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女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです  作者: ごろごろみかん。
一章:疑念

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敢然たる王太子 /ファルシア



まずコンタクトを取ったのは以前から親しくしていた大臣だった。ビヴォアールの中では一番信用できる。そして王太子すげ替え計画において1枚噛んでいる人物でもある。

すぐにファルシアは彼にコンタクトを取ると、これからのことについて話を進めた。


「王太子妃殿下が………!?」


「うん、体調が悪いらしくてね………。だけど彼女の体調不良を今公にされるのは少しまずい。………大臣には親しくしている家がいくつかあると聞いたが」


大臣を秘密裏に呼び出し、彼の邸宅で話をする。出されたティーカップに手を触れながらファルシアが話す。

探るような、匂わせた発言に、すぐさま大臣がはっとする。そして真剣に頷いた。


「ええ。今の王太子夫妻に不満があるものたちです。秘密は漏らしません」


こうも察しがいいのは助かる。だが、この察しの良さが諸刃の剣になりかねない。この人物を利用するには慎重にいかなければならないかな………。ティーカップを持ち上げてファルシアはわずかに唇を湿らせた。毒の気配は感じない。

味方だと彼は言うが、味方を装ったタヌキかもしれない。油断は禁物だ。


「それは重畳。その中のひとり………そうだな、あまり社交に疎く、表に出てこない夫人がいい。一人でいいから貸してくれないか?ああ、あと口裏合わせをしてくれる夫人がたも数名欲しいな。協力してくれるか?」


「ええ。ファルシア殿下のご随意に………。しかしユーアリティ様はご無事なのですか?」


答える大臣に、ファルシアが薄く微笑んだ。その微笑みは完璧なまでの貴公子で、見るものを見とれさせる。ここにいたのが大臣だけではなくその娘だったらすぐさま見とれていたことだろう。

ファルシアは見目がいい。本人もそれを理解しており、そしてその見目に釣り合うような気品を持っていた。


「それには心配及ばない。少し疲れたんだろうね。少し休息をとれば問題ないだろう」


「そうでしたか………。しかし大切な妃殿下が体調不良とはファルシア殿下も気が気じゃありませんな」


「ふふ、そうだね」


簡単に言葉をかえし、ファルシアは懐中時計を取り出した。片手でパタンと蓋を開けて時刻を確認する。


「さて、では夫人への取り次ぎは任せた。出来るだけ早く、そうだな。今夜中には色よい返答を待っているよ」


「わかりました」


「それではガレーヌベル大臣。美味しいお茶、感謝する」


短く礼を言うと、ファルシアは席を立った。

そのまま邸宅を出て、待たせていた馬車に乗る。それはいつも乗る馬車とは違い、質素で簡単な作りのものだ。あまり大々的に動くのは得策ではない。ファルシアは窓の外をちらりと眺めて、視線を逸らした。

その視線は不機嫌、苛立ちが大きく滲んでいた。

ユティ…………どこにいる?

王宮のことならどうとでもなる。だけど問題はユーアリティ本人だ。この件にアヤナが噛んでるのは間違いない。だけどどうやってそのしっぽを掴むか。そして上手くいけばこのままアヤナとガレットの身分を剥奪することが出来る。そこまで考えてそんな思考になる自分に嫌気がさした。

自分は純粋にユーアリティを心配することも出来ないのか。染み付いてしまった王太子としての考えが抜けない。


「……………必ず見つけてみせる」


諦めていない。

きっと見つかるはずだ。

諦められるわけがない。

まずは今、できることをしなければ。一手一手潰していけば自ずとユーアリティの居場所が知れるはず。まずこの後はケイバートが持ってくる情報の精査だ。恐らく彼は確信に近い情報を持ち帰るはず。

そこからユーアリティの行動範囲を導き出して…………そこまで考えた時。ふと思い出した。そう言えば、彼女は王立図書館に行っていたな………

彼女がそこまで調べていたものはなんだ?

そこまで考えて、すぐに思考の先を見つける。


ーーー紫の花だ


アヤナからファルシアにプレゼントされた、小さな花束。あれを見た時からユーアリティの行動は少しおかしかった。異常なほど花束を気にしていたのだ。

あの花は今、どこにある?ユーアリティが持参して行った可能性もあるが、もしかしたら自室に置いてあるかもしれない。

帰ったらまずあの花束について調べてみよう。何か分かるかもしれない。

今後の方針を明確に組み立てたファルシアは真っ直ぐと前を向いた。

もし彼女を失うことになったらーーー。


そう考えただけで恐ろしく、身動きが取れなくなる。だけど、今その考えは必要ない。なぜならユーアリティは必ずこの手に戻すからだ。必ず彼女を取り戻してみせる。だからもし、なんて言う過程は必要ない。

ファルシアは周りが思うよりもよっぽど豪胆で、そして敢然たる人物だった。

ルデンの王太子に相応しい判断力、決断力、思考力。それらを引き結んだ彼はユーアリティの失踪に取り乱したりはしなかった。それをするのは合理的ではないとわかっていたからだ。

押し寄せる焦燥と恐怖を呑み込み、それらを糧とするように行動に移す。

それがルデンの王太子、ファルシアという人間だった。


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