元婚約者
私たちはいったん客室に案内されることになった。
ぴったりと夫の隣をアヤナ様が。
自国ということで気も大きくなっているということね。
(うーん。………あまり面白くない光景だわ)
恋愛感情抜きにしても、彼は立場上私の夫であるはずなのだけど。
当然のようにアヤナ様が隣を歩くので、もはや二人が夫婦のようにすら見える。
ちらりとガレット王子を見ると、彼はとろける目でアヤナ様をみたり、前を向いたりで忙しかった。その様子にもはやため息が出てくる。
周囲の心の声が聞こえてくるようだわ……!
(曰く、ルデンの王太子夫妻かと思ったら、王太子殿下とアヤナ様だった、というような声が!)
驚いたように見、その後困惑したような、あるいは嫌悪するような視線を向けられるのだから。
その視線の先はアヤナ様なので、アヤナ様は女性に覚えが悪いのかもしれない。
今回はビヴォアールの内情を知るための公務。
私が派手に動くわけにもいかないし……いかないわよね?
だめよね?
困ったわ。夫の行動思考が読めないからどう動けばいいか分からないし。
彼はそばに居るようにとしか言わなかった。
「ファルシア王子は何が好きなんですか?」
「ルデンが好きだよ」
「ルデンのどこが好きなんですか?」
「礼儀が行き届いているところかな」
「ふふ、面白いですね!」
聞こえてきた会話に思わずなんとも言えない感想を覚える。
それ、貴方は全く礼儀が行き届いてないねっていう遠回しな意思表示だと思うの。
間髪を容れずに答える夫にアヤナ様がコロコロと笑う。
すごい、こんな感情の無い言葉を貰ってもまだ話しかけるアヤナ様の精神力がすごい。こらえてないのかしら?
「ファルシア王子はユーアリティ様が好きですかっ?」
その時、間髪を容れずに答えていた夫が一瞬躊躇した。
だけどすぐに先程の声音で答える。
「愛してるよ。ユティのことは」
「………え」
(ひゃあ)
躊躇いない言葉に内心ちょっとそわそわする。聞きなれない言葉なだけに。
しかし、声を出したのは私ではなく、アヤナ様だった。
アヤナ様は意外な返答だったのか、完全に口を閉ざしてしまう。
目が合うと面倒そうな(巻き込まれそうな)予感しかしないので私は素知らぬ顔をしておいた。幸い、聞こえなかった、と言っても通じるような距離感と声の大きさだったので。
夫の発言が本当かどうかはわからないが、状況的に考えると一時しのぎだろう。
臨機応変に、って?
ここで好きじゃないなんて答えられるわけがないものね。
「…………あの〜。えぇとぉ。例えば、どこを?」
やや間を開けてから、動揺を隠しきれない様子でアヤナ様が夫に問いかけた。
……あまりその話は広げないで欲しい。
下手したらボロが出る。
夫だって私の好きなところなんてすぐ出てくるわけないと言うのに。
なんて答えるのかしら………
興味半分、心配半分でそっとそちらを伺う。
「いやあ!アヤナは今日も可愛いなぁ!」
うるさいな!少し静かにしてくれないかしらね!
(無難に顔?うーん……美人に顔が好き、と言われても……)
では、性格?
いや、性格を好きと言ってもらえるほど私性格よくないわ……。
スタイル?
………ちょっと、喜ぶべきなのか怒るべきなのか分からないのでナシで!
だ、だめだわ。思いつかない。
よし、ここは夫がなんと答えても私は怒らないようにしよう。
気になったが、しかしその回答を聞くことは出来なかった。なぜなら。
「あ、そうだ。ユーアリティ様は私の知り合いに少し似ていますね?」
ガレット王子が突然私に話を振ってきたからだ。
(タッ……タイミング〜〜!!)
思わず呻いてしまいそうになったが、仕方ない。
こうなったらこっちも会話をしなければ。うーん、気になる。
なんて答えたのかしら………
私は頭を回転させながらガレット王子に微笑んだ。
「知り合いですか?」
「ええ、私の元婚約者の…………と、すまない。こういった話はこの場では不向きでしたね」
さすがに話し相手と場所を考えてくださいとしか言えないのだけど?
というかこれ、あれよね。
詮索してくださいと言っているようなものよね?
これは計算?それとも無意識………?
しかしビヴォアールの内情を知るためにこの公務は組まれた。
せっかく糸口を向こうから垂らしてくれたのだ。
聞くしかないわよね!
「元婚約者、と仰ると公爵令嬢の?」
淑女が噂話に首を突っ込むのは褒められたことではない。
が、これは世間話の範疇よね。ええ!
私が聞くと、ガレット王子が忌々しそうに眉をひそめた。その鮮烈な赤髪と相まってキツい印象を受ける。
「…………元、公爵令嬢ですよ」
吐き捨てるように言われ、ちらりとアヤナ様を見た。二人は未だ話し込んでいるらしい。アヤナ様がこちらを見る様子は………ない。
少しつっこんで聞いてみてもいいかしら?危険?
でも少しくらいなら探っても問題ないだろう。
「美しい方だとお伺いしましたわ、名前はたしか…………ディアーゼ・ミッシェルフォン………だったかしら」




