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女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです  作者: ごろごろみかん。
一章:疑念

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ワケあり娘



御者のゔっ!という鈍い声が遠くに聞こえる。

だけどその声は爆破して転がる馬車の音に紛れて、聞き取りにくかった。

爆破した勢いで一気に外側まで吹き飛ばされた私は、なにかにしたたかにぶつかって動きをとめた。バギッ!というきつい音がして頭がガンガンと箱にぶつかる。めまいがするほどの衝撃だ。

何度も箱内でリバウンドした私はようやく動きをとめた箱の中で身動ぎした。なにかにぶつかった影響で木の箱が壊れかけている。これなら、と手に力を込めるとあっさりとぽきりと木の箱が壊れた。

晴れた空が目に入り、私は慌てて体を起こした。


「づっ…………!」


足首と肩に鈍い痛みを感じる。先程ぶつけたところだろう。咄嗟に肩をかばいながら辺りを、見回した。馬車は遠目にその骨組みだけが取り残されている。


御者は…………。もしかして死…………


思わず顔を青ざめさせながら周りを見れば、馬車から少し離れたところでうつ伏せ大の字で倒れてる男がいた。

きっとあれが御者だ。誘拐犯の片棒を担いた人間ではあるが、さすがに死なれては寝覚めが悪い。


触って生命の確認をしたいが、その時に気づかれても困る。ものすごく困る。彼が生きてることを願いながら私はそっとその場を離れた。ちらりと横を見ると大きな木がある。その幹が僅かに凹んでるところを見ると、おそらく木箱に入った私はここにぶつかったのだろう。どおりでものすごい音がしたわけだ。

私は足音を立てないように、だけどできるだけ早足でその場を立ち去った。


予想通りそこは山の麓で、周りには人っ子一人いない。このまま山に入るのは悪手だ。土地勘のない私は迷うだろうし、御者に仲間がいたら挟み撃ちで捕まる。

私は悩んだ末、街に降りることにした。

ここはどこなのだろう?王都からどれほど離れているのだろうか。

不安な気持ちは沢山あるけれど、踏み出さなければ進まない。私は留まりそうになる足を叱咤して街へと向かった。


しかし、いくら山の麓とはいえ、温室育ちの小娘が街まで歩けるはずがなかった。

ただでさえ歩き慣れない山道なのだ。やっと街の入口が目に入ったと思った頃には、もう足は棒のようになっていた。


(きつ!しんど……!!)


喉は乾くし足は痛いし足首も痛いし肩も痛いし、腰も痛い。

ああもう、ほとんど泣きそうだ。

取り柄は根性だけだと言うのに、その根性もおれかかっていた。

山道、舐めていたわ…………。


だけどこのまま倒れこむわけにもいかない。へたりこみそうになるのを必死でこらえて街の入口まで向かった。


「気合いだ〜〜〜!」


足が産まれたての子鹿のようになっているものの、止まっていられないので小声ではあるが喝を入れて足を動かした。

木のプレートがおもむろに土に差し込まれている。


プレートにかかれた文字は“リニア街”だった。

どうやらここは王都から少し離れているらしい。リニア街とはルデンにいた頃にうっすらと聞き及んでいる。

ビヴォアールの王都から離れた、第二の都市と言われている街だ。

これはあくまで私の目測だが、距離はおそらく半日馬でかけたくらい。馬車で移動していたのを考えると、私が連れ去られてから一日はゆうにたっていると考えていいだろう。


その時はっとした。そうだ、王宮は。フェシーはどうしているかしら。突然王太子妃が消えたとなれば大事どころの騒ぎではないはずだ。ただでさえ私はビヴォアールの人間ではなく、しかもルデンの王太子妃。

誘拐が公になったら国際問題になるのは避けられない。

ぐ、と奥歯をかみ締めてできるだけ早く帰ろうと気がせいた。

気持ちがはやったせいだろうか。自分の足に足をひっかけてしまい、そのまますっ転んでしまいそうになる。


「きゃ…………」


そのまま無様に転ぶかと思いきや、それは誰かの腕に強引に掴まれることによって防がれた。

その力強い腕の感触に条件反射で体がすくむ。


「…………大丈夫?」


聞こえた声は、見知らぬものだった。警戒心がぱっと高まり、慌ててそちらを振り向いた。それと同時に反射的に相手の手を振りほどく。


「あなたは…………」


見ると、そこには焦げ茶の髪にくるみ色の瞳をした素朴な男性が私を見ていた。一見してわかる。彼は平民だ。恐らくこの街に住んでいる人だろう。

私は慌てて頭を下げた。ここがどこかわからない以上、下手に出た方がいい。


「あっ、あの。すみません、わたく………私、どうやら迷ってしまったようで」


あながち嘘でも無い言葉を並べると、好奇心に充ちた視線が私を貫いた。

わけアリだとすぐ知れただろう。何せこの格好だ。私が今着てるのはルデンでも最高級品とされる布地に、そして緻密なレース。一般図書館に向かうためそこまで豪奢な服はきていない。それでも洗練されたデザインのドレスで高級品質であることは分かるだろう。


「…………ふうん、アンタわけアリか」


そしてドストレートに聞いてくる。

曖昧に頷きながら答えると目の前の青年は品定めするように私を見てきた。


「とりあえず、家にきな。アンタすごい格好だぞ」


言われて再度自分の服を見直す。

レースはちぎれ、ドレスはいつの間に破れたのか、太ももの辺りから大きく裂かれていた。

………大惨事である。



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