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花壇に埋まる王太子妃


「えっ!?何でユ……ユティ?様が?」


そして開口一番ご挨拶である。

ここは王家の庭なのだが、彼女は自分がどこにいるかわかっていないのだろうか?

というか私、愛称で呼ぶことを許した覚えは無いのだけど〜?

本当にこちらのペースを崩すのが上手なひとだ。


そんなことを考えながらアヤナ様を見ていると、彼女はむくりと立ち上がって私から隣に立つ夫へと視線を流した。

そして


「ファルシア王子………!」


と嬉しそうに声を上げる。


(……殿下は苦手のようだけど、アヤナ様は殿下が好きみたい?)


いやいや、好きみたい?じゃダメでしょう。

ガレット王子はどうしたの。

というか、仮にも?正妻の前で堂々アプローチとはいい度胸すぎる。

喧嘩売ってるとしか思えない。


他国の王太子(妻帯者)に他国の王太子妃がアプローチとかどこの小説かしら。

ドロドロもいいところである。

私、そういうの求めてないのよね。


ビヴォアール王太子夫妻はドロドロ恋愛関係の果てに結ばれたと耳に聞いているが、それに私たちを巻き込まないでほしい。


声をかけられた?名を呼ばれた?夫はちらりとアヤナ様を見たが返事はしなかった。無視。

それはそれでいいのだろうかと取りなすように私が声をかけた時だった。


「アヤナ様、一体どうして」


あっ、という小さな声と共にアヤナ様の体が傾いだ。

咄嗟に手をさし伸ばすとなぜかがっちりホールドされ、またしても私とアヤナ様が転倒した。


「きゃっ………」


そして崩れ落ちた先は最悪にも程がある。花壇と花壇の隙間に頭から突っ込んだ。


(いっ…………)


バキバキッという悲惨な音が耳元でする。

アヤナ様の体重を私が支えられる訳もなく、私は頭から花々のあいだに突っ込んだ。


バキャッ、ゴッ。


バキャッという音は枝が折れた音だろう。ゴッという音は私が膝を花壇にぶつけたからである。


(いたああああい!!)


ものすごく痛い。何が痛いって膝がものすごく痛いわ………!!

じーん、と響く痛みに思わず震えた。しかし私の顔、というより上半身は植え込みの中なので見られることは無い。無様すぎる。どうして。


「きゃあああ!すみません、ユッ………ユリー様が埋まった!」


埋まってないわよ!!

というか名前!名前違うから!!

もしかしてさっきの愛称もよく分からなくて口にしたって言うやつなのかしら!?ありうる!


しかし植え込みに顔が埋まったままでは口を開けない。

開けば最後、土が口の中に入り込むだろう。悲しい運命を前に私はただそのまますっ転んだ状態を維持するしかなかった。


下手に手をついたり動くと、余計最悪な状況になりそうだからだ。ちなみにアヤナ様は私を巻き込んで倒れたものの私という肉のクッションがあったおかげか大した怪我はなさそうだ。

というより私の背中に倒れてきたので怪我する余地がないと思う。それにたいして私は…………考えたくないが頬に擦り傷などもできているような気がして顔が真っ青になった。


顔に傷を作るなんてとんでもないわ…………

絶対にそんなことにはなりたくない。が、こればかりはもう祈るしかない。せめて顔には傷がありませんようにせめて顔には傷がありませんように………!


そう思いつつも私の頭は花壇の中である。


「あああどうしましょう、ユ……ユーアリー様が花壇から生えてしまった………!」


生えてもないわよ!?

というか名前がもはや原型を留めていない!


しかしいつまでもこうしていては仕方ない。ため息をついて体を起こそうとした、が嫌な音がした。

ビリッ、という、そう………何かが裂ける音…………。


……尊くも麗しきアプロディーテー様。

本日の私は、厄日というものなのでしょうか……?


そこまで信仰心深くないが、思わず空を仰ぎたくなった。


空は真っ暗で仰いでも見えるのは星空のみだけど。

しかもこの状況では仰ぐことすら出来ないが思わず独白してしまう。

私、こんなことになるくらい何か悪いことしたかしら…………?覚えがない。

しかしいつまでも現実逃避をしている場合でもない。ガシッとアヤナ様の手が私の太ももを無遠慮に掴んで全ての感情が吹っ飛んだ。


「きゃあああああ!?」


「ごめんなさい、ユー………ユーティ様!今引っこ抜きますので!」


私は大根かなにかなのかしら!?

大きなカブかなにか!?

というか無断で太ももに触れるなんて信じられなさすぎていっその事突っ伏したくなった。

足をじたばたさせようか迷ったが、しかし相手は仮にも腐っても一国の王太子妃。下手に蹴りつけるわけには………ううっ!

深い葛藤に襲われた時だった。


「アヤナ様、手を離してくれますか?ユーアリティ、大丈夫?体、起こせるかな」


「殿下!」


植え込みから返事が聞こえるのはものすごく滑稽だろう。

第三者視点を想像するとやっぱり耐えられなくなる。

もういっそ下半身もこのまま植え込みに埋まりたい気分だ。いっそ隠れたい。

中途半端だからこそより恥ずかしいのだわ…………だって今の私、絶対マヌケだもの。絵面が。


「ごめんね、少し触れるよ」


夫の声が聞こえたかと思いきや、ガサリと枝が揺れた。えっ、えっ、何してるのかしら………?





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