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女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです  作者: ごろごろみかん。
一章:疑念

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魔力脱汗症



夫の声がどこか遠く、膜を張ったようにぼやけて聞こえる。ライドと呼ばれた彼は確か夫の近衛の一人だった気がする。腕がたつとかでミアーネが話していたような………。

そのまま目を開けているのがきつくなった私はそのまま目を伏せた。明るい光が視界に入り込んできて気分が悪い。頭がぐわんぐわんと揺れるし、胃が絞られるように痛い。


「……………寒い」


最後に呟いた言葉はそんなものだった。




×××



「ユーアリティ様付きの侍女、ミアーネと申します」


すっかり意識を失ってしまったユーアリティを抱きとめていると、呼ばれたのだろう。

ミアーネと呼ばれた侍女が姿を現した。

ファルシアはユーアリティを抱え直すとミアーネを見た。

彼女は心配そうにユーアリティを見ている。

周りにはファルシアの近衛騎士であるライドもいる。本来であればライドにユーアリティを任せるべきなのだろうが、ファルシアはこのままユーアリティを彼に任せたくはなかった。

王太子が妃を放り出すのも外聞が悪い。

とにかく今は非常事態である。


早くユーアリティをベッドに入れなくてはならない。

抱いた体は熱く、発汗している。


「ユティが熱を出したようだ。すぐに部屋を用意して欲しい」


「そちらは既に準備済みでございます。医師ももう少しで到着するかと」


「分かった」


ミアーネの言葉に返しながらユーアリティを抱いて部屋に向かう。庭園を横切り、王宮に入る。

どこか昨日の夜と既視感を覚える。昨日の夜と違うのはファルシアがユーアリティを抱き上げていて、かつユーアリティの意識がないことだ。


ファルシアはちらりとユーアリティを見た。ユーアリティの顔は赤く、その額は汗で濡れている。前髪が濡れた額についていて、なんともなしにファルシアはユーアリティの前髪を払った。


……ユーアリティに拒否反応が出ないのはもう既に知っていた。その理由は不明だ。

でも、だからこそ。拒否反応が出ないユーアリティだからこそ。嫌悪感を抱かない彼女だからこそ。

もしかしたら、このまま上手くいくかもしれない。

そんな希望を抱いたのである。


ファルシアがユーアリティに拒否反応が出ないと気づいたのはごく最近の話だ。

それも昨日の昼のこと。

転びかけたアヤナに巻き込まれユーアリティがファルシアにぶつかった時のことだ。


ユーアリティの腰に手が触れた。

だけどファルシアに拒絶反応は出なかった。

動悸は早くならず、冷や汗も出なかった。何よりぶるりとした悪寒が走らなかった。

それだけにファルシアは驚いたのである。自分の体質が、ユーアリティに反応しなかったことに。


今も全く拒否反応は出ない。むしろ、このまま触れていたいという思いすらある。


自分の中で、ユーアリティ・ルデンという女は不明、未知数、気味の悪い存在、ではなく、身近の人間として受け入れつつあったのだ。

ファルシアはそのまま、ユーアリティを王宮の中に運び込む。


「殿下、私が替わります。殿下は来賓のご準備に………」


「構わない、ほとんど終わっている。ユティは私が運ぶよ」


「………さようでございますか。かしこまりました」


ファルシアが答えるとそれきりライドは何も言わなかった。ファルシアの後をミアーネ、ライドが続く。部屋にはもう医師が到着しているだろう。


結局、ユーアリティの急な発熱の原因は魔力脱汗症(だっかんしょう)と判明した。


魔力脱汗症とは、精神が疲弊して免疫が落ちている時にウィルスが体内に入り込み、体内で炎症が起きている状態。

魔力不足と風邪が重複した状態のことを指す。

この2つが重なるのは非常に厄介で、風邪が治らなければ魔力生成が出来ず、風邪を治すためには魔力と免疫を元の状態まで戻さなければならない。

だけど魔力を戻すためには風邪を治さなくてはならない。


鳥が先か卵が先かという治癒方法しかない。

たっぷり一週間ほど休養を取れば落ち着く病だが、ユーアリティは王太子妃である。そんなに長く休むことは出来ない。

医師からは薬を処方されたが、気休めにしかならないだろう。風邪薬を飲んでも魔力が戻っていなければ炎症は収まらない。

魔力と免疫、両方を高めなければ完治には至らないのだ。


「緊張と疲労………か」


医師の判断を受けたファルシアは小さく呟き、そしてミアーネ達周りの者に言った。


「少し二人きりにさせてくれないか。マルトン医師、ユティの看病に必要なものは?」


「え、ええ………熱冷ましの濡れた布と水差しに………ああ、口内が乾いているようでしたら水を飲ませてください。汗が出たら乾いた布で拭き取り、体を冷やさないように………」


ファルシアの突然の申し出に医師は目を白黒させていたが、そこは医師らしくしっかりと答えていく。内容を聞いたファルシアはひとつ頷き、後ろに控えていたライドに声をかけた。


「三十分したら呼びに来てくれ」


「かしこまりました」


ファルシアとユーアリティは夫婦である。未婚の男女であれば二人きりになるのは眉をひそめられるものだが、二人は婚姻済みなので問題ない。だけど二人の関係性はとても夫婦とは言えず、それこそ婚約者未満の関係のように思える。




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