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女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです  作者: ごろごろみかん。
一章:疑念

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ピンクドロップ



「なんじゃあ?お前さん。ここに何の用だい」


コンコンコン、と控えめにノックすると、出てきたのは控えめにも身綺麗とは言えないご老人でした………。

髭は首元まで広がり、前髪もきり損なっているのか鼻元まで隠している。メガネをかける意味はあるのかしら………?メガネがあっても前髪で何も見えなさそうな気もする。髭も髪も恐らく眉毛も………真っ白にそめたご年配。おそらく彼が“ヒューリーじいさん”なのだろう。

私は彼の見た目に意識を奪われていたが、すぐさまはっとして礼を取った。


「お初にお目にかかります。私………」


「ああ、ああ。帰んな。話すことは無いよ」


「えっ、あ、あの」


まさかの門前払い。本当に話すら聞いてくれないとは思わなかったわ………!

私は慌ててワンピースのポケットから手紙を取りだした。それをご老人の前に突き出す。


「グランの紹介に預かりました………!ユーリと申します。どうか、お話を聞いてくださいませんか?」


「グラン?」


不機嫌さを隠さないヒューリーさん………ミスターヒューリーは私から手紙を奪うと、すぐさま封を切った。

そしてさっと文字を読み込むと、苦虫でもかみ潰したような渋い顔をした。………何か良くないことでもかかれていたのかしら……?


「…………はっ。たく、アイツもよくやるよ」


アイツ、とはグランのことかしら………?

私が所在なく立っていると、おもむろにミスターヒューリーは扉を大きく開いた。中の様子がうかがえる。………家の中も、やはりというか。あまり綺麗ではなさそうだった。今更だけど大丈夫かしら………。

見た目からして怪しい老男性を前に、僅かに逡巡した。だけどすぐに意思は決定する。


………進もう。


「失礼します」


「はいよ。で、アンタの用件は?探してる花ってどんなやつだ?」


歩きながらすぐさま用向きを聞く。いささか性急にも感じるが仕方ない。私もミスターヒューリーのあとを続きながら答えた。


「紫の…………花なのです」


「それじゃ判断つかん。他に材料は」


「薄紫の………花弁が小さくて………ベルフラワーの花に似ていますが花弁の枚数はもう少し多かったです」


「薄紫でベルフラワーに似てる、ねぇ。それで、ほかには」


「………」


正直、これ以上の情報はない。実物があれば話は別なのだろうが、あいにく実物は城に置いてきてしまった。図書館で本を借りて部屋でゆっくりと調べるつもりだったからだ。


「……………魅了、のような効果があるかも、しれません」


苦し紛れにそう言うと、ぴたりとミスターヒューリーの足が止まった。不思議に思って見ると、不意にミスターヒューリーが振り返る。その顔には表情がなく、ゾッとした。無表情の彼はじっと私を見ていたが、やがて口を開いた。

正直、殺されるかと思ったわ………。彼は妙な迫力があると思う。それと、この家が薄暗いのも恐ろしく感じて理由の一つだろう。


「1つ、ある。そんな摩訶不思議な花がな」


「え………」


「名前は“ピンクドロップ”。紫の花だっていうのに不思議な名前がついてるもんだよ」


ミスターヒューリーの口から思わぬ情報を得れて、私は胸がはやった。

ほ、本当に………?それがあの花の名前なの………?もっと情報をえようと口を開いたところで、ミスターヒューリーが足を止めた。見れば、廊下の突き当たりだ。

不思議に思って彼の行動を見守っていると、彼が右手の扉のノブに手をかけた。

きぃ、と小さな音を立てて部屋が開く。


「ピンクドロップっていうのはアンタの言った通り魅了効果のある花だよ。だけどソレは禁花取締法(きんかとりしまりほう)で栽培禁止になってるんじゃなかったかね」


禁花取締法(きんかとりしまりほう)………?」


「ああ。そんなおかしな花があれば国が乱れるだろう。だから二百年前かそこらに栽培禁止、輸入禁止扱いになった種だ。王宮勤務だったがわしもついぞ見たことは無かった」


禁花取締法とはビヴォアールの法律で、体に害を与えると思われる草花を制限する法律のことだ。まさか例の花が禁花取締法に触れるとは思わなかった………。

私が黙り込むと、ミスターヒューリーが指を指した。やはり部屋の中もホコリっぽく、部屋の中も暗い。………どうしてこの家は明かりをつけないのかしら?

まだ昼とはいえ、この部屋は北向き。昼間も明かりがないと暗いのではないかしら………

私は不思議に思ったが、ミスターヒューリーの言う通り部屋に進んだ。そして

所在なさげにやはり部屋を見渡す。

部屋には本棚があるだけで、何も無かったからだ。


「売買が禁止された上に栽培も禁止だからね。ピンクドロップは絶滅危惧種扱いだったと思うんだがなぁ………アンタ、それをどこで見たんだい」


「え…………」


「探すということは実物を見たことがあるんだろ。ピンクドロップの存在を知っているのは王宮勤めの薬物師でもごく限られた人間のみだ。厳重に管理されている情報だからね。アンタ、貴族なんだろうが見たところその花の名前を知らないんだろう?ということは、どこかでそれを見た。だから探してた、違うかい?」


「…………」


その通りだ。だけどなんて答えればいいかわからず、思わず黙ってしまう。そろりと視線を逸らすと、ミスターヒューリーの不服そうな声が聞こえた。


「まあ、いい。それで?他に聞きたいことは」


鼻を鳴らしながらミスターヒューリーが答える。


「…………あの、その解毒法、とか、ご存知ありませんか?」




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