どきどき同衾問題
夜会もそこそこに私は抜けると、そのまま部屋に戻った。
ファルシア殿下改めてフェシーのことは知らない。
もう充分仲良しこよしはやってきたので一人で戻っても問題ないだろう。
疲れたので部屋で休むことを侍従に言付け、私は部屋に戻った。
部屋に戻るとミアーネがお湯の準備をしてくれていた。
「うふふふ、二人きりだからといって羽目を外しすぎてはいけませんわよ、ユーリ様!」
「はあ?何の話を……」
「隠さなくてもいいのですよ、私はユーリ様が小さい時から仕えていたのですから。今宵が、二人の初夜になるのでしょう………?」
ミアーネの隠しきれない好奇心の瞳に晒されて思わずむせてしまった。ごほっと咳をこぼすと、ミアーネが訳知り顔で見てくる。
しょしょしょしょ、初夜って………!そんな可愛いもんじゃないわよ!だいたい私たちが同室なのだって納得がいかないわ。夫婦とはいえ他国なのよ!?節度を持って別室………なのは………やっぱりおかしいわよね…………。
だけどあの人と同室なんて考えただけで胃が絞られるようだ。何も手につかない。正直に言って落ち着かない。
「………あのね、フェシーとは本当にそんなんじゃ」
「愛称で呼ばれてるのですね!?」
「ぐっ」
つい、すっかり呼びなれてしまいフェシーと口にすればますますミアーネが詰め寄ってきた。
その距離の近さに思わずしり込みする。なんだって言うのよ………!
ミアーネはニヤニヤ顔を隠さずに私を見ると、一人で納得し始めてしまった。
「ふふふ、やっぱり。やっぱり私はこうなると思っていたんですよ。ユーリ様は美しいし、性格はちょっと………難アリかもしれないけれど。でも」
難アリって言ったわね、今。
思わず胡乱げに見てしまうがミアーネはそれには構わず新愛をこめた目で私を見てきた。
「憎めない性格をしていますもの」
「…………」
それは……褒められているのかしら?
素直に喜んでいいとは思えない言葉に私は押し黙った。私が小さい時から世話をしてくれているミアーネだからこそ許される暴言だ。
本人は暴言の自覚がないのか、それとも本心で言っているのか………うーん。後者な気がする………。
「実は私、ユーリ様がルデンの王太子妃になると聞いた時不安だったんです」
「え………?」
「ルデンは大国ですが、これは紛れもない政略結婚です。これでユーリ様が幸せになれるのかと………ユーリ様は幸せになれるのかと考えました」
「ミアーネ………」
思わぬ彼女の言葉に思わず目を丸くしてしまう。新鮮な気持ちだった。ミアーネはいつも朗らかに笑っている。そんな彼女がこんな思いを抱いているとは知らなかった。
なんだかじんと胸の奥があたたかくなる。しんみりとした感情を覚えながらも私はミアーネを見つめた。
「ユーリ様は昔から恋愛結婚を夢みていらっしゃったでしょう?」
「……そうね、でも昔の話だわ」
「ええ、でも………だからこそ私はユーリ様に幸せになって欲しかった。………だから、私は今とても嬉しいのです。最初はどうなることかと思いましたけど、ファルシア殿下と仲睦まじくしてらっしゃって…………モンテナスの王妃様も、国王陛下も知られればきっと喜ばれます。最後まで心配されていたのはあの方たちでしたから」
「……そうなの。ま、でも心配されなくても私は勝手に幸せになるわよ?」
お父様やお母様。2人が私の結婚をよく思っていないのは雰囲気で感じとれた。
だけど大国ルデンの手前下手なことも言えず、私を送り出したことも知っていた。
二人の思いを知り、くすぐったい気分になるがもう少し娘を信頼して欲しい。私は勝手に幸せになるタイプの人間だもの。
フェシーとの関係は見せ掛け、嘘、打算的な関係。
彼と愛なんて育んでいない。
だけど、だからといって不幸か?と聞かれたら私は不幸じゃない。幸か不幸か、なんて自分で決めるものだし。
それに幸せは自分で掴むものだ。
与えられるのを待つだけの人生なんてまっぴらごめん。
(恋が足りていなくても、満ち足りた人生を生きてみようじゃないの!)
それで老後はエッセイを出すのだ。
恋愛をせずとも幸せになれた女の体験記、と銘打ってね!
私はミアーネにそう言いたかったが、しかしこんなに喜んでいる彼女に夫婦の真相など打ち明けられない。
フェシーの承諾も得ていないしね。
ミアーネの前では黙ってようと私は決めた。
その夜。私は新たな問題を抱えていた。
それはベッドどうしよう問題である。私は部屋に戻るとそうそうにお湯を張った。湯船にゆっくりと浸かりながら今夜のことを考える。
普通に考えて…………同衾は無理、よね。
私がいいとしても問題は彼だわ。
私と、と言うより女性と同じベッドなんて耐えられないんじゃないかしら。
そうなると私がソファで寝るしかない?
仮にもルデンの王太子をソファでなんて寝かせられないわ。
ソファとはいえ他国の王族に用意された部屋である。寝心地はそんなに悪くないだろう。だけどどうしても体はこってしまうかもしれない。明日は体の節々が痛むかもしれないわね…………
そう計算しながら私は湯船から上がった。本当はゆっくり浸かりたかったけれど長く浸かってフェシーと鉢合わせるのは避けたい。同室である以上仕方ないが、同じ部屋で寝泊まりするというのは思った以上に緊張した。




