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女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです  作者: ごろごろみかん。
一章:疑念

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花束(3)



その言葉にはっとして顔を上げる。


いや、花は別にそこまで好きではない。

栞にするつもりもないわ。だってアヤナ様からのものだし。

あまり手元に置いておきたくない。


だけど唯一の手がかりだ。花もしおりも、というより彼女から貰ったものでしおりなんてとんでもない話だが、ここは合わせておいて損は無いだろう。

フェシーの“表面上は仲睦まじい夫婦”の演技に合わせるように私もフェシーの腕にぐっと手首を搦めた。


………というより私、ちゃっかりアヤナ様の花束を床にたたき落としたのよね………

彼女が突っ込まないわけ………ないわよね。

ちらりと彼女を見ると、屈辱だとでも思ったのか、ぷるぷると彼女の手が揺れていた。う、噴火五秒という感じだわ………


だけど叩き落としたのは完全に私が悪い。

お花に罪はない。


「信じられない!私の花を叩き落とすなんてっ………!」


「……ごめんなさい、アヤナ様。つい嫉妬してしまったの。アヤナ様にはガレット王子がいるはずなのに………私ったらつい勢い余ってフェシーに抱きついて(・・・・・)しまったの」


あれは抱きつくって言うより腕を叩き掴んだだけだが物は言いようである。私はそう言い、見せつけるようにフェシーの腕に体を押し付けた。私の意図を察してフェシーが私の腰にそっと腕を回す。きっと傍目には仲のいい夫婦に見える………はず。


「ユティ。勢い余ったとはいえ、気をつけなくちゃいけないよ?せっかくのアヤナ妃殿下の好意なのだから。アヤナ妃殿下。ごめんね、あなたの花束を落としてしまった」


続けて謝られたアヤナ様はぐっと息を呑み、言葉を探すように視線をさまよわせた。私たちに“勢い余って花束を落としてしまった”と言われればいくら彼女でも私が花束を叩き落とした!とは言えないのだろう。


アヤナ様は、フェシーが認めている以上騒ぐことは無理だと悟ったのか。

じりっとした焦がすような視線を私に向けてきた。わあ、情熱的。


「これでも私たちは新婚夫婦なんだ。同じく、結婚したばかりのアヤナ様やガレット王子も同様だと思うが………今は二人の時間が何より大切なときでね。私的な用件での訪問は控えてもらいたい、アヤナ様」


フェシーが穏やかな口調で言う。かなりギリギリの発言だと思う。私たちは友好を深めるという名目でビヴォアールに来ている。なのにその王太子妃との関係をたつような物言い。

ううーん、かなりギリギリだわ。ギリギリ………セーフ?これはアウトかしら。

だけど個人的にもアヤナ様は好きではない。

好き嫌いで判別する立場ではないが、彼女が王太子妃だというのはこの国の崩壊を意味すると思う。


………あまり親しくする必要は無い、と思う。それに私とフェシーが仲良いことに彼女は何も関係のない、はず。

自分で思考回路をうまく組み立てながら、ぐっとさらにフェシーに体を寄せた。見ようによっては少しやりすぎなくらいだが、やりすぎなくらいがちょうどいいという言葉もある。下手に程々にしておくと、私たちの仲を疑われかねない。

フェシーの言ったように熱々の新婚夫婦であればこれくらいは普通…………普通、のはず。周りに例がないからあくまで私の推測によるものだけど。


「私たち、結婚したのが同じくらいですわよね。子供が生まれるのも同じくらいだといいのだけど………もし子供が生まれたら。仲良くなれるかしら?」


にこりと微笑んでアヤナ様を見る。アヤナ様は怫然とした表情をしていた。


子供、それはまあ、そういう行為がないと当然できないものである。

フェシーに執着しているように感じるので、わかりやすく挑発してみると、やはりというべきか。

アヤナ様はその目に怒りをともした。

言葉にするなら完全に頭にきた、というところだろうか。だけど私の発言は何らおかしくないはず。とらえかたによっては友好的なものなはずだ。

私はそのまますり、とフェシーに擦り寄ると顔を上げた。


………視線が合わない。というより、フェシーは私の方を見ていなかった。顔をそむけられている。


「………ちょっと」


咎めるように言うと、フェシーがゆっくりとした動作でこちらを見た。

そんなに嫌だったのかしら?嫌かもしれないわね。彼は最初から拒否してるものね。でもこの時くらい合わせて欲しいわ。フェシーだって目的があってこの国にいるはずなのだから。


「…………うん、そうだね。もし子供が生まれたら………ね」


こっちを見たフェシーの表情は意外にもその目元が赤かった。………もしかして、照れてるの?いや、まさかね。

だけどその頬も僅かに赤いように見えて、それは私の勘違いなのか、それとも本当に頬が紅潮していたのか、どちらなのかは分からなかった。


「……………………して」


「え?」


「なんでもありません。そう、仲良いんですね。羨ましいな」


早口で、だけど無機質な声でアヤナ様がまくしたてた。



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