしていて何を考えているのかわからない。かと思いきやパーティの時常と変わらない表情で、声音で、怒りを示した。そんな彼女に意外さを抱いたりもした。

もしかしたら彼女はファルシアが思う以上に感情が豊かなのかもしれない。


その事を思い出して、ファルシアはふとケイバードを見つめた。ケイバードは苦手な書類仕事に頭を抱えながらも難なく仕事を捌いていく。なんだかんだで幼い頃からの付き合いだ。次は何をすればいいかだいたい分かる。だけどだからといって書類仕事が好きになるかと聞かれたら別だ。書類仕事は今でもケイバードは苦手だった。

それなら外で魔術でもぶっぱなしてた方が楽しい。


「っあー、バタイリ領の水道工事またか…………いくら差し戻しても送ってくるんだから懲りねえよな………こっちに頼るだけじゃなく自分でも少しはやれよな………」


ケイバードはブツブツ文句を言いながらそのままペンを滑らせる。

バタイリ領の領主は地方を収める伯爵だ。

彼は自分で考えることを放棄し、全てこちらに任せてくるきらいがある。

できることがあるなら少しくらい何かやってほしい。何かしらできることがあるだろう。何でもかんでもこっち任せにするのはやめてほしい。ケイバードの正直な感想だった。


「………ねぇ。ユーアリティにケーキを贈ろうと思うんだけど」


「うーん?……………ああ!いいじゃねえか。それで親交はかっていこうぜ」


「彼女、どうすると思う?」


唐突のファルシアの言葉にケイバードは文字通り首を傾げた。持っていた書類も一緒に傾くものだから、ファルシアは思わず苦笑した。




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