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女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです  作者: ごろごろみかん。
二章:恋の自覚

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婚約破棄



ーーーニケル・アッドフォン。


聞き覚えがある名前なんてどころじゃない。つい最近、私の口から出した名前だ。

なぜ本人がここに………。

思わず警戒して後ずさる私に、彼はにこりと笑った。人好きする微笑みだが、それが逆に私の警戒心を煽る。


「お困りなんじゃないですか、ユーアリティ妃殿下」


「……………どうして私のことを?」


やっとの思いでしぼりだした声は掠れていた。いつでも逃げられるように退路を確保しながら彼と正面から向き合う。

彼はそんな私に少し目を細めて地面にさく花に目をやった。

そしておもむろに屈み、ピンクドロップの花に手を触れる。


「それはまあ、ウチのお妃様から聞いたので」


どうして彼がここにいるのか。何の思惑があるのか掴めない。私がじっと彼を見てらと、彼は苦笑した。


「嫌だなぁ、僕はあなたを助けようと思ってきたんですよ」


「………何のつもり?」


「妃殿下のことですし、きっと僕達の事情もご存知なのでしょう?」


彼が流れるように聞いてきた。事情………というのはおそらく彼と、そして婚約破棄した令嬢のことだろう。知ってる。知ってるしむしろそれを使って私は窮地を脱した。

訝しく思いながら頷く。男………ニケルはそっと立ち上がると一歩私の方に踏み出してきた。とっさに後ずさりそうになるのを何とかこらえる。その時、ヒュウ、と一際強い風が吹いた。

思わず目を細める。ニケルはどこまでも読めない微笑みで私を見ていた。


「僕が王宮までお送りしますよ、王太子妃殿下」


「………信用出来ないわ」


「はっきり言いますね。王宮は今てんてこ舞いなんですよ?何故か大臣たちの不正が一気にバレて」


「どういうこと?」


思わず聞くと、ニケルは肩を竦めた。そして首を振る。


「細かくは僕も知りません。だけど妃殿下、あなたは城に戻らなければならないのでしょう?」


「…………」


確かにニケルの言う通りだ。そして、ここは彼の言葉に乗るのが得策だろう。彼が敵か味方かは分からない。だけど彼が堂々と男爵家の裏庭にいることは事実。このまま警備に引き渡されれば私の立場は不味くなる。今ここで逃げたとしても彼には私がユーアリティ・ルデンだとバレている。王宮ではおそらく私が伏せっていることになっているだろう。

そんな中で私が男爵家に不法侵入したと噂になれば事実確認のために私が本当に城にいるかどうか疑われることになる。

つまり、どう考えてもピンチ。


私はゴクリと息を呑んで、そして呟くように答えた。


「…………どうやって私を送ってくれるの?」


「まずは僕の家に行きます。その格好では城に入れないでしょうから」


言われて服を見下ろす。確かに町娘のような格好と無残な髪では城にはいることすら難しいだろう。しかもそれがルデンの王太子妃となれば醜聞間違いなしだ。

私はこくりと頷いた。大丈夫、いざとなれば魔力を暴発させればいい。

馬車ごとまた吹っ飛ぶかもしれないが、それしかない。その後のことはまたその時考えよう。

私は頷くと、ニケルが言葉を続ける。


「じゃあ、花を摘みましょうか」


「………花?」


「あれ、そのために来たんじゃないんですか?」


それはそう、だけど………。この男はどこまで知ってるのかしら………。

私が胡乱げに見ると、彼は両手を上げて弁解するように言った。


「ちなみに僕はあの女に洗脳されてませんよ、僕には効かないんです」


「………どういうこと?」


先程から質問しかしていない気がする。

だけどすぐにハッとする。ただでさえ時間が無いのだ。私はニケルを警戒しながら膝をついてピンクドロップに手を伸ばす。そして土を軽く掘り起こして根ごと花を採った。そしてそれをハンカチにくるむ。一本じゃ足りないだろうから複数本、同じように採取した。


「僕は魔力がないみたいで、魔力関連の攻撃は全部効かないんですよ」


「魔力がない?」


オウム返しに聞くと、ニケルが頷いた。

彼は私の方に歩き始めてくる。ざくり、と土をふむ音が聞こえた。

彼は言葉を選ぶようにゆっくり話していく。その顔は考え込むように俯かれている。

この世界は誰しもが魔力を保有して生まれてくる。魔力を操れるか、自認できるかはまた別だが、大なり小なり、誰でも魔力を持っているのだ。

それを彼は持っていないと言った。

魔力がない人など聞いたことがない。………本当なのかしら?でも、それなら。私はすっと立ち上がりニケルと真正面から視線をぶつけながら聞いた。


「ならどうして婚約破棄したの?」


「ああ、レイチェルと?」


彼は少し悩んでから顎の下に手をやった。そして答える。


「単純に、気が合わない。苛烈すぎるんだ、彼女。使用人にはすぐ手を上げるし、気に入らないことがあれば怒鳴ってくる。彼女と結婚しても間違いなく僕は幸せになれないだろうね」


「そ、そうだったの………」


グランに伝えた作り話像が、いくら想像上のものとはいえ砂の塔のようにサラサラと崩れていく。レイチェルはそんなに気性激しい女性だったのね………


「だけど家同士のしがらみで結婚するしかないと思ってた。………婚約破棄が多発するまではね」


そう言うと、ニケルが口端だけで微笑む。



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