恋心(2)
裏門から馬車は入り、そのまま私はフェシーに抱き上げられたまま移動した。それに関しては猛抗議したのだが、フェシーとまともに会話がなりたたなかったため、すぐに却下されてしまった。
どどど、どうしましょう………!?
どうもしなくてもこれが初恋だ。そのせいでどう対応すればいいかわからない。この制御しきれない感情のままいれば、気持ちが隠せない自信がある。かと言って普通に振る舞うことすら出来ない。そもそもフェシーの顔を見たら何となく顔を逸らしてしまいたくなるのだ。
彼の視界に入るのがとてつもなく恥ずかしい。影からそっと見てる程度がちょうどいい。
好きが行き過ぎてファンの心持ちになってるのかもしれない。ただでさえフェシーは顔がいい。顔が整いすぎていて直視出来ないのだ。
いつになっても初恋というのは厄介なものらしい。
フェシーに抱き抱えられながら向かった先は夫婦の寝室。最後見た時と何ら変わりない部屋を見て、ようやく王宮に戻ったのだと実感した。
「明日には帰るから」
「えっ………!?」
ソファに下ろされて、にべもなくフェシーが言う。突然のことに目を丸くしていると、フェシーがこともなげにもう一度言った。今度はじっと視線を合わせられたので思わず視線を外す。
「ユティは疲れているかもしれないけど………。もう十分だよ。ここですることは全て終わった。あとは明日、仕上げをするだけだ。だからユティは寝てて。起きたら全て終わっているから、そしたらそのままルデンに帰ろう」
「え、あ、う」
突然過ぎて頭が回らない。ぐるぐる思考を動かしたが、ぷすぷす音を立てた。
困惑してフェシーを見ると、彼は少し苦笑していた。その表情ひとつとっても胸が弾んでしまって、苦しい。
苦しいくらい好きで、悲しいくらい好き。
どうしようもないこの感情をどう推し潰そうかと悩んでいると、そっとフェシーの手が私の頬に触れた。反射的に飛び上がってしまい、体が僅かに浮く。
その勢いのまま思わず後退すると、フェシーの手が止まった。何も言わなくても過剰反応だ。意識してることがバリバリわかる行動に徐々に顔が熱を持つのがわかる。
わわわわ、わたし、わたし、私って…………
!!
「%♨︎?W∞=☆!?!?」
「ユティ、落ち着いて、落ち着いて」
動揺のあまり声にならない声を上げた私に、そっとフェシーが声をかける。あ、怪しい、怪しすぎる私の態度………!
どうすればいいの?どうしたらいつも通りに過ごせるの?恋人がいる女性はみんなこうなるの?好きという感情がこれかは分からない。だけど抑えようもない衝動と情熱と感情に苛まれていることは事実だ。
「…………」
ダメだわ!このままじゃ!
そう思った私は思い切り目の前のテーブルに頭をぶつけた。ゴッという凄まじい音がして、目の前に星が散る。もちろんだが突然の奇行にフェシーの焦る声がする。だけとその凄まじいまでの痛みに私は少し平常心を取り戻した。そう、そうよ………何浮かれてるのかしら………。フェシーが私のことを好きでなくても私とフェシーは夫婦なのよ………今更浮かれたって仕方ない。
私は初めから決着のついてる恋にため息をこぼした。そしてゆっくりとフェシーに向き合う。
「明日、帰りますの?」
「うん………ユティ、血が出てるよ……?」
半ば困惑しながらフェシーが言葉を返す。嫁が突然奇行に走って驚いたのだろう。私も自分の突然の奇行に戸惑いを隠せない。
だけど痛みこそパワー。平常心を取り戻すのにもってこいだと初めて知ったわ………。
たらりと鼻に零れたのは額の血だろう。やだ、血が出ちゃったわ………。そっと手で拭おうとしたら手を掴まれた。自然と心拍数が上がる。
「ユティ、本当にどうしたの?まだきみと知り合って間もないけど、ユティの様子がおかしいことくらいわかる」
ああああどうして手をとるの!?あっやめっ触らないで!触ると本当………びゃああああ素肌!素肌!触れてる!指先が!フェシーの指先結構冷たい!やだ、初めて知ったわ…………どうしよう!?興奮してしまいますわ!
頭の中が散らかった部屋のように混乱して、口を開いては閉じるを繰り返す。興奮したせいで血がどくどくとさらにこぼれるのを感じた。
「…………………我が国の精神統一法です」
嘘だ。そんなのないわ。
悟りきった目ででたらめを口にする。馬鹿正直にフェシーが好きすぎて動揺しているなんて言えない。
困ったら逃げるにかける。悟った目………いや死んだ魚の目で無感情に言うと、フェシーがすごく困った顔をした。
「ユティの国は少し激しいんだね」
──なわけないでしょ!




