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折衷案


「ファルシア王子っ!」


アヤナ様が夫を見つけて一目散にかけてきた。


(!?!?)


その様子もさながらだが、私のことは全く視界に入っていないらしい。その姿勢に思わず感服してしまう。

王太子妃……なのよ……ね?

存在自体をスルーされた私はアヤナ様に声をかけるべきなのだろうか。しかし、声をかけるのも牽制と思われそうだし。

声をかけずにいたら礼をかいたことになりそう……。

悩んでいるうちに、殿下が冷たい声を出してアヤナ様と対面していた。


「こんばんは。何か用でも?」


「私たち、明日も滞在していたいんです。国同士の親交のためにももっとお話をするべきではありませんか………?」


(それ!さっきの!お茶会!そのためにあったのだけど!?)


もーなんなのよ。二度手間じゃない?

さっきの時間はなんのためにあったのよ。

やさぐれたくなってくる。


アヤナ様は置いておくとして──ガレット王子。

彼だ。彼も何を考えているのだろう?

時刻はもう人と会うには失礼とされる時間帯だし、これは他国であろうと変わりはないだろう。きっと。


というか、そうだわ。

ビヴォアールの王太子夫妻が来るって聞いてひととおりビヴォアールのマナーには目を通したけれど、アポイントメントなしの訪れも、夜半時に会うことも礼儀とは書かれていなかったわ!!


(じゃあやっぱりマナー違反はアヤナ様たち?というか本当に何しに来たの……)


私がそんなことを考えていると、夫が首を傾げた。しかし彼は無表情だ。無表情のまま首を傾げるということがこんなに気味悪いものだと思わなかった。


「明日?公務はよろしいのでしょうか?」


「そんなのなんとだってなるわ!ねえ、ガレット」


「え!?う、うーん。うん、まあなんとかなるだろう。だからダメか?ファルシア王子」


なにが『だから』に繋がるのかよく分からない。

と、いうより彼らは他国に滞在しているということを忘れているのだろうか。

ここはあなた方の国ではないのですけれど………?


(自由すぎるわ〜!!)


モンテナス王国の王族として生まれたのなら間違いなくすぐさまマナー講師に叱られ、お説教2時間コースは難くない。

誰か注意する人はいないのだろうか……?

私がする……!?でも殿下は今のところ待ち?特に行動しない、という姿勢のようだし。私が先走るのも……


夫はどう答えるのだろうと視線を向ければ、不意に彼と視線が重なった。不意のことに少し驚く。なんというかいつも突然すぎてこの男は心臓に悪い。

ウィンドウショッピングをしていたらショーウィンドウに飾られていたビスクドールが突然こちらを向いたのと同じくらいびっくりする。


「しかし長く自国を離れるのも疲れるんじゃない?それに、周囲への影響も気になるところだし。ねえ、ユーアリティ、君はどう思う?」


(えっ。ここで私に振るの!?ここは……自由に発言していいところなのかしら?)


思わず殿下を見る目が強くなったが、しかしやはり彼が何を考えているのか分からない。

夫の言葉を受け、アヤナ様がすぐさま言葉を返した。

私が意見するタイミングは失われた。


「私なら大丈夫です!むしろたまには自国を離れてリフレッシュ?気分転換?しないと!ずぅっと執務室になんかこもっていたら病気になっちゃいます!国民も、私たちが幸せであることが誇りで、幸福なのですから!誰も咎めはしません。私たちが法であり、国なのですから!私たちが好きなようにすることを喜ばしく思う人はあれど、それを拒否する人なんてビヴォアールにはいないんですよ?」


「……………」


(……えっと、あの、このひとは女神なのかしら?)


美を競ってトロイア戦争を引き起こした三女神のごとく自由気ままなその言葉に何度も瞬きを繰り返した。

ファルシア殿下はその間も変わらず無表情ではあったが、私をちらりと見ると、微笑んだ。

まるで私を安心させるような笑みだが、なんの意味があるかわからず少し怖い。


「私には女性の体力を推し量ることはできない。中には繊細な貴婦人だっているし、タフな令嬢だっている。同性であるユーアリティなら、私より彼女のことが分かると思ったんだけど…………。どうする?ユーアリティ」


ファルシア殿下、アヤナ様の発言は一切ノーコメント。

まあそれが無難よね。


夫の声に彼だけでなくガレット王子の視線まで集まった。

そしてアヤナ様も私のことを強い目で見る。


三人の視線を受けた私は少し困った。

私が決めろってことよね?

私が決めてしまってもいいものなのかしら?


殿下がビヴォアールと付き合いを切るというのであればこのままふたりを追い返すのがベストだろう。

だけど彼のこの様子では少なくとも関係を切りたいようには見えない。

というか、陛下の意見も聞かなければならないわよね?独断で動くには早急すぎる。

私は言葉を探して、ゆっくり口を開いた。


「では、午前中のお食事は一緒にいかがですか?アヤナ様のお体も心配ですしお昼で帰国……というのはいかがかしら?」


私が提案すると、アヤナ様は分かりやすくも嫌そうな顔をした。

なんでよ!何が不満なの!夜までいたかったのかしら!?


それに対し、ガレット王子は数回頷いてみせた。

妥協点………なのかしらね?


ちらりと夫を見ると、彼も口元に笑みを浮かべていた。

分からない、けど……………合格、でいいのかしら?

わかりにくい夫である。

点数とか出して欲しい。いや、低かったら腹が立ちそうなので点数表示式はなしで。


付き合いが浅いせいで彼の考えていることがわからない。


「では、そうしよう。それでいいか、ガレット王子?」


「ええ、お気遣い感謝します。俺もアヤナの体調が心配だったんだ………彼女は体が弱いから」


なのにもう一泊したいって駄々こねたのか。

ルデンで体調崩されたら困る。早く帰ってください。


「ガレット、私大丈夫よ………!?昼までじゃなく、夜までいたって………」


「何か起きてからでは遅い。ご理解いただきたい、アヤナ妃殿下(・・・)


夫が不意にアヤナ様に言った。今までアヤナ様呼びだったのにいきなり妃殿下と呼んだのは彼女の立場を分からせるためなのだろうか?それとも何か………。

考えたってわかるはずがない。そうそうに私は考えることを放棄し、明日に備えることにした。

夫に促され、アヤナ様とガレット王子が王太子夫妻の部屋から出ていく。

なんだか嵐が去ったような気分だわ………。今のでどっと疲れた。

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