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女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです  作者: ごろごろみかん。
一章:疑念

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誘拐



どっ…………泥だらけ!?

思わす顔がひきつったけれど、しかしすぐさま男は家に入り込んでしまった。私、今そんなに顔泥だらけなのかしら………最悪の失態だわ………ありえない。

王太子妃としてありえない失態にずんと胃が重くなる。だけどここでは私が王太子妃と知るものはいない。それだけが唯一の救いだわ………

躊躇いはもちろんあったけど、しかしここまできて引くことは出来ない。私は男の後をついて家に乗り込んだ。

質素な木造り家は、手入れが何年もされていないのか歩くだけで廊下が軋んだ。


「俺は真っ直ぐ行ったとこの部屋にいるから、風呂上がったら来いよ。アンタの今後について話す必要があるだろ」


「…………そうね。ありがとう」


「いや?」


言うだけ言うと、男は廊下の奥の部屋に向かってしまった。………怪しい。

ここまでしてくれていること自体が怪しい。それにあの態度。なぜ彼は私に声をかけて家にあげ、さらには浴室まで貸してくれるのかしら?

何かあると疑ってしまうのは仕方ない。だけど万が一罠だとしても、進む以外の手段はない。いざとなったら私には魔法がある、唯一の爆弾手段を胸に、私は呼吸を整えた。

浴室にはシャワーしかなくて、かつ魔力を動力にして動くシンプルなものだった。いつも私が使う浴室とはもちろん雲泥の差だが、今は汚れを落とせるだけで御の字だ。

そのまま浴室から出ると、私は軽く髪を拭って彼の部屋に向かった。

脱衣所にはいつの間に用意されたのか、白いシャツとズボンがあった。………が、シャツはともかくズボンは入りそうにない。ウエストがゆるゆるだ。

男物のこれは、あの青年のものに違いないだろう。服がなくて貸してくれたってところかしら。

ありがたく使わせてもらおう。だけどズボンは無理ね………。

髪をゆってたリボンでウエストをぎゆっと絞る。そうすればなんとか、形上ズボンを履くことはできた。だけどこれだといつずり落ちるか分からないわ………

まあ、着ることができたのだしよしとしましょう。


私は廊下の奥の部屋の前に立つ。ノックをしようと手を上げて、少し躊躇する。本当に行っていいのかしら?

黙って逃げた方がいいのでは………。いえ、でもここは王都から離れてるしどうやって私一人で王宮に戻るというの。

この街の領主にでも訴えれば無事保護してくれるでしょうけど、醜聞は避けられない。

王宮での私の立ち位置がどうなってるかは分からないけれど、そう簡単に行方不明になったとはされていないだろう。

行方不明になったということは誘拐されたということ。それは国際問題になる。フェシーだったら体調不良あたりにしておきそうだわ。

………どっちにしろ、ここを出てもできることなどない。私は息を吸って覚悟を決めた。そしてこの後にとる方針も決めた。


「………入っていい?」


「どーぞ」


ぶっきらぼうに言われ、部屋を開ける。見知らぬ相手とはいえ、この青年はもう少し愛想を良くすることは出来ないのかしら。

そう思いつつも部屋を開けると、そこには本棚が沢山あった。壁の四方が本棚に覆われ、部屋の奥には椅子に腰かけてテーブルの上の書面に目を落とす青年がいた。

彼はこちらを向かない。


「泥だらけ何とかなった?お嬢さん」


「…………ええ、お陰様で」


やっぱりこの人、言い方に問題あると思うの。どうしてこう、刺すような言い方をしてくるのかしら。相手が私だから?貴族が嫌いなのかしら?

私は神妙に頷きながら入室する。そうすると、青年が指を指した。


「その椅子に座って」


彼がさした方には丸椅子が置いてあった。私は言う通りにその椅子に腰かける。


「さて、単刀直入に聞こうか。

アンタ、この国の王太子夫妻とあったことはあるか?」


「え………?」


青年に言われ思わず間の抜けた声が出てしまう。私の声を聞いて察しが悪いとでも言うのか、青年が僅かに眉を寄せた。

………なんというかこの人は、もう少し私に親切にしてくれてもいいんじゃないかしら。助けておいてもらって何をという感じだが、もう少し態度を柔軟化させてくれてもいいと思う。


「王太子夫妻にあったことは?」


「それは………アヤナ様とガレット王子のこと?」


「それ以外に誰がいる?」


それもそうだ。ここはビヴォアールの国。ルデンの王太子夫妻を指す意味が無い。私は神妙に頷きながら答えた。


「あるわ」


「どんなやつだった?」


「………おおらかで、柔らかい性格をされて」


「そういうことを聞いてるんじゃねえよ、アンタも分かってんだろ?」


溜息をつきながら男が答える。………そうよね。そりゃ、こんな曖昧な人柄聞いてどうするんだって感じよね。では何を知りたいのかしら………

押し黙る私に青年がため息をつく。


「はあ、まあいい。俺の名はグラン。で、これからアンタはどうしたい?というか、どうしてこんなところにいるんだ?」


男………グランはついに自己紹介した。本名かどうか分からないが、私も頷く。


「私はユー………ユーリ。訳あって誘拐されてしまったのだけど、幸運が重なって逃げることが出来たの。私………私は、花を探してるの」


「花ぁ?つかアンタ誘拐されたのかよ」


やっぱり面倒なもん拾っちまった、とグランが呟く。少しは気遣いという言葉を覚えて欲しい。だけどグランに助けられたのも事実だ。ここは黙っておくことにした。






今年中に完結目指します

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