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女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです  作者: ごろごろみかん。
一章:疑念

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仲間?




「……………苦心したのです。嘆いたのです。私がお嬢様の立場であれば、と恐れ多くも思わず思ってしまうことだってありました」


「長い。端的に」


この男………っ、人が頑張って悲劇のヒロインしてるのに横槍を入れてくれやがって。

私はちらりとグランを見た。言葉とは裏腹に、彼は本当に困った顔をしていた。意外と騙されやすいのかもしれない。どう考えても嘘なのに。たかが侍女がどうしてこんないい服きて誘拐されかけてるのよ。

だけどその矛盾に気づかれたら終わりだ。このまま信じ込んで欲しい。


「………お嬢様になら、と思いました。お嬢様になら、身を引ける。ニケル様を幸せにしてくださる、二人は幸せになると………信じておりました」


正直伯爵令嬢と伯爵子息の関係がどうだったかまでは調べていない。だからこれが嘘か真か私にはわからない。だけどそれはどちらでもいい。今大切なのはグランに信じさせること。


「ですが、ニケル様はお嬢様ではなく王太子妃殿下に熱を上げました。私、それがどうしても………っ悔しくて!アヤナ様は王太子様とご婚姻されたというのに、なぜニケル様は婚約破棄など…………」


「それでアンタは王太子妃が憎いわけだ」


「………ええ、お嬢様からニケル様を奪われた妃殿下が………あの女が憎いです。思わせぶりなことを言ったのでしょう。でなけれはあのニケル様が婚約破棄などなさるはずがありません」


「ふうん、ところでアンタ、結婚する予定はあんのか?」


その言葉に思わず首を傾げそうになる。グランは未だに手にナイフを持っているが、先程の殺伐とした雰囲気は霧散していた。………窮地は脱したと見ていいのかしら。それよりまさかこんな演技をするとは思わなかった。これで涙でも出れば女優になれるのではないかしら?

私はなんて言葉を返すか迷う。

本当のところ、私は既に人妻だし他国ルデンの王太子妃である。だけど口が裂けてもそれは言えない。もし今言った通りのユーリであれば、きっと婚姻はしない。この思いを秘めたまま生涯を過ごすだろう。この後結婚の予定があるとか既に婚姻済みとか言うと余計ややこしい。複雑な設定は絶対ボロが出る。

私はシナリオを定めてグランに向き合った。


「…………ありません。私はニケル様への想いを抱いたまま生涯を」


「じゃあ、髪を切れ」


「…………」


思わず言葉を失った。私の言葉を遮るようにして言ったグランはそのまま私にナイフを投げて寄こした。受け取り損なったナイフが私の足元に転がる。カツン、という音が現実離れして聞こえた。


「…………髪を?」


「悪いが、それを聞いたところで証拠がない。とはいえ、今の話全てが嘘だとも思えない。だからアンタの覚悟を見せてくれ」


グランが端的に言う。その言葉には余計な感情はなかった。静かに私を見ている。………髪を切れ、というのは私の覚悟を見るためか。髪は女の命。そんな言葉があるほどに、髪は重要視される。それは貴族なら尚更だ。女性の髪は家族であってもなかなか触らせてはいけない。女性の髪を触っていいのは恋人か婚約者………夫のみとされている。

…………どうしよう。どうする?まさか髪をきれといってくるとは思わなかった。目を細めて少し考える。じんわりと背筋に汗をかいた。

やがて私はナイフを取り、それを持った。グランは私が攻撃してくるとは思ってないのか、それとも女だから油断してるのか、特に警戒はしていなかった。


ナイフの柄をぐっと掴み、すらりとその刀身を掲げる。


………ええい、女は度胸!

私は勢いよく髪の束を掴み、目を閉じて髪を切りとった。ジャキリ、という嫌な音がする。薄く目を開くと何も変わらない部屋が見えた。………いえ、私の足元にはアールグレイの色をした髪が数本散らばっている。……切ってしまった。

私の勢いの良さに驚いたのか、グランは少し目を瞠っていた。


「………これで信じてもらえる?」


ぐっと片手を突き出して髪の束を差し出す。グランは少し動揺しているようだった。


「………一房で良かったんだが、まあいい。まさか本当に髪を切るとはな。いいよ、信じる。これでアンタもこの計画の仲間だ」


「………では、早速私のおねがいを聞いて欲しいのだけど」


「へえ、何?」


「この指輪を売って、お金を作って欲しいの。私には行きたい場所があるの」


突き出した髪はそのままに、私はポケットから指輪を取りだした。婚姻指輪。ルデンの王太子妃だと証明する唯一の品。私はこれを売りに出そうとしている。

国際問題になりかねない、と思う。だけどお金がなければ何も出来ない。まさかグランに借りることは出来ない。この男は信用ならない。自己保身に走ってばかりじゃ、解決への道は拓けない。

髪と一緒に指輪も突き出せば、グランがそれを受け取った。受け取り損なった髪がやはりぱさりと床に落ちた。


「………この指輪」


「なあに?知ってるの」


「随分高価だな、これはどこで手に入れたんだ?」


ドキリとする。まさかこの指輪の本質を彼は知っているのだろうか。


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