王太子妃暗殺
一冊目の本を開くと流石違法植物の本なだけある。見知らぬ花の名前がたくさん目次に載っていた。その名前一つ一つに目を落としながら進むと、ピンクドロップの名前もあった。
「───」
あった。
………これだわ。
図書館で探した時はあんなにも苦労して結局見つからなかったと言うのに、こうもあっさり見つかってしまい拍子抜けしてしまう。
そのままぺらぺらと本をめくるとピンクドロップのページが出てきた。ピンクドロップ。暖かい気候と柔らかい土を好み、そして魔力を餌として育つ植物。
魔力を餌として、ねぇ………。
「…………」
うーん。
ピンクドロップは魔力を餌にして育つ植物。
定期的に魔力を与える必要があり、魔力を込めて相手に渡すと相手を魅了する効果があり、自身に依存させやすくなる、と簡単な説明文も載っていた。
これを見る限り、ピンクドロップの性能は間違っていない。
ガレット王子はそしてその周囲もこの影響を受けたのかしら………?
***
グランの家に一度戻る。そしてこの後の方針を私は組み立てた。
ピンクドロップの根が必要ならば、取りに行く他ない。正直他国の私がどうしてここまでしなければならないのかと思わなくもないがここまで来てしまえばもうやるしかない。
乗りかかった船、というやつね。
きっとフェシーも、彼も、私のことを信じている。
きっと彼は私のことなんて、まあ嫌いじゃないかな?くらいには思ってくれているのだろう。
初対面の時に比べればいい傾向である。
(それに、あのひとは誠実だわ)
偽ったり、誤魔化したり、そういうことをしない。
だからこそ、フェシーのことは信じられる。
きっと彼はルデンにとって損になることはしない。
私の不在を大事にはしないはず。
それなら私のやることはひとつ。
正直ルデンにいる時はこんなことになるとは思っていなかった。だけどこうなってしまった以上仕方ない。
諦めたらダメ。嘆いてもダメ。不安になるのも泣くのも怖がるのも、全て後でいい。今は進まないと。前へ、そして帰らなければならない。祖国のために、ルデンのために。…………フェシーのために。
グランの家に戻ると、あかりがついていなかった。
暗い家ね………あかりくらいつければいいのに。もう外はだいぶ暗い。それでも付けないのは単に忘れてるのか意図があるのか。明かりがないと雰囲気が暗くなって少しだけ怖い。
扉に鍵はかかってなかった。不用心だと思う。
だけど鍵がかかってたら家に入れなかったので、幸運かもしれない。
だけど鍵がかかっていないということは誰でも中に入れるということ。それを頭に入れながら廊下を進む。誰かがぬっと出てきても応戦できるように神経を尖らせる。
だけど家の中には誰もいなさそうだった。
「あの…………グラン?」
呼びかけても返答はない。そのまま廊下の突き当たりにくると、グランの部屋と思える場所の扉が僅かに開かれていた。
………部屋にいるのかしら?無断で入るのは気が引けるが、今後のことを考えると余計な時間は取れない。出来るだけ早くことを進めたい。
「失礼します」
小さく呟いて部屋に入る。
誰もいない部屋。どうやらグランは部屋にいないようだ。………なぜ鍵がかかってなかったのかしら?
嫌な感覚を覚える。そのまま部屋を進むと、机の上に散らばった文書が目に入った。
グランのものだろう。彼の仕事に関係するものかしら?視線をそのまま滑らせて、あまり見ないようにする。
………どうやら部屋にはいないようね。そのま踵を返して廊下に出る。
どこでグランを待てばいいかしら………。廊下に出ようとしたその時だった。
信じられない文字が目の中に映り込んできた。
“王太子妃暗殺計画”
その文字を目にした途端、体が固まったような感覚に陥る。どくり、と心臓がなる。王太子妃暗殺計画………?
それは、アヤナ様のこと?それとも私の………?
そこまで考えた時、ふと後ろからも物音が聞こえた。あまりにも混乱していて真後ろでその音がなるまで気付かなかった。
「っ………」
慌てて振り向くと、グランがいた。
茶色い胡桃色の瞳は無感情に私を見ている。………怖い。
「帰ってたんだ」
「…………ええ、ついさっき」
喉がカラカラだ。グランの目的は?私をどうするつもり?
何も見てないと言い切るには私の態度はおかしい。だけど今ならしらをきれる。私は何も見なかったかのように通常通り振舞った。
「ミスターヒューリーに花の情報をいただいたの。だから私、行きたい場所があって──」
思わず言葉を止めてしまったのは、グランが服のポケットから銀色に輝くナイフを取りだしたからだ。




