触れる熱
浴室から出るといつも待ち構えてるミアーネがいなかった。
フェシーがいるから自重したのだろう。
くっ………ここはいつも通りでもいいのに。嫌でも今日は一人ではないことを意識してしまう。
男慣れなんてもちろんしているわけが無い。
意識してしまうのは仕方ないことだと思うのよ。
………髪も濡れたままなのだけどこれは自分で乾かすしかないのかしら?
自分で髪を乾かしたことなんてもちろんだが、ない。
魔法で乾かすことはできるけどそこまで私は魔力のコントロールが上手な訳では無い。下手すれば自分の髪ごと燃える。
すっと目を細めて最悪の事態を想像する。魔力のコントロールがきかず髪の毛が燃え縮れる王太子妃なんて有り得ない……。
ミアーネったらなんで下がっちゃったのかしら。まだフェシーは戻ってないのだからいつも通りにしてくれればいいのに。
仕方なく私はタオルを自分の髪に巻き付けてそのままバスローブに着替えた。
夜着を見るけれどすっと視線をそらした。
「…………」
これ、本当に服なの?
服、というより紐?
誰が用意したのかしら?ビヴォアールの侍女の誰かだと思うのだけど、これを着て何をしろと?
ここは他国なんだけれど………。破廉恥極まりないと思うのは私がまだ未経験だから?
ピラピラした心もとない夜着はそのままに、私はバスローブ姿で脱衣部屋を出る。
仕方ないから今日はバスローブで寝るしかないだろう。
恐らくまだフェシーは戻ってないだろうし戻る前に寝た方がいいわね。下手に鉢合わせでもしたら面倒だ。
そう思って寝室の扉を開いた瞬間、ソファに座ってる人と目が合った。
「あ。上がった?」
「……………」
どーしてもう部屋に戻ってるのよ〜〜!
会場を後にしてからまだそんなに時間たってないわよ!?
今日の主役とも言える王太子が抜け出しちゃダメじゃない!
それはもう一人の主役の私にも言えることだがそれを棚に上げて私は内心言葉をぶつけた。
「随分お早いお戻りですのね」
「ユティ、敬語」
「今は二人きりですのに?」
「誰が聞いてるかもわからないし、こういうのは慣らしておかないといざとなった時でないだろう?」
「…………」
またしても言いくるめられてしまった。
私はそれには答えずにフェシーの前のソファに腰掛けた。
濡れた髪を後ろにかきあげ、フェシーと対峙する。
どうしようかしら………
予定ではフェシーが戻る前に就寝する計画だったのだけど。こうも早くフェシーが戻ってきてしまったためにその計画はあっけなく崩れた。
「ユティ、髪が濡れてるね。乾かしてないの?」
「…………今から乾かそうと思ってたの」
「そう。じゃあちょっとおいで」
「…………」
何をする気なの?思わず腰を引いて警戒する私に、フェシーが苦笑した。
ミアーネが部屋で待ってなかったのはフェシーがいたからだったのね。
いくらミアーネでもフェシーと二人きりは気まずかったのだろう。それか余計な気を回したか。絶対後者ね。
ミアーネのあの喜びようを見れば否定することは出来ないけれど、だけどその気遣いが苦しい。
私とフェシーはそんな仲じゃないというのに。
「大丈夫、髪を乾かすだけだよ」
フェシーは魔術師の称号を配してるくらいには魔術に秀でている。彼の力を持ってすれば髪を乾かすのは一瞬ですむだろう。タオルでゴシゴシふくよりよっぽど早い。
少し迷いながらも私は腰を浮かせてフェシーの元に歩み寄った。
彼の近くで立ち止まり、どうすればいいかわからず彼を見る。
「ほら、おいで」
「えっ………きゃあ!?」
ぐっと右腕をひかれて突然のことにバランスを崩す。そのまま私はフェシーの腕の中に飛び込む羽目になり、彼の足の間に膝を着いた。
「はい、こっち向いて」
「あ、あのっ!?何をされるの!?」
「何って、髪を乾かすんでしょ。早く乾かさないと風邪ひくよ」
それはそうだけど何もこんな体勢にならなくてもいいのではなくて!?と思う私である。
くるりと肩を掴まれてそのままひっくり返される。
私の背中にフェシーの胸が当たり、その体温をうっすら感じる。
(今日は……一緒の部屋で寝る)
なぜかこのタイミングでそれを思い返してしまう。
ばか!
私の意思とは別に心臓がドクドクと大きくなった。緊張で体もぴんと糸を張ったように張り詰めてしまう。
呼吸がなんだか苦しくて身動きが取れない。後ろを振り向けない私に対し、そっとフェシーの手が私の首筋に触れた。
「ひゃ!?」
「わ……ごめん」
驚いたように謝られる。
は、恥ずかしい何今の声!
なんともいたたまれなくて私は身をよじった。
「あの!何をなさるの!?髪を乾かしてくださるなら魔法で………っ」
「他国で簡単に魔法を使うわけにはいかないよ」
落ち着いた声でフェシーが答える。その穏やかな声に一瞬我に返るも、だけどこの距離の近さにまたしても思考回路が不安定になる。




